最近は執筆者が AI のサイトを見かけるようになりました。サイトに纏まった AI の執筆物を読むまでもなく、ChatGPT や Claude にヘッドフォンの機種名を指定して尋ねれば上から目線で語ってくれます。「お前、本当に出音を聴いたんか!」とツッコミ入れたくなるほど偉そうに返答してきます。こうして人が書くのであれば、AI がまず言わないであろうことを書こうと思いますが、私のサイトを訪れている方の多くが実は人でなく AI という可能性もあり、なんだかなと思います。
これからも人の方々に向け頑張って書いていきます。
Dan Clark Audio E3
購入動機
前回の TH1100RP の記事 で、いつか E3 を私は買うのだろうと記していたとおりで、前々からの目的を果たしたという感じです。買った時期も前回記事をお読みの方はご察しかと思います。ヘッドフォンやイヤホンの衝動買いは少なくないのですが、この機種は買わずに相当の期間粘りました。買うのを遅らせた理由は、金銭的にしんどいと感じる価格帯にも係わらず先に TH1100RP を買ってしまったためでした。TH1100RP と E3 の価格を合わせると大半のメーカーのフラッグシップに手が届いてしまうので、2025 年のオーディオ機器購入は失敗だったと思います。
TH1100RP と E3
Dan Clark Audio (DCA)
ダンクラークオーディオ ( 以後 DCA と呼称 ) の製品を記事にするのは初ですので、メーカーについて軽く触れたいと思います。DCA はアメリ カのサンディエゴにある会社です。歴史はさほど長くなく、執筆開始時点で15年程度の社歴です。
以下、設立された頃から今日までを見聞きした範囲と記憶を頼りに記してみます。もし、ご興味を持たれたり事実関係の精度を懸念なされたりした方は調べていただけると嬉しいです。
T50RP 改造
2010 年代初頭に、このブログでも取り上げたメーカー FOSTEX ( 参考 T60RPmk2 購入後インプレッション ) の二代目 T50RP の改造がオーディオマニアの間で流行しました。RP ドライバの素性やポテンシャルが高く改造しやすいというのが理由でしょうか、逆に言うとドライバは良いのにハウジングやイヤーパッド ばイマイチで勿体ないとも言えます。情報サイト Head-Fi の Orthodynamic, T50RP mod thread で情報交換が活発にされ、Dan Clark 氏もそのなかに含まれていました。 Dan Clark 氏が只者でないのはここからで、自身の手がけた改造機種の製造販売に漕ぎ着けました。気になる方は Mad Dog, Alpha Dog, Alpha Prime 等の名称を調べてみてください。それが高評価を得ていたとしても、自分用と内輪の支持者に向けて制作した特注品に留めず一定品質で量産してしまうところに凄味があります。 個人ガレージ程度の規模による製造業をガレージメーカーと米国では呼び Apple も Gateway も創業時はそうでしたが、この Dan Clark 氏も同様でした。当時の社名は MrSpeakes でした。
自社ドライバ開発
改造による音質の研究が行くところまで行きつき、Alpha Prime では振動板の加工にまで及んでいました。改造品の限界を超えるべく、遂には自社ドライバを開発し、2010 年代半ばに ETHER, ETHER C を発売します。
ラインナップ拡充と研究開発
ドライバから自社開発するメーカーとして成功し評価を得た後も、そこに甘んじることなくラインナップ拡充と更なる研究開発に同社は勤しみます。 2010年代末にはドライバを更新して ETHER 2 に。このころ社名を Dan Clark Audio に変更します。2020 年代に入り発売されたフラッグシップ STEALTH はドライバを第 4 世代に、さらに新たなアイデア として AMTS という整音用のパーツがドライバとイヤーパッド の空間に入っています。
そして今回の E3
今回購入した E3 は 2023 年に発売された製品で、ドライバは第 5 世代です。同社の密閉型ヘッドフォンとしてはフラッグシップである STEALTH の 1 ランク下に位置づけられています。記事執筆時点より 2 年以上前の製品でで、その後にも様々な新製品が発表されていますが E3 は執筆時点で現行機種です。フラッグシップを 1 年でドライバごとモデルチェンジし型遅れにするメーカーと違い、製品サイクルに安心感があります。
お値段
