オーディオ 試行記録

多くの個人プログやネット記事に助けられました。私の経験を還元したくです。

HIFIMAN SUNDARA Closed-Back を聴く

円安はキツいですね。

2022年に入ってからというもの、既存の製品は部品価格の高騰で次々と値上げ。そこに追い討ちをかけるように円安。この数ヶ月、為替の影響を受け驚くほど海外製品の値が上がりました。一方で私の所得には伸びがなく、オーディオへの散財は終わりにしたいと思うこの頃です。

今秋は非常に気になるハイエンドのヘッドフォンが次々と発表されました。しかし、懐事情を理由に我慢をしていたのですが、決意を揺らがす製品を目にしてしまいました。中国の有名メーカー、HIFIMAN の ヘッドフォン SUNDARA Closed-Back です。

購入動機

以前に書きました記事 [ FOCAL STELLIA に規格外のイヤーパッドを装着 ] にて触れましたが、完全開放型のヘッドフォンは私の使用環境に向いておらず、所有していた全てを手放してしまいました。しかし、音が好みでなかったわけではございませんで、なかでも HIFIMAN Arya の音は気に入っていました。完全開放型が苦手にする低音もしっかり出しつつ伸びのある高音も持っていまして、今でも好印象です。

そんな記憶を残す HIFIMAN から、密閉型の新しいヘッドフォンが発売されるという知らせを目にしました。価格も昨今の為替状況のせいで円ベースだと高くは感じますがドルで見ればエントリー帯です。懐事情に目をつぶり予約注文してしまいました。

HIFIMAN の密閉型

HIFIMAN の名を世に示すのは平面駆動、開放型ヘッドフォンの存在だと言えるでしょう。この公式サイト HIFIMAN Home を見ますと企業ブランドを支えるフラッグシップもラインナップの充実度も平面駆動、開放型ヘッドフォンであることがわかります。他のオーディオ機器も展開していますが、それらは業界を代表するような製品とは言い難いです。そのようななかでも、特に密閉型ヘッドフォンは存在感が薄く「 (無試聴で購入して) 大丈夫か?」と不安になります。

ここ数年のうちでメディア記事にも大きく取り上げられたのは HE-R10。これは、30年以上も前に発売された Sony のヘッドフォン、MDR-R10 へのインスパイアと申しますかデザイン踏襲と申しますか、いずれにせよ堂々と MDR-R10 があるから生まれたものと公言された製品です。発売直後は限定販売の平面駆動型とダイナミック型の2バージョンでしたが、現在は改良版のダイナミック型1バージョンがラインナップされています。

HE-R10 の廉価版に位置づけられるが、HE-R9 です.改良された振動版を採用しつつ、カップの材質のなどを変えたものになっています。価格だけでなく重量も抑えているようなので、もしかしたら装着感は向上しているのかもしれません。平面駆動でない HIFIMAN にはあまり興味を持てなかったのですが、記事を書いていたら試してみたくなりました。懐的に無理なので我慢です。

そして今回の SUNDARA Closed-Back は前述の2機種の系統とは異なり、開放型の SUNDARA をベースに密閉型へと設計されたものとなります。ドライバは HIFIMAN の王道である平面駆動型で、同社のラインナップのなかでも廉価モデル、入門モデルに位置する製品のひとつです。前に所有していたミドルクラスの製品 Arya 1台で、 SUNDARA は 4台買えてしまいます。

平面駆動の開放型はラインナップが多く、また価格差がかなりあるのですが、価格が上がるにつれ音質も上がり、また同価格帯の別製造元と比べて劣っているわけでもないような評価がネットでは散見されます。この評価感覚が密閉型でも当てはまり、価格の割に良い音という製品に仕上げっているでしょうか。気になるところです。

価格改定とマイナーチェンジ

このメーカーは価格改定を行います。ズバリ言いますと値下げです。基本的には良い意味で捉えています。新商品で発売したのち数年経つと実施されます。すべての機種で行われるかどうかはわかりませんが、実施の際には複数機種で同時に行われていることが多いです。

勝手な妄想ですが、新製品発売後に一定数が売れ初期開発投資が回収できたとか、別の新製品で新しい技術を生み出し従前の機種が陳腐化すると判断されたとか、何かしらのポリシーがありそうに見えます。

これに関連して、発売済機種のマイナーチェンジもよく行われます。他機種で導入されたドライバに移行したり吸音材の材質が変わったりなどといったことが行われます。時々ネットで「マイナーチェンジ前のほうがいいのではないか」という書き込みを見たりしますが、明確にスペックダウンしたというようなことは感じられず、ポジティブなほうが多いような印象です。

ただ、この傾向をなまじっか知ってしまっていると、リリース後数年経った HIFIMAN の製品を買うときに悩んでしまいます。「今買ったら、半年後ぐらいに値下げするかも」なんて連想をしてしまうためです。この文章執筆時点の感覚ですと、待てば為替や部品価格高騰による値上げも起こりうるので、欲しい時が買い時ではないかと思う次第です。

