オーディオ 試行記録

多くの個人プログやネット記事に助けられました。私の経験を還元したくです。

スティック型DAC AK HC2 でハイレゾストリーミングを気軽に聴く

スティック型DAC、流行ってますね。

気になってはいるけど買う前の方、買ってみて他のオーディオ機器にも興味を持たれた方などの参考にしていただけるよう、既に散財している者から見たスティック型DACという視点で記したいと思います。

既に買われた方は突然の最大音量再生で耳を傷める事故を避けるためにご一読いただければと思います。

購入動機

購入される方の多くが「スマホハイレゾストリーミング」目的ではないでしょうか。スマホで音楽を楽しむデバイスの主流がワイヤレスイヤホンとなったいま、わざわざ有線のイヤホンを選ぶ理由は限られます。

そんな限られた方々を更に分けると2タイプ、ステップアップ組とダウングレード組に分けられるのではないかと思います。私の購入動機は後者ですが、当然ですが昔は初心者でしたので前者の気持ちも察します。ステップアップを狙っている方の視点もできるだけ織り交ぜたいと思います。

ステップアップ組

2021年6月 Apple Music でハイレゾロスレスが配信開始されました。なんと、追加料金なしでした。それまで Apple Music を楽しんでいた方は、アプリの設定を変えるだけでハイレゾロスレスを楽しめます。先にハイレゾを配信していた Amazon Music HD も急遽料金をゼロにするという改定を行いましたね。ハイレゾを付加価値として捉えていた私にとって無償は衝撃的でしたし、アーティストが心配でもありました。

従前からの Apple Music で十分な満足を得られていた方にとっては、ある日突然 Apple から「今まであなたの聴いていた音楽の音質は十分良いと言ってきましたが、本当はソコソコでした。今日からアーティストが創った本来の音質でお届けします。アプリの設定を変えれば聴けますので興味がある方はどうぞ。無料です。」と手のひら返しをされたことになります。折角だから試しに聴いてみるかと思う方がいらっしゃって当然です。

しかし、そこに「外部機器か必要」という残念な壁が立ちはだかります。イヤホンジャックを廃止し、AirPods を販売して「これで充分いい音だよ。有線から解放されよう。」という提案をAppleはしていました。「それもアリだな」と受け止めていた方にとっては今更有線イヤホンに戻るのかという感が強いです。興味が出たついでにネット記事を検索すれば「DAC とイヤホンを買えば OK。良い音だと実感するよ。」と書いてある。紹介されているデバイスの値段を見るとピンキリ。AirPods が二つも三つも買えるようなお金を払って聴いたこともないハイレゾロスレスを試す。なかなかに厳しいです。

ダウングレード組

据え置きやキャリアブル環境であれば、ストリーミングであっても創意工夫を施し自分なりに満足できる音質で聴けるようにできます。私もそうしてきました。しかし、ポータブル環境だと気軽に満足する音質では聴けません。購入した音源であれば、優秀な DAPスマホ+ポタアンで実現ができます。かくいう私も DAP やポタアンをいくつも買い変え「これは素晴らしい」と思える機種を手にしてきました。これが、ハイレゾストリーミングとなると途端に辿り着けなくなります。Amazon Music ならピットパーフェクトや快適なUIを捨てて Android DAPApple Music なら携帯性を捨てて iPhone + ポタアン。どちらを選んでも納得いく環境ではなく妥協です。だったら割り切って「ポータブル環境で満足を得ることは諦めよう。ソコソコでいいや。カジュアルにソコソコの音で。」となり、無理して投資せず安上がりに済ます方向へと考え方が変わります。

どちらのアプローチでもスティック型DAC

馴染んだワイヤレスから得体の知れないハイレゾへ初投資。散財をしてきた者がカジュアルに安くソコソコの音で。コンパクトで廉価なスティック型 DAC どちらの人にもは良き選択となりそうです。

わたしの経験的には、少しずつ音質が上がっても感動が薄いのでステップアップの方にはいきなりガツンと 10万前後の再生機器に同じく 10万前後の大きめのヘッドフォンで普段聞き慣れた曲のハイレゾ版で楽しんでいただきたいなとは思います。友人やショップなど試聴する機会が作れそうでしたら是非。