記事執筆時点で E3 の直販価格は $2,299.99 、$4,499.99 する STEALTH の半額ぐらいです。最新の価格は Dan Clack Audio へのリンクを貼っておきますのでこちらをご確認ください ( E3 , STEALTH )。 日本円で 20万円程度までは思い切って買えてしまう金銭感覚の私は、昔なら $2,000 も抵抗感なく買うことができました。しかし、2021年以降の急速な円安のため簡単に買える価格ではなくなってしまいました。$1,999 というプライスタグが付いていたりすると、ショップ側の「お買い得」感を出そうとする意思を凄く感じるのですが、昨今の為替レートですと 30 万円オーバーで手が出せません。私個人の金銭感覚とショップのお買い得感演出は前と変わっていません。変わったのは為替レートです。弱くなった日本を身をもって感じます。
DCA の国内代理店は有名オーディオショップのフジヤエービックです。小売をする業者が代理店になっているため、他の店舗では手に入りません。その影響で試聴が可能な店舗や機会が減りますので、気になる方は少ないチャンスを逃さぬようご注意ください。代理店価格は執筆時点で税込み 385,000 円。この価格は改定後のものでして、改定前は 330,000 円でした。執筆時点で 1 ドルは 150 円を超えていますし、国内販売には消費税も加わりますので、改定前の価格では採算が合わないでしょう。
外見など
価格の割にシンプルなと言いましょうか、荒削りと言いましょうか、褒めポイントとして簡素としか言えない外見です。冒頭でガレージメーカーというワードを用いましたが、その前提でないと認め難い要素が多いです。
外箱
この価格帯のヘッドフォンとしては異様に小さな箱です。材質は紙。黒い塗装も安っぽく、皮脂が残るうえに少しでも掠れると剥げて白地が出てきます。擦らないよう丁寧に扱っても、箱の開け閉めだけで折り目の皺に沿って地が出ます。多くのヘッドフォンを買いましたが、この品質は悪いほうで No.1。これは材質選びのミス、コストダウンを言い訳にはできません。同価格帯であっても別の材質を選ぶべきです。ガレージメーカーだからパッケージに気がまわらないと思えば許せますが頑張って欲しいところです。
E3の紙箱を開ける
封印代わりのシールに切り込みを入れ開封 します。箱は手前側がマグネットで閉じられています。奥側に開くと裏側には「Enjoy!」の一言。思わず横にいた妻に「ダサい」と話しかけてしまいました。米国の方ですとこれを恰好良く感じるのでしょうか。
内容物
よく中古の商品紹介で「写真のものが全てです」と書かれていますが、購入者にストレスを与える無責任な言葉だと思います。購入者は欠品があるかを知りたいわけなので、写真が全てと言われても新品時の梱包内容を把握出来ない以上は無意味、「で?欠品はあるの?ないの?どっちよ」と突っ込まざるを得ません。
(左) 内容物 (右) ヘッドフォンケースを開けた状態
ということで内容物を広げました。写真撮影後にビニールに入った保証書の裏を見ましたところ、眼鏡を拭くような柔らかい布地が入っていました。これでヘッドフォンを拭くと良いということでしょう。中古をお買いになる方は布地の有無までご確認いただくと完璧です。 続けて上の写真右側です。このヘッドフォンは折り畳みが可能です。イヤーカップ をヘッドバンド側にバチンとしまい込むことができます。しまい込んだ小さい状態でケースに格納します。わたしはこの価格帯のヘッドフォンを持ち歩きませんのでケース収納に対するこだわりがあまりございません。E3 でそれをやるかは別にして、演奏家 やサウンド エンジニアなどのプロが日常使用するなら実用的なサイズで結構有難いのかなと思います。実用ではなく趣味のオーディオと捉えますと、この価格帯では Focal Stellia のセンスと品質が抜きん出ており E3 が子供騙しに見えてしまいます。せっかくなので画像も貼ります。
Focal Stellia の内箱とケース
E3 は音質以外にコストをかけないことで価格を抑えている、まだガレージメーカーの域を脱していないと考えると、仕方ないのかなと思います。音以外でも価格相応の品質バランスを求めるなら避けたほうがよいです。事前に割り切っておいた方がガッカリしなくてよいでしょう。
ケーブル
付属のケーブルは VIVO Super-Premium Headphone Cable という DCA ではハイグレードのものが入っています。これもやはり何と言いましょうか質実剛健 で、PVC のケーブルに編組スリーブを被せた手作り品のようです。とはいえショボい見た目とは裏腹に柔らかくて取り回しもよいです。別にこれでよいのではないかという良品質です。
ケーブルコネクタ
