ヘッドフォンケーブルのプラグ交換について記事にしたいと思います。
ヘッドフォンを色々と試すなか、バランス対応ケーブルが標準で梱包されていることは少なく、また別売の純正が存在しても入手しにくいというケースもあって自作対応の必要に迫られました。最初は失敗も多く面倒の一言でしたが、徐々に慣れ失敗しなくなると、面倒さよりも早く安く試せるという利便性が勝り、手間を厭わなくなりました。
この記事で「最初の失敗」をする方が少しでも減ると嬉しいです。
恐らく希少になるであろう SONY キンバーケーブル
2022/6 に キンバーケーブルの生産終了が発表されました。執筆している 2022/11 現在、中古流通も減り入手困難になりつつあります。1.2m 長のものなら新品も含め若干の流通在庫があるようですが、2.0m 長のものは全く無い様子です。
ちなみに生産終了の報に私が触れたのは10月に入ってからで、入手競争には完全に出遅れました。とはいえ、買えるなら追加しておきたく、慌ててネット検索してまわりました。オーディオ専門店では見つけられず、家電・ゲーム・ホビーと幅広く中古品を取り扱っているショップにあるのを見つけました。現物の写真が掲載されていなかったのですが、買わずに後悔したくなかったのでイチかバチかで「えいやっ」と購入しました。
キンバーケーブルの中古の選び方
キンバーケーブルの中古は程度の良し悪しの差が激しく、良いものは新品時のようなケーブル被膜越しに感じられる銅の艶があるのですが、悪いものは艶が無いどころか緑青(さび)が広がってしまっています。
そのため、中古品の場合は写真に映るケーブルの「くすみ」を必ずチェックしていました。見ずに購入するのは大変なリスクです。写真を見て黒いくすみが散見されたら見送るほうが無難です。かくいう私も、いちど失敗をしています。
プラグ部分については、もちろん傷が無いに越したことはないのですが、いざとなったら取り替えてしまうのでさほど気にしません。4.4mm バランスプラグの MUC-B20SB1なんかは、プラグがL字になっているためウォークマンに接続している際にグルグル回してしまい、その痕跡として帯状の傷がついてしまっているものが大半です。生産完了前でも中古美品の入手は困難でした。
「イチかバチか」の後日談
写真未掲載のものを買った後日談ですが、届いたものをドキドキしながら開封したところ、幸いなことに銅の艶がある美品でした。思い切って買ってよかったです。
プラグ交換
では、本題のプラグ交換作業に関する話へと移ります。今回は以下のものを使用しました。前述の綺麗なケーブルは大変貴重なので無傷の備品として取っておきたいと思います。
ヘッドフォン側を 3.5mm ステレオミニプラグ × 2 の HIFIMAN アサイン、アンプ側を 4.4 mm 5極 バランスにします。
パーツ紹介
キンバーケーブルのプラグ交換で重要なノウハウのひとつが、使用可能なパーツです。このケーブルは太いので、購入したプラグ外筒の穴径が足りずケーブルを通らないことが多いです。気にせず適当に買うとケーブルに外筒を通すことができず、またギリギリの際には無理に通してケーブルに傷をつけてしまうことがあります。
今回のプラグ交換で使用したパーツを一通りご紹介したいと思います。
ケーブル : MUC-B30UM1
先の私物の写真とこちらの SONY の紹介記事の写真とを見比べていただいてわかりますように、既にアンプ側、ヘッドフォン側ともにプラグ交換をしてしまっています。販売終了したものですので、大事にプラグ交換し続けています。今回の 3.5mm プラグへの交換は、この交換済ケーブルの再使用です。
ミニXLR 4PINコネクター(メス) : TNXLR-4FGN5
既にキンバーケーブルに接続している、銀色のヘッドフォン側コネクターです。 HEDDphone 用のバランスケーブルとして使用するためにこのコネクターを取り付けていました ( HEDDphone - HEDD-Japan ヘッドジャパン ) 。こちらのパーツの穴径は十分広く、キンバーケーブルでも問題なく使用できます。
4.4mm 5極 バランスプラグ : NLP-PRO-TP4.4/5
既にキンバーケーブルに接続している、黒色のアンプ側プラグです。こちらは穴径が足りずキンバーケーブルでは使用できませんのでご注意ください。「写真では使用できているじゃないか !」というツッコミが入りそうですが、穴径を無理やり広げて使用できるように改造した結果です。のちほど改造の様子がわかる写真を載せます。
3.5mm 3極 ステレオミニプラグ : NLP-01B
今回ヘッドフォン側で使用するプラグです。これを使用して、HEDDphone 用のケーブルを HIFIMAN のヘッドフォンで使用できるケーブルに変えます。キンバーケーブルで使用できるステレオミニプラグは少ないのですが、こちらは大変ありがたいことに使用できます。また、使用できる数少ないものの中でも、もっともスリムなプラグだと思います。アンプ側なら多少太くても構わないのですが、ヘッドフォン側はスリムで小さいほうが助かります。
3. 5mm 3極 ステレオミニプラグ側作業
ヘッドフォン側についているミニ XLR 4 PIN コネクターを外し、3.5mm 3極 ステレオミニプラグを取り付けます。
ミニ XLR 4 PIN コネクターを外す
無改造のキンバーケーブルですとプラグから数ミリ離れた所でパチンと配線をカットするだけなのですが、今回は外せますのでカットせず作業します。
このコネクターの胴体部はネジ式になっています。外すとハンダ付けをするピンのある黒い部分と白いプラスチックカバー、GNDのリング金具が出てきます。これらをずらしハンダ付けを溶かしてケーブルを外してしまいます。
