オーディオ 試行記録

多くの個人プログやネット記事に助けられました。私の経験を還元したくです。

HiBy R6 Pro II のその後と AK PA10

HiBy R6 Pro II を購入して三か月ほど経ちました。
時間経過と共に新鮮さを失い、多く所有する再生機の一つとなったことで自分なりの評価が定まりました。評価が定まったにも係わらず何台もの音楽専用再生機を持ち続けるというのは愚かしくはあるのですが、その状態になりますと頻繁に手が伸びる機種とそうでない機種という違いが出てきまして、これが理屈や他人の評価を抜きにした「純粋な聴き心地の良さ基準での自己評価」となる良さがあったりします。

どれを使っても大した差がない筈なのに使用頻度に差がつくということは、心地よく感じる方へ自然と手が伸びているということです。

自分にとって真に心地よい音を奏でる機器を選択する。これは、機器を買い替えてしまっては実現出来ません。複数の機器を長いあいだ所有し続けるからこそ得られる結果です。ふと我に返り「いま何故こちらを選んだのだろう?」「こちらを選んでも別に良かったのに、最近選ばなくなったな」等と振り返りますと「あぁ、この機材のここが優れているんだ、この点が好きなんだ。」と気づきます。

ここまで書いていて「ほんとうに愚かだ」と感じます(苦笑)。これは散財に対する典型的な言い訳です。「ヘッドフォン や DAP は複数買いましょう。買い替えではダメです。複数の機器をできるだけ長いあいだ所持し続けましょう。買ったばかりのときの新鮮な気持ちが消えた後、使用頻度の高い方があなたにとって良いものですよ。」って、こんな酷い話はありませんね。

こうなってしまうことを防ぎたくて始めたブログです。出来るだけ見知らぬ何方かのお役に立つものを目指し記事にしたいと思います。

どのくらいの音量で聴きますか?

イヤホンのレビュー記事で、高音の量感や低音の量感に関することが書かれていることを目にすることがあるかと思います。とても貴重な情報ではあるのですが、最も額面(文字)どおり受け取ってはいけない情報でもあります。

高音や低音から聴き取りにくくなる

前回の記事 HiBy R6 Pro II 購入後インプレッション の記事内で「周囲が静かでないと音が聴き取りにくくなりますが、それは一律にではなく可聴域外に近い高音や低音から順に失われます」とお話ししました。そして「聴き取りにくい高音や低音を補うべく音量を上げると、聴き取りやすかった中音は必要以上に強く聴こえますよ」ともお話しました。
これが先ほど書きました「高音・低音の量感に関する評価を額面どおり受け取れない」重要なポイントとなります。

あなたにとって快適な音量はどのぐらい ?

どこの掲示板で書かれていたか失念しましたが示唆に富む素晴らしいエピソードが書かれていたのを記憶しているので簡単にご紹介します。
FINAL D8000 という非常に高価なヘッドフォンをお買いになられた方のお話です。ある楽曲のあるパートに入ると必ず音がビリビリとしてしまうそうで、故障や不良の類ではないかとメーカーの FINAL に問い合わせたとのこと。ヘッドフォンを受け取った FINAL のサポートの方が調べた結果、問題はなかったと返信・返送したそうです。その方はあらためて音楽を聴きましたが、やはり振動版がビリビリ鳴るとのことで今度は使用機材や楽曲など詳細な情報も加えて問い合わせなさりました。結果、FINAL のサポートにて再現確認ができまして、問い合わせをなさったお客様向けに振動版の可動域を調整しなおして無事に解決をしたそうです。

ここまでですと、お客様とメーカーのサポート双方とも丁寧なやり取りをしていて高級機らしい良いご対応エピソードだなぁと感心して終わるのですが、ここからが示唆に富みます。