AK HC2

多くのスティック型DACが発売される中で、考え抜いて AK HC2を選んだわけではありませんでした。スティック型DAC自体の購入が初めてであり、最初から多くを期待していませんでしたので悩みもしませんでした。しかし、ほぼ「他機種を選択することはない」というぐらい私にとって良い選択ではありました。

スティック型DAC の前提と制約

小型で取り回しが良く比較的廉価。究極的にはスマホに差すイヤホンの有線ケーブルが少し延長しただけという外見が理想となる機器です。その前提となるニーズ故に以下のような制約のなかで製品は開発されます。

  • スマホの電池から供給される電力だけで動作させる。電力消費を抑える。
  • 小型の部品を選ぶ。部品点数を減らす。製品の大きさを徹底的に小さくする。

この二点の制約とハイレゾにふさわしい音質との狭間で生み出されるのがスティック型 DACです。ですので製品の性能やサイズは似通ってきます。低消費電力で音質も割と良くサイズの小さい部品なら、シーラスロジック社ならこれ、ESS 社ならこれといった具合です。また、部品を組み合わせた回路で音質に差をつけることはできますが、もともと製品サイズを小さくするため部品点数が最小で済むよう設計されているため、音質向上策も限られますし、何よりも部品を増やし製品サイズを大きくしては本末転倒です。

以上のような前提と制約により、「この価格でこんなにいい音が !」というものは望めないでしょうし、逆にオーディオ機器の設計を続けているメーカー、特に小型化の必要なDAPを設計しているメーカーが気を衒わずに作ってさえいれば、その価格と製品サイズで可能な音質の合格点を確実に叩き出すことを期待できます。

期待に応えた Astell & Kern 

そんな期待に応えてくれたのが高音質なDAPで知られている Astell & Kern でした。

  1. DAC チップ CS43198 × 2 のバランス回路構成
  2. バランス接続専用
  3. 4.4mm ジャック採用
  4. USB 部分は丈夫な布巻ケーブルを直付け

同社の DAP、A & norma SR25 と同じチップを使いバランス回路のみという「余計なことをせず限られたリソースを音質に振った」潔い設計コンセプトです。1 のバランス回路は限られた電力で高出力を得られることと同相ノイズに強いことを実現しますし、2 のバランス接続専用でアンバランス接続に必要な部品を全て無くすことができます。3 の4.4mmを採用したことも有難いです。Astell & Kern は 4.4mm がこの世に登場する前から 2.5mm のジャックでDAPを作っており、いまでも昔からのファンを守るべく 2.5mm を採用し続けている最後のメーカー? ですが、この機種は 4.4 mm に振ってくれました。わたしは全ヘッドフォン、イヤホンを4.4mmで統一しているので、4.4 mm でなかったら選びませんでした。4 の USBコネクタは地味にノイズの原因となるUSBケーブルやコネクタを利用者の使用状態や自由なケーブル選択に委ねないという意思の表れです。こういう考え方をする製造元に間違いありません。ダウングレード組のニーズはビシっと抑えていると思います。

いまできるスティック型DAC としての合格点は確実。あとは音色が好みに合うかどうかの世界に突入するんだろうなと思いました。制約のある分野の製品だとわかっています。最初から高望みはしていません。気軽にソコソコの音質で聴ければいいです。音色が好みじゃないとか、野暮は言わんです。

なお、この製品はステップアップ組には厳しいですね。ふだんワイヤレスで聴いていて、はじめて買う有線イヤホンが 4.4mmのバランス接続というのが大変。イヤホン選びに悩んでしまうと思います。とはいえ、オーディオのステップアップはちょっとずつより飛躍したほうが感動しますので、もし身近にステップアップを望む人がいたら有線イヤホン選びを手伝ってバランス接続へと誘うと思います。

インプレッション

期待を裏切りませんでした。納得です。いくつか感想を要素別に記します。

AK HC2でT60RPをドライブ。スマホは古めの Android 端末 Aquos Sense2。

音質

細かな音質評価はスティック型DAPを比較レビューしている方に委ね、ざっくりとだけ記します。

スティックだと思うと意外にパワフルな鳴りっぷり、粒立ちの良いクッキリしたサウンドです。左右の分離も良いです。バランス出力の DAC の良さを感じれらます。細かいことを気にせず高音から低音まで濁りのないパキッとしたクリアな音を楽しめます。