外観

商品は発売日当日に届きました。外箱から内箱開封までの写真です。

SUNDARA Closed-back 外箱・内箱・開封

外箱はいつも通りです。封印シールと検品の印が並んでいます。内箱はシンブルでした。下から上に開くタイプの段ボール箱に、黒地で商品写真の印刷してあるシールが貼ってあります。これは封印を兼ねていてカットしないと中身を取り出すことができませんでした、上の写真の左下にある箱の裏側を撮影したものがカットする箇所です。

余計なものが一切なくシンプルです。無駄なゴミやコストを抑えられてよいのではないでしょうか。

付属品

パッケージの構成は、ヘッドフォン本体、ケーブル、保証書のみです。

ヘッドフォン、ケーブル、保証書

箱に続いてこちらも最小構成です。説明書は付属せず、オンラインマニュアルの URL を記載した QR コードが印刷されており、そちらを参照するように書かれています。

ケーブルは 3.5mm プラグ TRS のアンバランス1本と、6.3mmへの変換プラグが付いています。

イヤーカップ側から

付属ケーブルとリケーブルについて

ケーブルの長さは1.5mほど。素材はビニール製で柔らかく、取り回しはさほど悪くなさそうです。ヘッドフォン本体との接続は、左右のイヤーカップ両方に接続するY字タイプ。プラグは 3.5mm の 3極 TRS です。

特殊なコネクタでなく 3.5mm プラグを採用してくれるのは大変ありがたいのですが、信号のアサインがメーカーによってバラバラなため、その点だけは注意が必要です。この製品のアサインは以下のようになっています。

アサイ

上から(TRSの)順にプラス、未使用、GND(マイナス)です。このアサインは HIFIMAN のほか TAGO STUDIO の T3-01 も一緒です。SONY は上から(TRSの)順にプラス、GND(マイナス)、未使用ですので異なります。なまじっか刺さってしまいますので、他社・他機種のものを差して壊してしまわないようご注意ください。

装着感

15分で耳が熱くなりました。痛いです。このブログを始めるきっかけとなりました ATH-WP900 を思い出さざるを得ません。

soundsmind.hatenablog.com

側圧はキツめです。イヤーパッドの内径、縦幅は 50mm強、60mm 近くあるのですが、それでは私の耳より小さくて足りませんでした。耳たぶを潰すか耳の上部を曲げる感じにしないとパッド内に耳が収まりません。

ヘッドバンドは重量が頭頂部一点に集中しないよう皮革部分で分散されも良好な装着感になっています。

イヤーカップはカチカチと段階的に位置調整する構造になっています。突起で物理的に止めるシンプルな仕組みのせいか、開封直後でも塗装剥げがありました。高級機ではありませんのて、こういった部分の構造でコストはかけられないでしょう。許容範囲です。

イヤーカップの位置調整部分

最初に記しました耳の痛み、側圧とイヤーパッド問題がありますので、このまま使用を継続することは困難です。ヘッドフォンを外し、この文章を書き始めて2時間経ちましたが、まだ耳がやんわりと熱く痛いです。

毎度のことですが、このヘッドフォンに手を加えるかどうか悩まないといけなくなりました。あとは、音質・音色を気に入るかどうかにかかっています。気に入ればやりますし、そうでなければ余計なことをせず、美しい状態のまま大切にしてくださる次のオーナーにお譲りをとなりそうです。

追記。手を加えました。

派手に手を加えました。別記事にしましたので興味ございましたらご覧ください。

soundsmind.hatenablog.com

音について

音量

スマホや小型のDAPでは厳しいかと思いますが、ここ数年で市場に発売された比較的パワーのあるDAPであれば音量は十分取れるかと思います。先日ご紹介した スティック型DAC、AK HC2 ですと「ハードウェアボリウム」で-46dBほどでちょうど良い音量になりました。

AK HC2 に SUNDARA Closed-Back を接続

FOSTEX の T60RP では -39dB まで音量を上げました。ここまで上げますと爆音でヘッドフォンを装着できません。手持ちのヘッドフォンですと SONY MDR-Z1R あたりが近いかなという印象です。5万円程度のミドルクラスの DAP であれば音量を取れずに困ることはないと思いますし、バランス接続で使用すれば駆動力の点でも支障はないかと思います。

但し、AK HC2 の場合はスマホの電力に依存するため発生する別の問題がありました。SUNDARA Closed-Back のインピーダンスが 20Ω と低く、音量が出しやすい一方で電流には厳しいため、結果として電力食いのヘッドフォンでまともに鳴りませんでした。Amazon Music HD で曲を聴いていたら途中で音が小さくなったり細かな音がしなくなったりしました。送り出し側のスマホに何を使うかによって音の細り方は違いましたが、バッテリーの大きいiPadを使っても生じました。送り出し側の回路次第なので当然ではあります。音圧高めでサブソニックが沢山含まれた曲、重低音かズンズンするような曲ですと露骨に細ります。「スティック型 DAC ではまともに鳴らせないヘッドフォン。」と判断して間違いないです。勿論、スマホ直差しも厳しいでしょう。