原因は想定外の音量

上記の現象が発生した原因は、メーカー想定の最大音量を上回るほどの大音量でご使用なさっていたため、振動板の振幅が可動域を超えていたのだそうです。

聴いている環境も聴力もひとにより違いますので、使用時の音量が各々異なることは当然です。しかし、メーカーの想定する最大音量を超えた振動版の振幅という点は注目に値します。
多くのオーディオ機器を開発し販売しているメーカーです。経験と実績に基づいた適切な音圧の基準幅を設定し、実際に発生する音の計測確認に加え耳での試聴確認を重ね出荷時の仕様の決定をしていたことは容易に想像できます。そのメーカーの設定上限を超える音量で聴く方がいらっしゃるのですから、我々素人の考える音量の上下幅なんて易々と超えてしまうことでしょう。

こんな大きな音で聴いたら耳が壊れる ( ので聴く人はいないだろう ) 、こんな小さな音で聴いたら細かな音が聴き取れない ( ので聴く人はいないだろう ) という音量で使用する方がいらっしゃるのですから、それ程の差ではないにせよ、皆が感じる「ちょうどいい音」の音量差には、かなりの幅があって然るべきです。

このイヤホンはドンシャリです、って本当ですか?

カフェや職場で音楽を楽しむとしましょう。50 ~ 60db の環境でちょっと物音がしています。この環境下で難聴にならないような適度な音量で聴いたらベストバランスなイヤホンだったとします。
このイヤホン、同じ方が同じ音量で極めて静かな環境で聴いたらドンシャリですね。50 ~ 60db の環境でも高音や低音が程よく耳に届く音圧を持っていますので、極めて静かな環境で聴いたら十分過ぎる量感に感じ取れてしまいます*1

ここまで書いていまして、メーカーの方は「このイヤホンはカマボコ、ドンシャリ」などと一言で片づけられるのが非常に嫌だろうなと思いました。

高音/低音 の多い/少ない 機種は存在する

とはいえ、高音や低音の量感に差 (多い/少ない) がある機種は存在しています。聴取時の環境や音量による聴感の違いではなく、どのような状況下においても「この機種は少ない」と感じられるような類の話です。
一例として、わたしが過去所有したことのございます JVC のイヤホン HA-FD01 と HA-FW01 を挙げさせていただきます。同メーカーの一文字違い、価格帯も近いです。

上に添付した二つのリンクのうち上側が HA-FD01、下側が HA-FW01 です。共に数年のあいだ様々なアンプやイヤーチップを組み合わせ自宅や戸外で使用しておりましたが、HA-FW01 との比較ですと HA-FD01 は常に低音が少なく感じました。この 2機種の比較でしたら、多くの方が HA-FD01 のほうが少ないとご判断なさるでしょう。もし、ショップ等で試聴する機会がございましたら試してみてください。
尚、これは相対的な比較として申し上げているものです。ですので「HA-FW01 のほうが多い」と言い換えていただいて構いません。人により HA-FD01 の量感が丁度いいと感じる方もいらっしゃれば、HA-FW01 の量感が丁度いいと感じる方もいらっしゃるかと思います。

計測サイトのハーマンカーブ比較をどう見るか

イヤホンから生じる各周波数帯の音圧を計測しハーマンカーブとの差を提示するサイトは素晴らしいと思います。非常に役に立つものだと日々思っております。しかし、実際にそのイヤホンを使用している場面を想定して音を想像できるかと問われると、途端に役に立たなくなります。「私にとって丁度良いと感じる音量での状態ではどうだろう?」「周囲の音が多少存在するときの聴感はどうだろう?」 と問うと計測値からは何も読み取れなくなります。そこにあるのは、静寂のなかで実際に耳へ挿して使うときより遥かに音量の高い状態のサイン波をスイープして得られた測定値に過ぎないためです。