音量

こちらでもバランス出力のメリットが活かされています。DAP でも駆動力が弱めですと音量の取りにくい FOSTEX の T60RP というヘッドフォンで試した結果の画像を貼りつつ丁寧に記します。

音質追求時

アプリ「USB Audio Player PRO」(以下 UAPPと呼称) で端末に保存してある楽曲ファイルを送り出したときのスクリーンショットです。ビットパーフェクト設定です。

アプリ"UAPP"でAK HC2をコントロール

画面上方にある横方向のバー「ハードウェアボリューム」で-39db、約4割ぐらい上げた状態にて音量は十分取れました。クラッシック系の音圧が低めの楽曲でも-25db、7割ぐらいまで上げれば大丈夫そうです。7割まで上げて音圧高い J-POP やアニソン聴いたら耳にダメージが出るかと思いますので避けたほうがよいです。この T60RP での音量の感覚を他社のもので例えると、Hifiman Arya あたりが同じぐらいの水準です。FOCAL STELLIA でこの音量まで上げてしまったら爆音で装着できません。 逆に言いますと、T60RP や Arya より効率の悪いヘッドフォンだと厳しくなると思っていいでしょう。音質に拘る人なら T60RP でも「据え置きで鳴らしたときに比べて低音の立ち上がりが遅い」とおっしゃるかもしれませんが、先に音を聴いた後でこのスティック型DACを見たら「いや、割と良く健闘している」とおっしゃるかと思います。

初心者の方に注目してほしいのは、画面写真の右にある縦型のボリウム表示です。左の写真からミュート、半分ぐらい、最大と音量を変化させ並べていますが、ヘッドフォンから聴こえる音量は全く変わりません。ここに表示されている音量は、スマホのボタン操作で変える Android OS の音量で、UAPP では影響を全く受けません。楽曲データを Android OS を経由せず直接 AK HC2 に送っているため、Android OS のボリウムを操作しても音量は変わらないというわけです。詳しくはこちらをご覧ください。

soundsmind.hatenablog.com

AK HC2 には音量を変えるボタンやツマミといった、物理に操作できるものがありません。しかし、内部的には音量を変えるボリウムがあり、AK HC2 を直接操作するアプリなら内部にあるボリウム操作をすることが可能です。それが、画面上方の「ハードウェアボリューム」です。ツマミがない代わりにアプリで操作できると思って差し支えありません。

ちなみに、音量をツマミなど物理的に操作するものは音質低下の原因になります。ハードウェア的にはノイズを少なくするための工夫が最も必要な個所の一つです。音質に拘るなら、下手なものを付けるより無くす方が潔いです。AK HC2 に無いのも納得です。

カジュアル使用時

次に、ストリーミング再生アプリを気楽に使用しているときのスクリーンショットです。Amazon Music アプリを使用しています。

Amazon music HD アプリで音楽再生。

さきほどのアプリ、UAPP と異なり今度は Android OS のボリウムを使って音量を調節します。Amazon Music アプリは、直接 AK HC2 にデータを送ることができませんし、内部のボリウムを操作することもできません。

画面にある2割ぐらいのボリウム位置で充分な音量が取れます。クラッシック系の音圧が低めの楽曲でも半分ぐらいまで上げれば大丈夫です。最大までボリウム位置を上げたら T60RP でも大変な音量になります。

Android OS のボリウムと AK HC2 のボリウムは別物です。UAPP のときには Android OS のボリウムを経由せず AK HC2 のボリウムだけでした。では、今回の Amazon Music アプリはどうなっているかといいますと、両方のボリウムを通過しています。電気信号の流れの通り Android OS ⇒ AK HC2 ⇒ ヘッドフォンの順で届きます。UAPP は音質のため頑張ってショートカットさせているだけです。