音質

装着感の欄で記した耳の痛みの問題により、まだトータルでも 30分程度しか聴けていないのですが、他のヘットフォンと聞き比べたインプレッションを「聴き始めの印象」として記します。

密閉型独特の「鳴り」は中程度

開放型のヘッドフォンと異なり、密閉型のヘッドフォンは機種ごとに差はあれどもイヤーカップによる共鳴が創り出す癖のようなものがあります。貝殻を耳にあてるとコーッと音がするアレです。各メーカーはカップに使う素材の質、カップの広さと形状、吸音材の配置の仕方等で響き方を調整して仕上げています。

この響きの調整といいますか、余計な共鳴を無くす効果的な方法の一つがカップに穴をあけて空気を逃がすことです。FOSTEX T60RP は背面に、SONY MDR-Z1R には上部に穴があります。ちなみに FOCAL STELLIA には見当たりません。

で、この SUNDARA Closed-Back の穴は見当たりません。ブナ材で作られたカップの響きがしっかりと存在する音です。「中程度」という表現をしたのは、STELLIA を大、T60RP を小としたときに、その中間程度だという意味を込めました。STELLIA は「風呂屋かよ」というほど響くので、SUNDARA Closed-Back の響きを中程度と言っていいものかどうか怪しいところではあります。

密閉型のヘッドフォンの良さは低音をしっかり出せることと微細な音の余韻を残せること。そしてこの良さは欠点でもありますし、開放型と真逆の性質にもなります。つまり、開放型は低音をしっかり出せずスカスカになりやすいが、余計な響きを加えず音源が持つ本来の音を出せるということです。

HIFIMAN は開放型で多くの改良を重ね、低音もしっかりと出せるヘッドフォンを開発しています。であれば、敢えて発売する密閉型で開放型で出している音に近いヘッドフォンを目指す価値があるかというと微妙なのではないでしょうか。この SUNDARA Closed-Back から出る音色が「HIFIMAN の密閉型の音です」という意味なのかと思います。

開放型の素直な鳴り方を好んていたり、ヘッドフォンの音の癖について気になさっている方は、無試聴での購入は避けた方がいいです。

前述の「鳴り」を踏まえたうえでの音のインプレッション

以下、上原ひろみ「ALIVE」を CHORD Hugo2 で聴いたインプレッションです。

音源からの距離を感じます。モニター系のヘッドフォンにありがちな音が耳に張り付いたような近さを距離感の無い方に置き、HIFIMAN Arya などを距離感のある方に置くと、両者のあいだぐらいです。T60RP とは似たような感じです。

中低音、具体的にはピアノの低音のほうの音が目立ちます。このあたりの周波数がカップで響いているのではないかと推察します。平面型のヘッドフォンらしく、特定の周波数帯の音が強く鳴っているという感じはしません。高音から低音まで一律に鳴っているように感じます。あくまで響いているという感じです。

音のコロコロ感、粒立ちはもう少し欲しいです。ピアノの一音一音がもっと感じられるとよいなと思います。比べているのが、先に挙げている FOCAL STELLIA や SONY MDR-Z1R なので、比べること自体が間違いかもしれません。同様の理由で低音の立ち上がりはマイルドです。高音もしっとりしています。ハイレゾはザラっと感じるとか、高音が刺さるヘッドフォンが多いと感じる方には向いている可能性があります。

音の粒立ちはドライバの性能とアンプの駆動力に直結する要素でありますし、またヘッドフォンの使い込みである「エージング」が進むとよくなるかもしれないです。据え置きのハイパワーなアンプを使ったり、数か月使っ後だったりすると違う印象に変わる可能性があります。

結論

手元に残し、もう少し聴いてみることにしました。

イヤーパッドも注文しました。海外からの発送なので、届くまでに半月ほどかかりそうです。装着感を改善し、 2~3時間の連続装用に耐えられる状態になってから聴き込んでみたいと思います。

現時点でのまとめは

  • 音の出かたはフラットで癖を感じないです。
  • イヤーカップ固有の響き、特徴を持っています。
  • この響かせ方は HIFIMAN からの提案だと感じました。
  • 良し悪しではなく好みとして、気に入れば代替の効かないものになりそうです。
  • 側圧が強く、大きな耳の自分にはイヤーパッドが小さく耳が痛いです。
  • パワーのない再生機だとまともに鳴らせません。音量は取れますが微細な音楽表現は消失します。

という感じございます。

木目が美しくデザインも悪くないです。金属むき出しの割には可愛らしいので、この文章を読んで興味を持たれた方は試聴してみてはいかがでしょうか。