コネクタは再利用するかもしれないので破損しないように外しました。今回はうまくできました。プラグを変えるたびにケーブルは少しずつ短くなってしまうので、コネクタの外でパチンと切らず出来るだけ根元のハンダから外します。
キンバーケーブルの被膜剥き
パーツ選定に続いてノウハウ的な要素があるとすれば、この被膜剥きかもしれません。別に「やってみればわかる」ことなのですが先に知っておけば作業は楽です。
キンバーケーブルの被膜は二重になっています。内側のほうにコツが要りました。私はニッパーをハの字にした隙間にケーブルを挟みクルっと回し被膜に傷を付けて引き抜いています。皆さんも上手に剥いてみてください。
3.5mm 3極 ステレオミニプラグ の接続
このプラグ、NLP-01B にはスペーサーが2つ入っています。これらは細いケーブルを使用するときのものですので、キンバーケーブルには不要です。ケーブルとスペーサーを固定するボルトは六角ボルトです。
HIFIMAN 用にしますので、ピンアサインは先からTRSの順で、+、未使用、GND(-)です。このアサインはSONY製品とは異なります。
経験上、太いケーブルをはんだ付けする際に気を付けるべきポイントは、ケーブルを弛ませず余らせず最短距離で直線的に接合することです。少しでも長さに余裕を持たせると、その部分の僅かな膨らみで外筒が嵌まらなくなります。
配線を余らせずにはんだ付けする作業上のコツは「プラグの尖端箇所から根元の順に接合する」「配線のカット、被膜剥き、ハンダ付けを一ヶ所ずやる。先に纏めて全てカットしたり、被膜剥きをしておいたりしない。」です。ハンダ付けが一ヶ所終わったら、次の箇所のケーブルの這わせ方を決めピッタリの長さにカット、その状態から程よい長さで被膜を剥きます。
今回の3.5mmでしたら余裕があるので多少膨らんでも大丈夫ですが、4.4mm 5極はこの方法でピタッと仕上げないと外筒が絞まりません。
まず、もっとも尖端に位置するGNDから接合します。キンバーケーブルは色が透明のほうがGND(-)です。
続けて+側のハンダ付けをします。上の写真では既に被膜を剥いて束ねあるように見えますが、これは前回の残滓で再利用しているためです。その分長くしてあり、カットして捨てます。新たに被膜を剥いて綺麗な部分にハンダ付けをします。
ハンダ付けしたままですと被膜を剥いた部分が空気に触れていますので、徐々に錆びて緑青が出てきてしまいます。端子部にホットボンドを流しておき、そこを収束チューブで包み一体化させ空気の侵入を防ぎます。
尚、下の写真で収束チューブの色が違うのはLとRの区別をするためです。滅多に抜き差ししないので同じでも気にならないだろうと昔は思っていたのですが、何かしらの印が無いと意外と不自由でしたので、LとRが区別つくようにしています。
ここまで出来たら外筒を嵌め込み、六角ボルトを軽く締めて3.5mm側の完成です。なお、ありがちな失敗としてハンダ付け前にケーブル側へキャップや収束チューブを通しておくのを忘れるというのがありますのでご注意ください。
4.4mm 5極 バランスプラグ側作業
今回は 4.4mm側の作業がありませんでしたので、手持ちのケーブルやパーツの写真による簡単な説明に留めたいと思います。
外筒の穴を拡張
冒頭で記しましたが、今回使用している NLP-PRO-TP4.4/5 は穴が小さくてキンバーケーブルで使用することはできません。しかし、穴を限界まで広げると使用することができます。私は金属用棒ヤスリを使い削り込んで広げました。一時間ぐらい要したと思います。下の写真は、穴を拡張したものと元の状態のものを並べたものです。
4.4mm 5極のピンアサインとはんだ付け
上の写真で、編み込んだ 8本の配線の太さと外筒の内径がほぼ一致していることがわかると思います。無駄なスペースは全くありません。そこに以下のピンアサインでケーブルをはんだ付けします。
ケーブルを弛ませず余らせず最短距離で直線的に接合していきます。この場合、L+から順に2本ずつハンダ付けします。無駄な空間や膨らみを作ってはいけません。
例えば R+ の位置あたり。だいぶ軸が太くなってきて筒の空間を中心から半分ぐらい失っていますが、その時点で L の4本を完全に処理し終わっていても ケーブルはまだ 4本あります。半分ぐらいの空間は残っている筈なのですが、実際にはGND側の空間には配線を這わせられないので、使える空間としては残り3割程度です。そこに R の 4本を這わせることになります。L のハンダ付けで盛ったハンダの山でさえ邪魔になるほど狭いと感じるでしょう。R のハンダ付けでは、2本を束ねて一か所で接合せず左右一か所ずつ別々にハンダ付けすることも必要となります。
このプラグでのキンバーケーブルを接合を経験しますと、他の細いものは簡単に感じるようになります。頑張ってみてください。
おわりに
数年前ならいざ知らず、販売終了になってからキンバーケーブルについて記しましたのでどなたの役にも立てなさそうです。書くのが遅すぎました。
入手できなくなるこの機を使って、よい線材を探し10~20m 程度買い置きしておくのもいいかなと思い始めました。比較的安価で品質がよいと気に入っていたキンバーケーブルですが、線材として見ると単価 1万円/1m ぐらいのものを 20m 近く買っていたの変わらない状態でした。製品になってしまったケーブルは高価になりがちなので、そこそこの品質の線材を買い、使いたいときにパパっと自分で加工しケーブルにすると良さそうです。もし気に入った線材に出会えたら、ご紹介したいと思います。