物音のする環境において控えめな音量で使用したときに良いバランスで音を奏でる機種が計測環境下で理想的なカーブを描く可能性は低いと言わざるを得ません。

相対比較で計測結果を読み、自分の経験という絶対的な基準で解釈する。

自分の所有しているイヤホンを静寂の中で爆音再生した場合の聴感を体験しており、かつその計測値も掲載されているという場合に限りますと、所有していないイヤホンの計測値は役に立ちます。
所有しているイヤホンの測定値と使用時の聴感を絶対的な基準に置けるので、それより多い/少ないを相対的に連想することができるためです *2
計測サイトの情報からは他にも様々なことが読み取れる*3ので、高音や低音の量感という話題一点のみを理由に「計測結果は相対比較で連想する程度のものでしかない」という結論にするつもりはございませんです。ハーマンカーブに沿ったものが理想的なバランスになるという絶対的基準を追い求めると、高価なイヤホンを実際に手にして使用する環境や音量で聴いた際に「なんだ、このバランスは!」と嘆く悲惨な結果が待っていますよ、という話としてお受け取り下さい。

究極、自分の耳と記事作成者の耳の相対化

理屈や経験などを長々と書きましたが、結論は二つに絞れます。

  1. 書いてあることを文字通りに受け取るのは危険です
  2. 自分の耳を基準にし、記事作成者との差を掴みましょう

このブログを書き始めたきっかけが「多くの記事作成者に助けられた」というものでした。機能紹介や新製品情報という分野でなく、音に関するインプレッションやレビューという分野の記事で「助けられた」と感じるのは、2 を掴めるだけの文章があるブログ記事でした*4。「この人、たぶん私より線の細い音が好きだな」とか「この人が刺さるという音は私は気にならない。私より相当大きな音量で聴いているな」等ということが掴めだすと、途端に記事から受け取れる情報が文字通りではなくなり、自分の必要とする情報へと解釈できるようになります。

ということで、私の記事も文字通りには受け取らず相対化していただけると有難いです。

音に関する印象変化

前回の記事 HiBy R6 Pro II 購入後インプレッション に記載したものと大きく変化はしませんでした。音に癖がなく滑らかに鳴らします。そして非常に解像度が高いため、結果として音源にシビアだという感想です。

癖のない音色

何か良い例えはないかなと暫く考えまして、それっぽいものを一つ思いつきました。
昔から DAP に注目していた方なら SONY の先代のウォークマン比較で「NW-WM1Z と NW-WM1A なら、NW-WM1A のほうが好み」という方がいた話を覚えている方もいらっしゃるてしょうか。この NW-WM1A を好む方には向いているかもしれません。
とはいえ、あくまで音の好みの傾向を例えただけの話でして、7年も前に発売された 1A と 最新の R6 Pro II を真っ当に比較したら 1A は辛いと思います。そして、過去記事から察するかと思いますが、私は NW-WM1Z 派です。私の好む音場よりちょっと狭いけど艶のある音をぐっと鳴らす 1Z に、音場の広い HA-FD10000 を組み合わせて使うというのを好んでいました。

好みではない「艶のない音色」について

「ということは、R6 Pro II はお前の好みではないじゃないか」と突っ込まれると、おっしゃる通りでぐうの音もでないのですが、音源を着色せず精度高く音へ変換するという傾向のお蔭で「ヘッドフォンやイヤホンで管弦楽団のホール録音は無理」という私の評価を変えてくれました。定位の再現性が高く位相ズレの少ないイヤホンと組み合わせた際の空間描写は素晴らしく、私がいままで試聴ないし所有してきた製品の中では唯一無二とも言える存在です。

宅録・打ち込みサウンドYoutube 音源からオーディオの世界に入られた方やまだ機器に散財をしていない方ですと、話がピンとこないかもしれません。ひとつ具体例を挙げてみたいと思います。

