オーディオ 試行記録

多くの個人プログやネット記事に助けられました。私の経験を還元したくです。

iBasso Audio 3T-154 購入後インプレッション

ブログを執筆し始めた理由の一つが散財しないようするためでしたが、2023年はダメでした。記事にしただけでも、HiBy R6 Pro II , AK PA10 , Sennheiser IE900 , T60RP 50TH ANNIVERSARY と購入してしまいました。他にもイヤホンを 2本ほどとケーブルを数本購入しています。このうち、真に使用する目的をもって買ったのは R6 Pro II だけでした。

今年は昨年のようなことの無いようにと誓っていたのですが、その誓いも空しく四半期と待たずに新しいイヤホンを購入してしまいました。

iBasso Audio 3T-154

購入動機

仕事でストレスがかかったときに気になる新製品のニュースを読んでしまいました。iBasso から大型のダイナミックドライバを採用したイヤホンが発売されるとのこと。1DD好きの私には気になるニュースです。
どうせまたお高いんでしょと思いながら価格を見ると、2万円台で発売される様子。価格的には無理すれば買えなくもない。

「一週間我慢しよう。一週間後にまだ欲しかったら買おう。」

と我慢をしてみました。2万円台のイヤホンは多くの失敗のなか稀に成功が出るという経験をしてきた価格帯。これより安いとだいたい失敗で、良いものだったとしても「値段の割には良い音に仕上がっている」という感想と共に二度と使用しないという結果になってしまっていました。少なくともフラッグシップのイヤホンを複数持っているような者が所有して満足するような音には出会えません。ところが 2万円台には「これはこれでアリかも」と思える機種が出てきたりします。Letshuoer S12 や MOONDROP KATO はそんな機種の一つでした。「iBasso でこの価格か。1DD の大型ドライバか。聴いてみたい。」と買いたい衝動が勝ってしまいました。

iBasso Audio

アイパッソオーディオは中国オーディオメーカーのひとつで、新興企業の多い同国のメーカーの中にあっては老舗ともいえるメーカーです。といっても今世紀に入ってからのメーカーなので日本や西欧のメーカーと比べてしまったら新興企業と言えるでしょう。

同社の最近の主力製品とえば DAP やスティック型DAC。新製品の発表も頻繁です。手にしたことのある方も少なくないのではないでしょうか。

iBasso の製品 (左上) DC04PRO (右上) DX320MAX Ti (左下) DC-Elite (右下) DX260

3T-154という商品名

様々なネット記事に素晴らしい解説があるので詳細は省きますが、この商品名はイヤホンに使用されているドライバーのスペックをそのまま商品名にしています。そして、それが本当にこのイヤホンの音の特徴になっていることを知ることになります。

3T : ドライバーの磁束密度

振動版を震わせて音を鳴らすドライバの磁束密度が 3T (単位テスラ)とのこと。この 3T というのは異常に高い値です。ドイツのメーカー beyerdynamic は自社のドライバーの磁束密度の高さを誇りテスラテクノロジーと称してブランド展開していますが、リンク先のドライバーで 1.2T です。また、私の所有している FOSTEX のヘッドフォン TH909 でも 1.5Tです。どちらも大型ヘッドフォンのドライバですから、イヤホンで 3T というのがどれだけ凄まじいかわかると思います。磁束密度が高ければ良い音が出るという訳ではありませんが、硬い振動版を歪ませず正確に震わせるには高い磁束密度というのは理に適ってはいます。

154 : ドライバーの直径

直径が 15.4mm のドライバを搭載しているとのこと。これは異常というほどではないですが極めて大きな値です。耳に入れるイヤホンで 15.4mm は攻めたサイズです。ちなみに、Letshuoer S12 は 14.8mm 、MOONDROP KATO は 10mm 、Sennheiser IE900 は 7mm です。低音をしっかり出すにはドライバの直径が大きいことが有効ではありますが、IE900 の例にもありますように大きければ良い音という話ではありません。

お値段など

さきほど、2万円台のイヤホンには「値段の割には」という感じではなく満足できるものがあるとお話ししましたので、あらためて Amazon へのリンクを貼ってみました。
時間の経過が理由でしょうか。執筆時点で確認したところ、何れも私が購入した時よりもお安くなっていました。中国のイヤホンはモデルチェンジが激しいため、待つと安くなる傾向がありますね。新製品に飛びつかず、評判が良いものがセールになるのを待つというのも手です。