Amazon Music アプリのような普通のアプリは AK HC2 内部のボリウムを操作できません。かといって、本体のほうにボタンやツマミもありません。すると全くボリウム操作が出来なくなるため、AK HC2 のボリウムを操作するアプリ"AK HC"を配信しています。

play.google.com

こちらのアプリを使うと 0~63 の64段階で操作できます。

さきほど記した「2割ぐらいのボリウム位置で充分な音量が取れます」という状態、このアプリを使い両方のボリウムの状態を表示すると以下のようでした。

Android OSが2割ほど。AK HC2 は最大。

AK HC2のほうを最大にしておいて、Android OS 側で音量を調整していました。

これが音質的によろしくないことはAmazon Music HDをビットパーフェクトで聴く(前編)で説明した通り。Android OS 側の音量を最大にすることで元の音楽データ側の劣化を極力抑え AK HC2 側のボリウムで音量を変えるべきで、端末の設定次第では「たまたまビットパーフェクト」です。以下にスクリーンショットを貼ります。

Android OS を最大。AK HC2 で音量調整。

このぐらいで T60RP を使ったときにちょうどいい感じです。当然ですが UAPP 使用時と似たようなボリウム位置になります。

余談ですが、両方のボリウムが低いと非常に音量は低くなります。以下のスクリーンショットのような位置ですと、音が殆ど聴こえません。

Android OS と AK HC の両方で絞ってしまうと殆ど聴こえない。

AK HC2側のボリウムはアプリを入れないと操作できないため、デバイスを購入した直後の使用や何かしらの事情があってアプリを入れられなかったりするとボリウム操作不能の状態に陥ります。操作不能な際、AK HC2側の内部ボリウムが小さかったりゼロだったりすると「(変えられる Android OS側の) 音量を最大にしても聴こえない」という事態になります。ですので、AK HC2 の起動時(スマホに接続した直後) の初期音量は最大になるようになっています。

iOSでの挙動について

ここまで音量について Android 端末を例に記しましたが、IOSでの場合について軽く触れさせてください。

音楽再生アプリ複数種類*1DAC複数種を組み合わせて実験し挙動変化を確認しましたが「多分こういう振る舞いだろう」という推測までにしか至れませんでした。いずれの音楽プレイヤーでも、iOSの端末のボリウムボタンを上下させるとiOSで表示される音量が変わるのですが、内部的にはAK HC2内のハードウェアボリウムを表示しているのだろうと推察しました。理由は

  • ボリウムツマミの存在するDACを接続するとiOS側の音量は必ず最大になる
  • DACを外すと、スマホのスピーカーで聴く際の音量に戻る
  • AK HC2 を接続すると、上記の二つと異なる音量になる
  • つまり、スピーカー時の音量とAK HC2での音量を別々に記憶している。それぞれ音量を変えつつ抜き差しすると、変えた直前に設定していた音量に復元する。
  • 記憶している音量は起動しているアプリを変えても変化しない。iOS側で保持・管理している。
  • ボリウムツマミの存在するDACで最大音量になった際、Kaiser Toneを使うとOS側のボリウム操作を強制的に変更することが可能なので試みたが、実際の音量は最大のままであり、操作は反映されない。

という状況証拠からです。Apple のデベロッパーサイトにあるオーディオAPIに関するリファレンスも覗いたのですが、この辺を弄っているだろうというAPIは見つけられましたが確定には至れず、自分でサンプルコード書いて実験でもしてみないとわからないという結果でした。

作業中に AK HC2 の対応スペックに関するスクショを取りましたので貼付します。ご参考にどうぞ。

Kaiser Tone で表示した AK HC2 の スペック
だいじなところ。突然の最大音量で耳を傷める前に。

音量の項目について何故ここまで細かく書いたかを最後に記します。

公式サイトのここにご注目ください。

再生デバイスに接続する場合は、必ず音量レベルを確認してからイヤホンやヘッドホンを接続してください。一部のデバイスでは、AK HC2を接続すると出力レベルが自動的に最大音量に設定される場合があります。ヘッドホンやイヤホンを最大音量で聞くと、ヘッドホンやイヤホンの破損や聴力を損なう可能性があります。毎回使用する前に必ず音量レベルを確認してください。

www.iriver.jp

突然最大音量で再生されることが本当にある

からです。なまじっかパワーがある製品なので本当に危険です。私は二度喰らいました。あまりの大音量に鼓膜が破れるかと思いましたし、耳鳴りが止まず耳鼻科で診ていただき服薬することになりました。そのとき離れたところにいた家族も爆音に驚いていました。