お手持ちの機材でこちらを聴いてみてください。桑原あいさんのピアノソロのアルバム「Opera」です。

music.amazon.co.jp

このアルバム収録のために東京オペラシティというホールを3日間借り切ったそうです。演奏のすばらしさは一旦棚に上げましてビアノの音色だけに注目します。これをお聴きになり「なんとも角の取れた丸い音だな。音の響き方や余韻から広いところで演奏したものと理解はできるが、耳元からそのような丸く余韻の強い音が聴こえるだけで平面的だ。」と感じられる方もいらっしゃるかと思います。いや、寧ろそう感じる方が多いのではないでしょうか。
次に比較用として桑原あいさんの「Dear Family」を聴いてみてください。

music.amazon.co.jp

こちらはスタジオでピアノの傍に多くのマイクをセッティングし収録されたものです。先ほどとは打って変わり、ビアノのアタックからサスティンまで細かくきらびやかに伝わるし低音から高音がセンターから右へと流れるように奏でられていると聴き取れるのではないかと思います。
余談ですが、打ち込みサウンドからオーディオに入られた方は、こちらの石若駿さんが奏でるシンバルの音を気にしてみてほしいです。最近の打ち込みサウンドのクォリティーは素晴らしく、生演奏が得意とする領域にも随分と食い込んでいる感があるのですが、生演奏との差が大きなところも数々ありまして、このシンバルはその最たる例かと思います。

最後におまけとして、1975年にケルンのオペラハウスで演奏されたものが収録された名盤、キース・ジャレット氏の「ケルン・コンサート」をご紹介します。

music.amazon.co.jp

こちらのアルバムの音色をお聴きになると、同じホール録音でもピアノのアタックやサスティンが「Opera」と違いきらびやかなのがわかると思います。楽器の音色を活かすのか空間描写を活かすのかという方針の違いで、こんなにも音色は変わります。

ここまで聴いていただいたところで散財をまだしていない方向けの話題に戻ります。
イヤホンやヘッドフォンでは、最初に挙げた「Opera」のような空間描写を活かした音源は角の取れた音が耳の傍から平面的に聴こえるだけになってしまい、奥行きがある広い空間に配したところから音が響いているようには聴こえないと考えていました。スピーカーでないと無理だと。ところが、HiBy R6 Pro II は定位の良さと微小音をそのまま再生させる解像度の高さとがあるので、マイクを通して音源に保存されたホール内の反響音の再現性が高いのでしょう、イヤホンやヘッドフォンでも立体的に聴き取れたというわけです*5

更に、同意していただける方も多そうな余談をもう一つ。
素直に演奏を楽しめれば一番よいのですが、一聴して「前のアルバムとは随分と音作りを変えたなー」とか「かなりマイクを離して録ったなー。空間再現性の高い機器でないと音源のもつ本来の美しさは出ないかもな。」などと考えてしまうのがオーディオに嵌ってしまった者の悲しい性でではないでしょうか。
そして、もし Opera を一発で「奥行は最初から感じましたよ。エッジを丸めてリバーブつけた音が耳元で鳴っている感じなんて無かったです。」という再生ができた方、是非機材をご紹介ください。(きっと、かなりのお値段の組み合わせではないかと…)

音の変化に関するお試し

「じゃあ、楽器の音色を楽しむ音源はどうするんだい? 艶が好きなお前は別の機材を使うのかい?」という話になるかと思います。これもその通りでして、私の好みや目的とはアンマッチとしか言いようがないです。少し物音のするカフェで使用しようと買ったのに、手元にあるのは細かな音に強みがあると感じる DAP。割り切って楽曲に合わせ他の DAP と使い分けというのも勿体ないので、いろいろと試してみました。

色々と試したなかで、このブログ的には最も「やっちゃダメなやつ」を写真からご紹介します。

HiBy R6 Pro II と AK PA10

出音が素直だと解釈する

R6 Pro II の傾向「音源を着色せず高精度で音へと変換する」というのは「自分好みの音に変えるには最適」という解釈もできますし、また使ってくださいと言わんばかりにバランスのラインアウトも存在します。
常日頃から散財したくないと願っていたのですが買ってしまいました。 アナログのポタアン AK PA10 です。最新の価格については下のリンクでご確認をしていただければと思いますが、わたしの購入時の価格で約8万円でした。毎度お金の話はしんどいですが、R6 Pro II と合わせると 20万円越えです。カフェ使いで感じられる程度の高音質 DAP と言っていたのに、ありえない金額に達してしまいました。
前回の記事をアップロードしてから半月ぐらいあとに買ったので、当時はそれなりに我慢をしていたのだと思います。半月も悩んで買ったのなら衝動買いではない、致し方ないと自分を慰めます。