ヘッドフォンに繋ぐコネクタは特殊です。いや、汎用品なので決して特殊ではないのですが、他社で採用しているのを私は見たことがないためリケーブルの持ち合わせがないという意味で特殊です。
ケーブルプラグ
オーディオ機器に繋ぐケーブルプラグの種種は購入時に選択します。定番の 6.3 mm のほか XLR や 4.4mm なども選択できます。取り回しの良いケーブルですし前述の特殊なコネクタの事情があるので、後々リケーブルをすればいいやと適当に選ばないほうがよいです。
思想がよくわかる
思わずダサいと言っしまったパッケージ、手作り感あふれるケーブル。 説明書に目を移すと、装着時に髪の毛をイヤーパッド に巻き込むなとかメガネのフレームを当てるな等と口うるさい注意書きがあるんですよ。まるでこのブログの過去記事のようです。きっと、意識が全て音質にいってしまって他のことが眼中にないんでしょうね。 ここまでダメ出しが多めですが、メーカーとしての筋は通っていて一切ブレてないのが潔く、寧ろ好感を持てます。残念ながら酷い指摘はまだ続くのですが、まぁこれはこれでアリ、そういうメーカーだと割り切れます。 で、ケーブルの話に戻しますと、VIVO ケーブル込みで音質が完成する。まずはこのケーブルで聴いて欲しいというメッセージをひしひしと感じます。音質は下がるしコストも上がるプラグ交換機構などを採用する気は全くないでしょうね。同様にリケーブル資産を活用しやすくするためヘッドフォンとの接続に 3.5mmプラグを採用などもしないでしょう。
リケーブル
そんな DCA のメッセージを受け取っていても、やっぱりリケーブルを試したいということで、お試し程度に自作をしてみます。ヘッドフォン側のコネクタは日本のメーカーであるヒロセの HR10 シリーズ 4ピン オスのようです。DCA のサイト でもパーツ販売をしてはいますが、国内で買ったほうが太平洋を無駄に往復せず良いかと思いますので、製造元のヒロセのサイトも案内いたします ( コネクタ製品一覧 - ヒロセ電機 )。今回は Amazon で売っていた互換パーツを使ってみました。下にリンクも貼っておきます。
ZRMCC HR10A-7P-4Pサウンドデバイス用4ピンオスコネクタプラグズームF4F8ZAXCOMソニー産業用カメラ (Male, 4 Pin)
(左) 中を取り出す (右) 1,2 を使う 3,4 は使用しない
キャップを外し (写真左) 中を見ると、ピン横に非常に小さく番号が書かれています(写真右)。前述の DCA のサイトにピンアサイ ンが書いてあり、1 がプラスで 2 がマイナスとのこと。3, 4 はオーブンなのでペンチでカットしました。
(左) 嵌めて (中) 捻じって (右) 外す
キャップを外すときにちょっと迷ったので補足しておきます。そのままでは外せないです。メス側に差して捻じって外します。専用パーツを持ってはいないので E3 を使いました。E3 に残ったピン部分は指で摘んで抜きます。
キャップを通しておきハンダ付け
あとは普通にキャップを通しておいてハンダ付けすれば終わりです。
ヘッドフォン本体
ゴリラガラスを使った特徴的な外装は他の方の記事にある美しい画像から十分に伝わるので、私は伝わり難い切り口のお話を中心にしたいと思います。
臭い
「これは駄目でしょう」という臭さです。箱を、そしてケースを開けた瞬間から部屋に臭さが広がります。頭に装着したら鼻から左右数センチの距離で異臭物に挟み込まれる形になり、鼻が歪むような臭さです。 買われた方全てがきっとわかる臭気だと思います。そのぐらい臭いです。この臭気に耐えられるか否かは個人差があるでしょう。私は耐えられませんでした。初装着は「着け心地を確認したい」と寝る前にケーブルも差さず数分装着しただけですが、髪の毛に匂い移りして夜眠れなくなりました。実に不愉快です。恐らく接着剤などの有機 溶剤の臭さだと思います。そういった類の臭さだとは思いますが、何の物質かまではわかりません。
脱臭
継続使用に耐えられない臭さの機材というのは残念ながら初めてではないです。今までの経験では、ざっくり 2 割ぐらいの確率でヤバい臭さの製品にあたります。箱だけが異様に臭かったり本体も臭かったり。カビ臭さかったり有機 溶剤臭さかったり。