この問題一点を理由に「こんな危ないもの、やめたほうがいいよ。とんでもないものだ。」と言いたくなりそうなのですが、ある程度の知識を持ち、ご自身の環境でテストを重ね回避できるなら良い製品だとお勧めできるかもしれないという思いに至りました。このハードは悪くない。鳴らすソフト側、アプリの実装の問題だと思います。

わたしの環境下で「突然大音量」を100%再現できる手順を以下に記します。

  • IOS版 Neutron Player で Bit-perfect 再生に設定しておく
  • Flac フォーマットの楽曲を再生する
  • (次に) DSD フォーマットの楽曲を再生する

DSD フォーマットの楽曲が始まる瞬間に音量が最大になり、爆音で曲が始まります。公式サイトで「毎回使用する前に必ず音量レベルを確認してください」とありますが、使用中 Flac の次に DSD が来ると勝手に最大音量に変えてしまうので、使用する前の音量確認では避けられません。

検証のため、ヘッドフォンを刺さない状態で DACを切り替えながら Neutron Player をいろいろ操作してみました。DoP (DSD音源再生方法の一種) 再生に切り替わる際に最大音量になります。で、すぐ間をおかず元の音量に戻ります。画面に音量を表示しておくと、再生開始際にヒョコっと音量が最大になり、すぐ元の値に戻るのが確認できました。

どうも、DoPへの切り替わりで何かしらの初期化をしているらしく、その初期化で音量について「最大 ⇒ 元の値」という手順が踏まれているようです。この、元の値にすぐ戻るというプロセスが AK HC2 のときに起こらず最大音量で鳴り始めます。

この現象は他のアプリや DAC では発生していません。Neutron Player と AK HC2 の組み合わせのときだけです。ハードウェアボリウムをアプリ操作できる DAC を集めて実験を繰り返せば、原因を更に絞り込めますが、Neutron Player の開発者が DSDの曲を再生させる際の初期化回りソースコードを見れば何が起こっているか分かることなので、これ以上の調査は無駄だと判断しました。

ここまでの文章で「OS側のソフトウェアボリウム と AK HC2 内のハードウェアボリウムという概念がある」「デフォルトで AK HC2 内のハードウェアボリウムが最大になっていないと、OS側の状況により不都合が起こる」「Bit-perfect とは送り出す側のソフトウェアボリウムが最大なのと一緒」と言い続けていたのはこのためです。こういった音質にまつわる事情やお作法を知らないと事故に合う可能性が飛躍的に高まります。音量が最大の状態に陥りやすいことは Astell&Kern もよくわかっているので自社サイトで注意を促しているのでしょう。 

ほんとうに危ないですので、アプリの設定変時更や新しいアプリ導入時はくれぐれもご注意*2ください。

変換アダプターは高付加価値

私のように iOSAndroid それぞれ複数端末所有している者にとっては、この小さな変換アダプターが大変有り難いです。Lightning-USB カメラアダプタは所有していますがゴツいのでコンパクトなDACを買った意義を失ってしまいます。また、カメラアダプタは買えば5千円近くするもので、付属している小さな変換アダプターは金額的にもおまけとして軽視できるものではございません。

こんな素晴らしいもの、他の DAC でも使えたらどんなに良いだろうと思います。Astell & Kernは動作保証していませんが、当然のように試しました。結果、所有しているDAC全てで使えました。それ以来、Lightning-USBカメラアダプタは一度も使っていません。

これ、Apple で純正品のラインナップにあってもいいものだと思います。AK、グッドジョブです!

iPad Pro 10.5 と D50s を繋いだところ。

スティック型 DAC があれば DAP は不要か?

上記のような言葉を見かけることがありますが、実感は逆でした。スティック型DACを使うことで、改めて DAP の存在意義を実感しました。音楽に特化した DAP にしか到達できない領域が燦然と輝いて見えます。

スティック型DACの決定的な残念ポイントは、ホワイトノイズです。

ホワイトノイズ

MOONDROP のイヤホン、KATO を接続して音楽を聴いてみました。

MOONDROP KATO と AK HC2

何も再生していないときは無音ですが、無音の部分が含まれる曲やフェードアウトの終わり際でほぼ音が鳴っていないときなどは、ザーとかシューというような音が聴こえます。曲を一時停止した直後にも聴こえます。一時停止の場合は1~2秒するとノイズが止まり無音になります。ちなみに音のデータ供給が止まると無音にする機構というのは他の製品でもよくあるもので、AK HC2 が例外という訳ではありません。