AK PA10 の簡単なご紹介

主たる話題から逸れますので、AK PA10 のご紹介は簡単に。

アナログのポタアン

ジャンル的にはアナログのポタアンになります。購入した音源やストリーミングなどのデジタル音源を音に変換する機能はありません。別の機材で音に変換されたものを入力に使い、ヘッドフォンを鳴らせるだけの高出力へと増強する機材です。入力にアンバランスたけでなくバランスもあるものは意外と少なく、その数少ない機種の一つがこれです。HiBy R6 Pro II は、3.5mm アンバランスと 4.4mm バランスのライン出力端子をもっているの都合よい組み合わせになります。

4.4 mm のケーブルは付属していない

本体に付属している接続用ケープルは 3.5mm アンバランスのみです。4.4mm バランスは別途自分で用意する必要があります。ところが、短めの 4.4mm バランスケーブルというのは選択股が少なく、良品をお安く買うことが困難です。
毎度のことですが、私は手持ちの SONY キンバーケーブルの切れ端で自作しました。

キンバーケーブルは 8 芯のブレイド編みなのでバラして5本を 4.4mm バランスケーブルに、残る 3 本は捨てるのも勿体ないのでアンバランスケーブルにしました。

バラしたキンバーケーブル5本をはんだ付けして編みこむ。
残る3本も同様に。短いバランス、アンバランスケーブルの完成。
段差の重ねにくさはケースで回避

AK PA10 単体では音を出せないため、必ず何かしらの再生機と組み合わせて使うことになります。そのため、再生機を積み重ねようとしたくなるのですが AK PA10 は片面に段差があるので、積み重ねてテーブルに置くのが困難です。
この段差、下にリンクを貼ったケースを購入し装着したら無くすことができました。

ケース内に凹凸があり、段差の部分が吸収されるようになっています。

段差の部分がケース内の凹凸で吸収される

段差が無くなるので、DAPを積んだ状態でテーブルに置ける
Line Out 使用時の R6 Pro II 側の音量は 100 で大丈夫

HiBy R6 Pro II の Line 出力は アンバランス / バランス各々 2Vrms/4Vrms で、AK PA10 側の入力も各々2Vrms/4Vrms となっているため HiBy R6 Pro II の音量を最大の 100 にして AK PA10 側のツマミだけで音量調整しで問題ありません。
幸いなことにギャングエラー*6も感じておりません。

素とAK PA10 経由との聴き比べ

前回 HiBy R6 Pro II 購入後インプレッション を記載した際に、ヘッドフォン TH-909 を使い Hugo2 と比較した感想で「R6 Pro II のほうが軽く感じる」「中低音、ダブルベースなどの音域で差がある」と記しました。
この感想はその後も変わらず、またTH-909 以外のヘッドフォンを使用しても一緒でした。これを AK PA10 経由にしたところ

これだよ、これ (ニヤリ)

と思わず漏らしてしまう音にガラリと変わりました。中低音がグッと太くなり、厚みが増します。もう、大型ヘッドフォンを使っても Hugo2 比での細さを感じることなどなく、音の好みの範疇でどちらを使っても良いのではという程度の違いになりました*7。音色に軽く艶感も出できます。

出音はアナログ部分次第

よく最終的な音は DAC *8 後のアナログ回路で決まるという話を目にするかと思います。これが事実であると実感できる好例として、今回のものを上げたいと思いました。ほんとうにハッキリと変わります。
いくら大型ヘッドフォンを鳴らすような出力競争をしていない DAP だとはいえ、そこそこの出力はありますし音量も十分に取れます。なのに大きな変わりようです。