最近は為替の影響で高くなっている面があるため、ドルでの売価を軽く調べたところ、S12 と 3T-154 が $149 、KATO が $189 でした。この 3機種の単純比較ですと、KATO は格上になってしまいます。

外見

今回は発売直後に購入したため何処も品薄気味でした。在庫を多く持てたであろう大手オーディオショップから購入しました。

開封

外箱はカラー印刷でした。この価格帯のもののほうが外箱がガジェットっぽく綺麗だったりします。ゼロ一つ増えるとシンプルか高級化するかの二択です。

iBasso 3T-154 を開封したところ

上下にスライドできる筒状のスリーブをずらすと、下から上に蓋を開くことができる箱が現れます。

箱から全ての付属物を取り出してみました。

iBasso 3T-154 の付属物

持ち運び用のイヤホンケースに様々なサイズのイヤーピース、ケーブルは 3.5mm アンバランスと 4.4mm バランス両対応と追加投資不要の完璧な構成です。初めての有線イヤホンという方にも安心ですね。
ケーブルのプラグ部分は六角レンチで固定します。私は 4.4mm バランスで環境を揃えていますので、さっそく交換してみました。

3T-154 付属ケーブルのプラグ交換

六角レンチも付属していますので、特に困ることはありません。外す際に捻ったりフックを外したりする仕組みではないので、そのまま引き抜きます。

第一印象

まずは純正の状態でと、付属のケーブルと最初から付属していたイヤーピースで使用してみます。HiBy R6 Pro II と Chord  Hugo2 で聴いてみました。「うーん」
1時間ほど模索したのち、エージングと称して据え置きアンプに接続し楽曲をループ再生させた状態にして放置しました。

数日後に取り出し、本格的に試行錯誤を始めました。

装着感や音など

第一印象はよくなかったのですが、半月ほど試行錯誤した結果こうして記事にしてもいいと思える結果になりました。

装着感

まず、何よりも「大きい」です。この大きさが装着感にも音にも影響します。MOONDROP KATO と比較した写真がこちらです。

(左) KATO (右) 3T-154

ご覧の通り一回りサイズが大きいです。マグネシウムを使って軽量化しているそうで、その効果か重さは KATO より若干軽いぐらいなのですが大きい。最近の TWS イヤホンを彷彿させるサイズです。小さくて抜群の装着感を誇る IE900 と比べると際立ちます。

(左) IE900 (右) 3T-154

同じ耳に装着するものとは思えないほどの違いです。

使用しているドライバの大きさに関する話を前項でしましたが、これを思い出せば当たり前のことで、面積で比較すると 3T-154 は IE900 の 4倍もの面積のドライバを使用しています。大きくないわけがありません。

試しに通勤で使用してみたのですが歩いていると耳からポロっと外れてしまいました。TWS イヤホンと異なり有線かつ Shure 掛けなので耳から落ちる心配はないのですが、歩かなくても首を軽く振るだけで緩くなるので相応の対策は必須です。この時点で、何故大量のイヤーピースが同梱されているかわかりました。これだけの種類があれば耳に合う外れにくいものを選ぶことができるだろうということです。

写真を見てわかる方もいらっしゃると思いますが、私は肌に吸い付く感覚のある Sednaearfit XELASTEC にしました。このイヤーピースを使い TWS の装着よろしく捻るようにして奥まで嵌めることで適切な装着感を得ました。フォームタイプのイヤーピースを潰して嵌め、外耳で広がることにより装着感を得る方法も有効かと思います。シリコンの滑るタイプを浅く装着するのが好きな方は苦戦するかもしれません。

前回 IE900 の記事で新たなリファレンス環境を得たと記しました。

soundsmind.hatenablog.com

その後の1発目イヤホンということで「ちょうどいいサンプルを得た」とばかりに比較を丁寧にしてみました。比較に使ったイヤホンはこちらです。全て 1DD ( S12 のみ平面駆動 ) なので良い比較になると思いますが如何でしょうか。