イヤホンのなかでも「ダイナミック一発」と呼ばれるタイプの KATO でこれでは、マルチBA型高感度イヤホンは厳しいでしょうね。

ノイズの原因

原因はハッキリしています。電源です。

スマホから供給される5V電源の電流にノイズが載っているためです。なぜ汚いのか、どうすれば綺麗になるかという話は省きますが、スマホ設計側はオーディオ機器をつないでも影響が出ない想定で電源の設計をしていないし、コストをかけて高品質にする必要もありません。

であれば、端末を変えればノイズの量も変わるだろうということで、部屋のテーブルに置いてあった端末3台で比べてみました。体感結果はノイズの大きい順に、IPad Pro 10.5(2017)、iPhone 6S Plus、OPPO Find Xでした。ビーとかジーとかノイズの鳴りも機種ごとに違っていて、「ですよねー」といった感想を持ちました。ノイズの量や傾向なんて端末によって異なって当然です。

ノイズ対策

原因がわかればメーカーだって対策も打てます。供給された電源を綺麗にするか、供給されたものを使わず自前で綺麗な電源を用意するかです。

供給された電源を綺麗にするほうは、スティック型DACのメーカー側で出来る範囲のことはしているでしょう。今回購入した AK HC2 のメーカー、Astell & Kern なら言わずもがなです。スティック型DACから見ると、接続するスマホを選ぶことはできないので「どんな汚い電力が供給されても、できる範囲で努力します」としか言いようがない状態です。バランス回路のみにして、ケーブルと本体を一体にして取り外しできないようにしつつ高品質なシールドで固めている AK HC2 でこれでは、廉価な他社製品は厳しいでしょう。

自前で綺麗な電源を用意する方のアプローチは二つ。バッテリーを積み綺麗な電源を確保しつつ、スマホとつないでいるケーブルからのノイズを徹底的に防ぐ、即ちポタアンです。電源やタッチスクリーン・OS部分などスマホの担っていた部分を全て自社で用意しノイズの発生源そのものを内製化する、即ち DAP です。

ノイズが気になるようなら、DAPやポタアンを選びましょう。ということですね。

DAPか、ポタアンか、スティック型DAC

それぞれに長所、短所があり、理解したうえで選ばないと後悔しそうな選択です。

今まで記したことが、そのままスティック型DACの長所であり短所です。小さなボディは携帯性が高い一方でノイズ対策や音量トラブルに気を付けないといけませんし、スマホに接続して気軽に使えることは快適なUIを享受できる一方でノイズを許容できるかという納得感を求められます。また、当然ですがスティック型DACを使えばバッテリーの減りは多少早くなります。もともと、iPhone に接続する外部機器は 0.2A 未満でないと動作しませんので、iPhoneに接続できるスティック型DACは 5(V) × 0.2(A) = 1(W)。 したがって、最大でも 1(Wh) 以上の電力はしないし消費できないです。バッテリー不足に見舞われ、充電しながら使っているような方でなければ許容できるかとは思います。

最後に、スマホで音楽を聴くのは購入音源やハイレゾストリーミングだけではありません。敢えて Youtube音ゲーを、という方もいらっしゃるでしょう。音質でなくワイヤレスで発生する遅延の対策をしたいということなら、ことさら納得できるポイントです。

まとめます。

  • [音質] DAP・ポタアン > スティック型DAC
  • [携帯性] DAP > スティック型DAC > ポタアン
  • [音楽鑑賞以外の用途] スティック型DAC・ポタアン > DAP

特に高感度イヤホンを使いたい方はスティック型DACのノイズに十分ご注意ください。

*1:HF Player, NePLAYER, KaiserTone, mora player, foobar2000, Neutron Player, Amazon Music

*2:FlacDSD を交互に入れたプレイリストを用意し、壊れてもいいヘッドフォンを箱に入れた状態で再生テストをするとか、でしょうか。私は無音から静かに立ち上がるクラッシック楽曲を組み合わせ、ヘッドフォンを外して聴きました。いきなり大音量でなく漏れる音が徐々に大きくなるので慌てず再生停止の対応ができます