どうなんだろう、何かの間違いなのではないか。さすがに艶っぽさは AK PA10 の影響だとしても中低音の厚みというシンプルなものなら AK PA10 を介さず素の状態でも、もう少し存在してもいいのではないかと思い MDR-Z1R を使い聴き比べの実験をしてみました。

アンプのゲイン切り替えで変わるのではないか

AK PA10 経由で聴いた後、素の状態にしつつ同じぐらいの音量にして聴き比べる、というのをアンプのゲイン切り変えを挟んで試しました。巣の状態の際に、同じような聴感でも Low Gain で Volume を高くした状態か、High Gain で音量を絞った状態かという選択ができるので、その違いが音質に現れるのかという実験です。私の耳では以下の 3 つの状態が、大体似たような音量に感じ取れました。

  • Gain Low / Volume 30
  • Gain Middle / Volume 25
  • Gain High / Volume 20

で結論ですが、中低音の量感は違いました。Gain High / Volume 20 のときのほうが厚みが出ます。Gain Low / Volume 30 のときのほうが薄いです。
AK PA10 のときの厚みを 10、素で Gain Low / Volume 30 のときの厚みを 1 とすると、Gain High / Volume 20 のときは 4 とか 5 ぐらいまで厚みが出る感じです。ゲイン切り替えだけでそのぐらいは変わります。

ポタアンを買わなくても

買って実験をしたのでよくわかりました。中低音の厚みをもう少し欲しいという一点であれば、いきなり AK PA10 などのポタアンを買うのでなく、いちど Gain High を試すことをお勧めします。散財開始は試してからでも遅くありません(苦笑*9 )

また、試聴等でも Gain の Low, Middle, High は一通り試した方がいいです。イヤホンで Gain 切り替えでの変化が出るかと問われますと「私の手持ちのものでは殆ど感じない」という返答になるのですが、ヘッドホンでしたら「私の手持ちのものなら確実に変わる」という返答になります。皆様がお持ちのイヤホンでは変わるかもしれません、 Gain 切り替えは簡単に試せますので、判断は試してからでも遅くありませんです。

アンチエイリアスフィルタ*10

A と B が違うということはわかるが、どちらにどのような良さがあるかまではわからない。ということはよくあると思います。
更に、この A と B の差が脳トレの間違い探しみたいな僅差になると、どこに何の違いがあるかさえわからない、ということが起こります。間違い探しクイズだと実感できるでしょう、はじめ全くわからなかったものでも正解を知った後なら一目で違いを見つけられます。この「本物や正解を知っているとすぐにわかるが、知らないとわからない」「違いがあることさえわからない僅差もある」というのがこのアンチエイリアスフィルタです。
前項でシンバルの打ち込み音は生演奏比で云々という話をしましたが、これは私が某ジャズクラブで数m先の石若駿さんがものすごいドラムソロを演奏なさっているのを聴く機会を得ていたから触れることができたに過ぎず、生演奏を聴く機会に恵まれていなかったらきっと「打ち込みとスタジオ収録の音は明らかに違う」という話以上のことはできませんでした。

そんな前置きをしつつ軽く触れてみたいと思います。この話題は私にとって「どこに何の違いがあるかさえわからない」という苦手なほうの話題です。

アンチエイリアスについて

取り急ぎアンチエイリアスという言葉が初見だという方向けに。
デジタルデータは「間引いたもの」だという話を昔
Amazon Music HDをビットパーフェクトで聴く(前編) で致しました。アンチエイリアスは、間引いてガタガタになってしまったデータを元の滑らかなものへと復元する際に「似せる」計算手法のひとつだとご理解ください。似せるという点がポイントです。どんなデータに対してもソックリに似せられる万能な計算方法というものは無く、あるデータでよく似た状態になるけど、あるデータでは似ないということが起こります。ガタガタなデータを計算で滑らかに戻そうとすると、元の音には存在してない高い音が出現してしまったり、元の音の鋭さが変わったりしてしまったりします。
デジタルデータは間引いたものという言い方で察すると思いますが、この問題は音楽のデジタルデータだけでなく映像のデジタルデータでも生じます。元のデジタルデータのまま絵にするとギザギザしたものに見えてしまうので、どうやって元の滑らかな絵に戻すかという計算をしていたりします。