ですので脱臭にも慣れていまして、返品せず無保証になるのを承知のうえで分解洗浄することしばしばです。昔はアルコールや重曹 などで試行錯誤を繰り返しました。今では自己流の手法を確立しました。イヤーパッド やヘッドバンドの消臭に最も効果的かつ仕上がりも良好だったのは食器用中性洗剤による洗浄でした。この方法は安易に実行しますと水気を残してダメージを与えてしまうのでお勧めは致しません。それなりの注意と手間とを要しますが頑張ってやり切ると、美しく清潔かつ快適に使用できます。脱臭だけで一本の記事を書けてしまうため前振りはここまでにしまして、本題に戻ります。 このヘッドフォン、雑と言いますか安直と言いますか。両面テープでイヤーパッド を接着しているんですね。なのでイヤーパッド を長いあいだ外して単体で脱臭ということができません。洗浄なんてもってのほか。38.5万円という価格の製品が持つビルドクォリティーではありません。
E3 を脱臭炭と一緒に密封
で、購入翌日から始めたことが脱臭炭と一緒に密封です。左右のイヤーパッド がピタッとくっついていると内側の臭さがいつまで経っても抜けないので隙間を空けています。画像をよく見るとわかるかと思います。それと、チラ映りしている消臭に使った脱臭炭、コチラを買いました。
何でもよかったのですが冷蔵庫用や野菜室用などと成分を見比べて、食品特化の機能成分が含まれていないものを選んでこれにしました。普通に活性炭でもいいのかなとは思います。有機 溶剤臭ですと、洗浄ほどではないにせよ効果的な方法がまだあります。直射日光のあたる風通しよい場所で数日ほどの天日干しは効きます。しかし、さすがにそれは本体を傷めるのできませんでした。他にも上述より効果が弱いですが、部屋に臭さが広がるのを我慢すればヘアドライヤーの温風で飛ばすのも効きます。有機 溶剤は気化させて空中に放出し原因物質を減らすのが有効です。
ふだん仕事をしているため時間を取りにくいこともあり、月曜から金曜は脱臭炭と一緒に密封し夜に袋の空気を入れ替え、土日は朝晩 2 回ヘアドライヤーと室内陰干しをセットで 2 週間やりました。それで「まあ、これなら装着できるな」という水準にまで臭さが取れました。ちなみに今でもケースには入れず、左右のイヤーパッド がくっつかない状態でヘッドフォンスタンドに掛けています。そこまでして数か月を経て、やっと就寝前に使ってもいいと感じる程度までになりました。
買ってすぐ音楽鑑賞に使うのを我慢し、半月ぐらいホワイトノイズ再生しエージング するというのならアリそうな話だと思いますが、買って半月も音楽鑑賞を我慢して脱臭ですよ。これが DCA の製品じゃなかったら速攻で三行半です。
粘着物質溶け出し
イヤーパッド の一部にシミがありました。触ると指に粘着します。 「ヘアドライヤー程度の弱い熱で溶ける糊をイヤーパッド に使っているのか」とガッカリしました。 両面テープを使用している段階で既に残念な製品ですが、それを音のためだというなら理解はします。しかし、材質は選べるはずです。両面テープを使うなら、せめてイヤーパッド が劣化して交換するその瞬間まで「外したい」と思わないし外す必要もないというクォリティーの製品に仕上げておくべきです。こうなってしまうと、経年劣化に耐えられる品質なのかも懸念します。このヘッドフォンをたまにしか使わない、丁寧に使うなどでイヤーパッド を 3-4 年交換せず長持ちさせたら中がグズグズになったりしないかと不安です。
(上} イヤーパッド 内の粘着物質染み出し。触るとねっとり。 (下) 除去
外さずに綺麗に除去はハードル高そうですが、これは「プラスチック消しゴム」が有効です。プラスチック消しゴムならなんでも大丈夫だと思いますが、利かない製品もあると怖いので製品名を付記しますと、わたしが使ったのはトンボ鉛筆 の MONO 消しゴムです。鉛筆書きの文字を消すときよりもゴムの消耗が激しいので初めて試す方はびっくりすると思います。粘着物質を綺麗に絡め取ってくれて、仕上がりは間違いないです。他にもハサミやカッターでガムテープを切ってしまい、刃の部分をベトベトしてしまったときなどに試していたただければと思います。 上の除去中の画像で作業時間 10 分ぐらいです。左右合わせて一時間もあれば綺麗にできます。
ヘッドバンド
側圧を稼ぐ部分と頭に乗る部分が分かれているタイプです。外側の二本のワイヤーで側圧を確保し、頭に乗るだけの革のバンドは広めで頭に対する負担も少なくよい感じです。側圧も「耳が痛くなるほど強い」ではなくて一安心です。
と、ここまで来て久しぶりに良い点を書くことができましたが、ここにも残念ポイントがあります。
ヘッドバンドをニュートラ ルにした状態、頭に装着せず自然にした状態についてです。他社の製品ですと左右のイヤーパッド の隙間が数センチ空いた状態で止まったりしますがこの製品は左右ピタッとくっついて、さらにバネの力が残っておりイヤーパッド をお互いに軽く潰し合います。 そんなバネの強さですので、ヘッドフォン使用後にイヤーパッド を拭こうと軸をズラすと、バネがニュートラ ルに戻る力のせいで左右のイヤーカップ がお互いを傷付け合うようにぶつかります。