HiBy R6 Pro II のアンチエイリアスフィルタ

HiBy R6 Pro II では、以下のものから好きなアンチエイリアスフィルタ処理を選択できます。

  • Sharp Roll-off
  • Slow Roll-off
  • Short Delay Sharp Roll-off
  • Short Delay Slow Roll-off
  • Super Sharp Roll-off
  • Super Slow Roll-off
  • Low Dispertion Short Delay

これは、HiBy R6 Pro II で採用している DAC旭化成製の AK4191 で搭載されている計算処理の種類です。「このなかから良いと思う音を選べと言われてもなぁ」と感じる方も多いのではないでしょうか。また、私のように変えて聴き比べても何処が変わったかすぐに掴めなかったという方もいらっしゃると思います。
アンチエイリアスは元のアナログデータに似せる処理です。つまり、元のデータはこうなっている筈だ(元のサウンドはこうなっているはずだ) と理解できる人でないと「これだ」とチョイスすることができません。本物や正解を知っている人だけがわかる問題の典型例です(苦笑)。

処理の性質上すぐに思いつくヒントは「間引いたもの」を似せる処理だということ。つまり、元のデータがたいして間引かれていない場合は、計算処理をする前から超滑らかであるということです。逆に間引かれまくったデータであれば、計算処理による滑らかさが露骨に出ることになります。

であれば、ハイレゾ音源で一生懸命聴き比べても素人にはわかりにくい。それなりにガチャついた CD 音源で比べたほうが違いが出るでしょう。私と同様に「何処が変わったかさえわからない」と感じる方は CD 音源で試してみてください。

正解がない、正解がある

先ほど「どんなデータに対してもソックリに似せられる万能な計算方法というものは無く、あるデータでよく似た状態になるけど、あるデータでは似ないということが起こります」と記しました。そういった意味では、上に挙げたアンチエイリアスフィルタのどれを選べば OK というような正解はございません。しかし「間引く前の音」という根本となる正解ならございます。それを知る者は「このアンチエイリアスフィルタが最も近い」という特定条件下での解を導くことができます。

この「正解がない」「正解がある」という2点を意識しながら、こちらをご覧になってみてください。旭化成の方による解説記事です。

より良い音質を求めて | STORIES | VELVET SOUND - 旭化成エレクトロニクス (AKM)

このなかに、あるフィルタによる再生結果を確認した楽器メーカーの方が「これ、私が録音したドラムと位置が違う」とおっしゃったと書かれています。典型的な正解を知る者だからこそ気づける指摘。なんと示唆に富む素晴らしい話でしょう。

音の違いについて聴き比べる際、どこを意識なさるでしょうか。音の立ち上がりの速さでしょうか、音色でしょうか、消え際でしょうか、微小音の分解でしょうか。無音に近くなっていく際のノイズ感でしょうか。ここで指摘がありましたのは音色でも分解でもなくタイミングでした。タイミングに対して極めて高い意識が向くドラムだからこそ、一様にごくわずかにずれて鳴っていることを敏感に感じ取れたのだと思います。そして、それがきっと気持ち悪くも感じたのでしょう

音楽の作り手の方や演奏をなさる方であれば、意図的にキーをずらした楽器で演奏したりタイミングをずらして鳴らしたり、ラの音の基準周波数をちょっとずらして音を重ねたりすることで楽曲に不安定感を出すことが常套手段だとご存知ですし、その際にはどの程度ずらすと効果的かという方程式もお持ちかと思います。なのでズレという概念自体が悪という話ではありません。
一方で私のような素人には、それがどこまで意図的か否かわかりません。本物を知る方であれば「こんなものが意図的であるものか。間違いだ。」と一発で聴き分けるでしょう。意図的か否か分からぬ素人の私は「どちらが好きか」という基準しか持てないので「録音したドラムと位置が違う」というダメなものを好んで聴くということが確実に起こっているでしょう。

もう僅差の話だし、素人なら聴いても気持ち悪くは感じないだろうから、どうでもいい世界かもしれません。本物を見抜く力を試すTV番組「芸能人格付けチェック」のような世界ですね(苦笑)。

暴論な結論

考えだしたらキリがありません。かといって楽曲を創られた方が「違う」とおっしゃるものを聴くのも気が引けます。結論といいますか暴論。

アンチエイリアスフィルタの影響が出にくい、ないし出ない音源を聴けばいい。192kHz のPCM音源だったら、 5.6MHz の DSD音源だったら無問題じゃないか。

ということで「CD 音源のときに限り、気になるようなら変えてみればいい」と私は結論付けています。フィルタで悩んで音楽を楽しめなくなるのは疲れるし嫌な感じです(笑)。

ちなみに私は「Low Dispertion Short Delay」にしてあります。

まとめ

ダラタラと長く書いてしまいました。
最後にまとめてみます。断定的に書いてはいますが、全て「と思います」という感想です。

  • 癖がなく滑らかで解像度が細かい音。中低音薄くスッキリと感じる。
  • 定位良く広い。ホール録音に向いている。
  • Gain を High にすると中低音が前に出る。お試しあれ。
  • アナログアンプへの送り出し用途にいいかもね。
  • フィルタどれ選ぶ? 私は「Low Dispertion Short Delay」にしてる。けど、フィルタ気にせずに済むハイレゾを聴くのが楽でいいよ。

といったところでしょうか。参考になれば嬉しいです。そのほか、イヤホン選びでもっと好みの音にと画策したいのですが、散財を防ぐべく我慢をしております。

 

*1:イヤホンの嵌め方を浅くしたり僅かに空気が逃げるイヤーチップを使ったりして調整する方法もあることはありますが、それは個別の話題なのでここでは触れずにおきます。

*2:この連想、当たっても半分程度という感想です。計測時のイヤーチップやダミーヘッドへの嵌め方、そして自分の耳へのフィット具合等があるせいか、事前の想定より量感が多かったり少なかったりは起こります。これを言いますと元も子もないですが、結局「聴いてみないとわからない」となります。とはいえ予想ができるだけでも有難く、計測してハーマンカーブとの差を提示するサイトには感謝しかありません。

*3:例えば、特定の周波数帯に共振ポイントがある等といったデバイスの癖が読めたりします

*4:ネットショップや価格比較サイトにある単発評価や SNS のつぶやきは、音の傾向を掴む場合に限ると役立たないことが多いです。記事作成者の耳が全く分からないためです。稀に所有機種と好みを簡潔に述べたうえで他機種との相対比較に絞ったことを書いていらっしゃる方がおります。こういったケースでは単発でも非常に役立ちます。

*5:音に艶が出る機器は反響音を滲ませてしまうので厳しいです

*6:左右の音量が異なる状態になること。音量が低い位置で発生がしやすい現象です。私が過去所有した機材では SONY の PHA-3 で悩まされました。

*7:いやいや、Hugo2 + 2go で 30万円以上も使っていますぜ。更に 20万円ものお金を使って機材を買って、僅差になったとを喜ぶって根本的なところが間違ってますぜ。と自分へ突っ込んでおきます。

*8:DAコンバーター。デジタルデータをアナログの音に変える部分

*9:もちろん私は買ったことを当初は後悔しました(笑)。しかし、自宅で AK PA10 経由で聴くという頻度が意外と多いので、まぁいいやと割り切ることにしました。

*10:そもそも、DAC のフィルタはアンチエイリアスではなくデジタルフィルタだとかございますが、HiBy R6 Pro II のメニュー表記に合わせてアンチエイリアスと呼称させてください