ニュートラ ル状態は互いに交わり傷つけ合う
手が 3 本生えていれば 2 本の手でイヤーカップ を一つずつ持ち最後の 1 本で拭き取り作業をしますが、そうはいきません。毎使用後のイヤーパッド 拭き取りはヒヤヒヤします。かといって使用後に皮脂を拭かず、バネの力でピタッと閉じっぱなしは不潔で嫌な感じです。
装着位置調整
イヤーカップ が自分の耳の位置に来るよう、カチカチと位置を変える機構がヘッドフォンにはありますが、この製品にはありません。カチカチとした段階がなく無段階、例えば T60RPmk2 ( 過去記事 ) のようになっているのかと言いますとそれとも違い、本当に無いんです。 「じゃあ、どうなってるんだ。耳の高さに合わせられないじゃないか」と思うかもしれませんが、そのとおりです。基本的には頭部の位置合わせをしないでフリーサイズの大きなヘッドフォンを側圧で押さえつけ止めるという仕組みです。 で、そこに頭部のバンド部分が頭に軽く添えられるように乗った状態になります。バンド内にバネで伸びる機構が入ってまして、頭が大きい人の場合は長く伸び、小さい人の場合は短いままになるようになってます。
(左) この状態から (右) 金属部分が伸び出てくる
バネが入っているので、基本的には短くなろうとする、装着時にはイヤーカップ を持ち上げようという力が少し加わっています。ですので、側圧だけで支えず頭側のほうにも重量が分散します。側圧も強すぎず頭部への分散もいい感じで、付け心地は非常に快適です。長時間の使用に耐えられてとても良いです。
ですがダメです。
ズレる
これで OK の人は頭のサイズがほどほど大きな方に限られます。 バンド内のバネは長く引き出すほど短い状態に戻る力が強く働きます。つまり、頭が大きい人ほどイヤーカップ を持ち上げる力が得られます。逆に頭の小さい人はバネの力が充分得られず、イヤーカップ が自重に負けて下がってしまいます。 物理的な話だけしますと、側圧が非常に強く、かつイヤーパッド と肌の摩擦が高ければ、究極はヘッドバンドが頭に接せず浮いた状態であってもイヤーカップ はズレずに耳の位置に留まり続けてくれます。 しかし、E3 の側圧は実に良い感じで緩いです。ヘッドバンドの支えや摩擦を十分に得られない装着状態ですと、首を下に傾け本を読んでもズレてしまいます。この記事の執筆時にも E3 で音楽を聴いていましたがイヤーカップ が下に少しズレてしまい、たまに上に戻していました。私より頭の小さな方は一様に、小顔の女子なんかはまず無理、確実にズレるでしょう。
結局、継続使用が困難なため対策を施しました。ヘッドフォンにノーダメージで施せる方法はないかと考え、紐でバネが伸びないようにしてみました
紐でヘッドバンドを抑える
何度か結び目の位置を変え、自分の頭にジャストフィットでするとこで留めました。これでイヤーカップ が下にズレることもなく装着感はバッチリです。ですが、これが 38.5万円のヘッドフォンなのかという話です。
とりあえず家にあったものを使ったので白い紐ですが、仕上がりを見ていたら濃紺や黒のほうがカッコいいとか、思い切って赤も深紅もいいなどと思ってきました。頭頂部の蝶結びを大きく飾ってカチューシャ風に、イヤーカップ のゴリラガラスにクリスタルのラメを貼ってデコろうかとも。シルバーラメで高音がキラッとするなどとオカルトっぽいチューニングワードを添えてとかダメですか? (笑)
白い紐だとどうやって結んだかを画像でお伝えするのには良いのですが、自宅の棚で映えないといいますか所有物として認め難いのでいつかやってみます。やったらデコった E3 の写真をブログに貼ります。
途中総括
ここまで、まるで欠陥商品 かのように厳しく書きましたが、イヤーパッド の形状と厚さ、ヘッドバンドの面積はよい感じです。長時間の使用に耐えられます。脳天痛くなる、耳痛くなる他社のものよりはずっと良いです。
つまり、基本的な機能は押さえていますが詰めが甘いしメーカーの意識が薄い ということです。多くの使用者を想定しサンプリングして改善するのということにプライオリティを置いていないのでしょう。この点でも「残念だけど、所詮ガレージメーカーだから」という感じです。
音
最初の感想は
これは巨大なイヤホンだ
でした。これ、7 割ぐらいは褒め言葉です。3 割ぐらいは思うところや含みを持たせてます。AI は間違いなくこんなこと言わないでしょうね。「E3 はイヤホンではありません。ヘッドフォンです」と言うでしょう (苦笑) 。
帯域バランス
まず言及すべきがこれ、そして逆に言うことが無いのもこれです。 このヘッドフォンはハーマンターゲットカーブにほぼ準拠しています。メーカー紹介で記しましたように、DCAはオーディオファンのコミュニティと距離が非常に近い会社で、計測結果を記す有名なサイト Audio Science Review に自らデモ機を提供しています。そして、E3 の計測結果のスレッド では Dan Clark 氏ご本人もディスカッションに参加しています。
このヘッドフォンの帯域バランスで高音が少ないとか低音が多いとか言うのは、ハーマンターゲットカーブの音が好きか嫌いかという話に近いです。そういう意味では、自分の好きなバランスがハーマンターゲットとどの程度違うか知るという意味で有効です。そのためだけであればお試しで買えるような値段じゃないのでお勧めしないですが、試聴ということでしたらこのヘッドフォンで多くの曲を聴いてみることをお勧めしたいです。
私が知らないだけという話は大前提にあるのですが、ヘッドフォンでハーマンターゲットカーブに寄せ切ってるものはあまり多くなくて、イヤホンであれば BA 多ドラ系を中心に割と存在する認識です。そういう意味で、出音を聴いた瞬間に「これはイヤホンだ」と感じたところに繋がります。
周波数特性のカーブについて
ハーマンターゲットを代表する周波数特性のカーブについて少し触れておきます。 ハーマンターゲットはそれ自体が正解とか原点という代物ではなく、スピーカーオーディオで多くの人が好ましいと感じるであろう目安として作られたものです。ですので、時を追うことで改定されていたり IEM 用のバージョンがあったりとバリエーションが存在もしてます。 あるオーディオ機材に対し低域が多いとか少ないとかいうときに、個人的印象を超え事実関係として正確に伝えるには「何を基準にしてどの程度多い」と言わないと相手には伝わらないです。個人的印象であっても情報の価値は十分ありますが、それを事実関係として表現するには「起点」が必要です。別に周波数特性に限らず何事であっても起点は必要で、日本の道なら日本橋 を起点にしようとか、世界の時刻ならグリニッジ を起点にしようというような決めの話に過ぎないです。 心地よいと多くの人が感じるであろうと定めたハーマンターゲットカーブは「周波数特性に関する事実関係を正確に伝えるための起点」に過ぎませんので、メーカーが心地よい音のバランスを追求した結果「ハーマンターゲットカーブより低音が多いほうがよいのではないか」とか「高音が出てたほうが良いのではないか」という志向や提案をするに至ることも十分あり得ますし、そうしています。私も KATO というイヤホンを非常に気に入っていた中国のメーカー MoonDrop は自身で設定した VDSF ターゲットという基準で機器を開発していますし、シンガポール の有名なブロガー Crinacle 氏は個人的好みとしてターゲットカーブを設定し中華系 IEM で多くのコラボ商品を出しています。最近注目されているノウルズカーブは 10kHz以降の超高域に着目した現代的なターゲットです。
計測サイトは大変ありがたいとか記事を読むコツがあるということを過去記事で記しましたが、上述のようなことの意識が根底にあります。自分の起点と相手の起点の差を知っていれば、相手の個人的印象がすべて自分の場合どう感じるかという参考情報に変換されます。 余談ですが、AI の解答にはこの文脈がなく様々なサイトの信頼係数の重みづけをした最大公約数を吐き出してくるので情報としてチープ、貧しいです。堅苦しい 言い方をしますと、どなたのオーディオブログもハイコンテクストで AI の文章にはそれが無く薄っぺらだということです。正解のあることや最大公約数が欲しいときには AI が良いのですけどね。音質の話になると微妙です。AI の解答にも独特の読むコツが要ります。
音場
いわゆるモニターヘッドフォンのように耳に貼り付くことなく一定の距離を空けて音が届きます。モニターヘッドフォンの耳に貼り付く音が嫌いとよく言葉にする私が所有している密閉型ヘッドフォン同士で比較してしまうと、E3 が特別広いとは言えないのですが、このお値段出すならこのぐらいは広くないとという感じの納得感です。
で、その特徴なのですが左右方向に広いです。この説明に必要なため解像度にも触れますと、とても高くかつ粒立ちが整っているため、左右方向の分離感が非常にあります。元々耳に貼り付かず距離を置いていて、さらに細かな音まで粒を潰さず鳴らせていますので結果として左右の広がりはしっかりと描写されます。この左右への広さも「イヤホンだ」に繋がります。しっかり作ってあるイヤホン、特に多ドラではなくダイナミックや平面一発で作ってあるイヤホンは左右方向の仕上がりに強いものが多いです。前後がダメで左右だけ強いものを股を裂かれたようで嫌いだとも過去に言ったことがありますが元々一定の左右方向の距離感をもってのことなのでさほど酷くは感じないです。
前後の描写に一芸ある MDR-Z1R と Typ821 で比較してみました。 MDR-Z1R は音源に残された前後を正確に描写するというより、イヤーカップ およびイヤーパッド の設計ですべての音がスピーカーのように前方向から届く感覚を帯びるように気遣われています。 そのため、前方から届く感覚は E3 よりも持っていますが音像を細かく点で捉える力は E3 のほうが持っています。コンサートホール中段のおいしいところを目指して作られた MDR-Z1R とは思想や用途が異なるこという受け止めが妥当かと思います。 Typ821 はイヤホンなので E3 との比較は適切ではないかもしれません。しかし、E3 はぶっちゃけイヤホンサウンド だし同じ平面一発だからと比較しますと、そもそも不利そうなイヤホンである Typ821 のほうが前後は取れます。音場全体のサイズは一回りコンパクトなのですが、解像度の高い音を濁らせず鼓膜に届けられるからでしょう、ホール録音の音源内に残る前後関係を感じ取ることができます。逆に言いますと解像度でイヤホンと勝負している E3 がよく健闘しているとも言えます。
AMTS
以下、事実と考察が混ざる表現になることをご容赦ください。ということで事実から。
ヘッドフォンの装着位置
このヘッドフォン、装着位置を変えると音のバランスが変わります。こんなに変わるかと思うほど変わります。所有者の方は皆さんご存じと思いますが、確認未済のでしたらすぐに試すことをお勧めします。また、試聴される方も必ず試されたほうがいいです。でないと、このヘッドフォンの音を確認したことにはならないです。最も良いバランスの状態や自分の好みのバランスの音を「試し損なった」状態かもしれません。
試し方を記します。まず最初にイヤーカップ の装着位置を出来る限り頬に近い状態に、極力前寄りにします。イヤーパッド の中で耳が立ち上がるぐらいまでが良いです。その状態で音楽を再生し始めたら、音楽を聴きながら少しずつイヤーカップ を後頭部側にずらしていきます。「おやっ」と思ったら何度か前寄せ、後ろ寄せを繰り返してみてください。 記事を書く前は「何方でもどんな曲でも試せばすぐわかるだろう」と舐めていたのですが、実際に記事を書きながら試したところ意外と曲を選ぶことがわかりました。音数が埋まっていないものと使用している帯域幅 に偏りがあるものはわかりませんでした。Go Go Penguin の Raven を聴きながらちょこっと試したら全然わからない、自分は何か勘違いをしていたのかと焦りましたが、勘違いではありませんでした。新旧数曲ほどのサンプルを Amazon Music のリンクで紹介します。
globe : SWEET PAIN / Amazon Music Robert Glasper : Paint The World / Amazon Music milet : Waterproof / Amazon Music
どれも下と上がしっかりと入っています。どれが一番わかるかといえば SWEET PAIN です。イントロ段階でものすごく太い低音の上に細かなハイハット が乗ってきてシンセが中域を満たすのですぐに試せます。KEIKO のボーカルが入った後なら瞭然です。Paint The World は執筆中に聴いていて「これもわかりやすいぞ」と載せたのですが、別問題として音源の状態、すなわち録音がよくなかったのでお好みのジャンルでしたらどうぞというサンプルです。Waterproof は初めからサビに入る前までは低音と milet の声が主体なので試しにくいです。0:50 ぐらいまで過ぎてからお試しください。
実際の聴こえ方ですが、イヤーカップ を上述の試し方に記した頬側から後頭部側に移す流れですと、中低音が徐々に減り中高音が伸びてきます 。キャラクターが徐々に明るくなる感じに変化します。 ここまでバランスが変わると、思うところ多くです。「装着位置の調整で好みの音のバランスで聴けるのはよいね。そんなことできるヘッドフォン少ないよ」と褒めることができますし「帯域バランスに関する各レビューサイトや試聴感想はどの装着位置の音で書いてるんだ。位置で変わるからどの感想もアテにならないぞ」とも思います。
ズレに関するアンサー
前の項目でヘッドフォンの装着位置とズレに関することをかなり丁寧に書きました。シンプルに装着感が悪くなるので狙った位置に留まらずズレるのはダメなんですよね。大前提としてダメ。 ところが、このヘッドフォンに限って言いますと音が大きく変わるので特別にダメなんです。他のヘッドフォン以上にズレちゃいけない。しかし他のヘッドフォンよりズレる。音質を売りにした、 日本のサラリーマンの平均月収が吹き飛ぶ価格のヘッドフォンがこれではより強くダメと言わざるを得ないです。
AMTS の形状と空間描写
音の広がりや空間を感じさせるヘッドフォンやイヤホンは、ドライバーを耳から離してドライバーと耳のあいだの設計に力を注ぎます。ヘッドフォンですとイヤーカップ を大きめにしてドライバーを耳の遠くに配し、耳の傾斜に合わせ傾け、スピーカーのように前から音が届く感覚を得られるよう工夫したり。前項で例示した MDR-Z1R の画像を下に示します。
MDR-Z1R のイヤーパッド 内 画像右が後頭部側
画像右が後頭部側です。ドライバを傾け、それにより出来た空間内での反射を軽減するため不織布のような素材を施しています。こうした工夫で耳に貼り付かず音の広がりや距離感を得ることに成功する一方で失うものもあり、音のフォーカスが甘くなったり低めの周波数帯の響きが強くなったりします。このブログ、イヤーパッド 交換のブログみたいなものなので読みに来て下さる皆様のほうが私より詳しいかもしれません。イヤーパッド で創る空間は最後の細かなチューニングに大きく影響を及ぼします。空間描写と解像度の両立は難しく、これが高価で高級なヘッドフォンの存在する理由の一つにもなっています。
で、DCA 流の解決策が AMTS 。ドライバーを耳に貼りつかせず距離を確保しているのですが、細かいメッシュ状のパーツを用いて空間を作らず音を耳に叩きつけてます。これによりフォーカスを甘くしてしまったり空間で余計な反響を作らずに済みます。
AMTS 画面右手前が耳の穴・頬側
ドライバーを真横に配しているので耳の傾斜に沿わせるために頬側を厚く、つまり耳の穴側は厚くし後頭部側は薄くしてあります。この暑さの変化が「イヤーカップ の位置で音が変わる」原因にも繋がります。位置をズラすと聴いている音が AMTS の厚いところか薄いところか変わります 。
勝手な推測ですが、管が細いので長い(厚い)ほうが低音の減衰は大きいのではないかと。なので、イヤーカップ を後頭部に持っていき AMTS の厚いカップ 前方のほうで聴こうとすると中高音が逆を聴くときより伸びるのではないかと見立てました。
また、音場が横には広いけど前後が狭いのもこれで説明がつきます。この巨大な細管の束で空間を潰し、耳に対し極力平行に音をぶつければ、そりゃ前後空間は感じられなくなります。薄いイヤーパッド で耳に張り付けるモニターヘッドフォンや耳穴に突っ込んで鼓膜に直接ぶつけるイヤホンに音は似ます。「これはイヤホンだ」という感想にも繋がります。 とはいえ、それらの同系統の音なのに左右に広い点では感心します。
おわりに
複数のヘッドフォンを所持して何も考えずしばらく使い続け、一番手にする時間が長いものがあなたにとってよい音のヘッドフォンだ。そんなことを過去のブログで書いたことがあります。そうなったら終わりだ、それがオーディオ沼だとの言葉も添えて(苦笑)。
いま使用時間の 5 - 6 割が E3 です。ほんと価格に合わないビルドクォリティーでダメなヘッドフォンでした。「でした」という過去形の言葉が示すように、弄り倒してなんとかしました。臭いのをなんとかして、イヤーパッド のベトベトを除去して、ヘッドバンドを自分専用の位置に固定して。ここまですれば、装着感も良いし音も面白い。 まとめに入ってしまって触れませんでしたが、解像度が高く音色の艶感感じないタイプのヘッドフォンなのでアンプで音は変わります。A級の柔らかな音を出すアンプで試したら、解像度が高いという長所が薄れてイマイチでした。アンプを試すのにも向いてます。
T50RP の改造から始まったガレージメーカーだけあり、買い手にも自社の製品を弄らせます。そっちの世界の製品なのでしょうね。 価格相応のラグジュアリーさを求めるなら Focal や MEZE などにいったほうが幸せです。価格相応かつ質実剛健 ならオーディオテクニカ や FINAL などにいったほうが幸せです。「とにかくお前らの考える良い音とらやを聴かせろや」という顧客が買うのが DCA なのだと知りました。
そういうのも理解できますし好感が持てます。持てますが Focal や MEZE も好きなんですよ。そんなに金持ちじゃないので、なけなしのお金はたいて買ったら、持ってウットリ、飾ってウットリ、聴いてウットリもしたいです。もう少し開封 時のプレゼンテーションもビルドクォリティーも頑張ってください。期待してます。