左から順に (上) KATO , 3T-154 (下) S12 , FW-10000 , IE900

FW-10000 と IE900 は反則だろうと思われる方もいらっしゃると思いますが、それらが手元にあっても使いたくなるようなイヤホンでなければ買い増しする意味がありません。「私は使わないけど値段の割には良い音」 という解説記事を書きたいわけではないので敢えて並べてみました。

それでは、比較で得られた特徴を色々と書いてみたいと思います。

3T-154 は高感度

非常に感度の高いイヤホンです。もちろん上記 5 機種では 1 番。過去マルチ BA 型を使用したときの印象に近いものがありました。アンプに AK PA10 や AK HC2、SU-AX01 を使用したときにサーっとホワイトノイズが聴こえるのは他機種でもわかるので当然として Chord Hugo2 や HiBy R6 Pro II を使用したときに聴こえるのには驚きました。1DD では良くも悪くもトップクラスだと思います。正直申しまして、普段からヘビーにイヤホンを使用していて耳にダメージが蓄積されている方は Hugo2 や Pro II のときのホワイトノイズは聴こえないと思います。私と同様に普段から耳に気を使っていらっしゃる方でしたら間違いなく聴こえるかと。演奏が始まってしまえば気になりませんので問題があるわけではありませんが、このイヤホンの特徴の一つと言えるでしょう。この感度の高さに、3 テスラの片鱗を感じました。

また、この高感度の影響でしょうか、リケーブルの変化も大きいです。手持ちのケーブルをいろいろと試して純正よりも高音がスッキリしているものに変えました。もし納得いかない音色だったときにはリケーブルを試すことをお勧めします。

音場の広さ 箱鳴り

広い音場があるかというと、それを特筆するほど凄いものはないです。写真に挙げた 1DD 比較ですと、マルチ BA に比べどれも広い方になってしまうので至って普通です。今回の 5 機種の比較ですと FW−10000 の次ぐらい、いや KATO といい勝負といった感想です。広い音場というのは裏返すとイヤホンの筐体内の響き。すなわち箱鳴りがあるということで、この機種にはそれがあります。もし、癖少なめでそこそこの音場も求めるなら KATO のほうが良いです。

FW−10000 のシンバル音には独特のクァーンという艶っぽい響きや距離感がありまして、筐体で作り出される効果の一つとして実感ができます。3T-154 にも同じような傾向、音色や効果の詳細は違うのですが、筐体からもたらす効果という意味で同じようなものが見られます。全ての音にドライバから直接届く音とは別に筐体内で一度反射して届くものが含まれているように感じます。この効果が音の鋭さを緩和し独特の余韻を与えています。

逆に言いますと定位はダメです。ホールの反響音も含めて音源に落としたクラッシックなどは距離感が全て失われてしまいます。一方、距離も位相も関係なく打ち込んだ楽曲はピタッと嵌ります。よくボーカルを限界まで音圧上げてミックスした女性声優の楽曲でサ行が刺さるとおっしゃられる方がいらっしゃいますが、そういった曲を聴かれる方は一度お試しになると良いかと思います。アタックの処理がとか、音の消え際がリバーブかエコーかの区別がといったモニター的なものには不向きですが、前述の系統の楽曲を楽しむには向いていると思います。

程よい癖と響き

鋭さが削がれ、そこそこの響きがあるため「聴き疲れ」が少ないイヤホンです。明らかに S12 や KATO よりリラックスして聴けます。感度が高いイヤホンなので、音が潰れて解像度が出ていないわけではありません。しっかりと分解できています。出来ていますが箱の響きで特にアタックや消え際がこのイヤホン独特の音に変わっています。

定位なら S12、再生機や音源の良さを素で感じるなら KATO、聴き疲れせず音楽をながら聴きするなら 3T-154 といったところでしょうか。有線イヤホンの最初の一本目とかハイレゾの高音質生演奏録音を楽しむとかですとお勧めし難いのですが、バリエーションの一つとしてであればありだと思います。スマホTWS イヤホンは卒業して廉価な DAP を所有したという方が、KATO と 3T-154 の2本を持っているとかでしたら当面は満足できるのではないかと思います。

もちろん、一桁高いイヤホンと比べたら明確な差があります。しかし、値段の割にはというような評価をして使わなくなるイヤホンでなく、たまに使いたいと思えるイヤホンでした。

Sennheiser IE 900 の素晴らしさと難しさ

随分と前に購入し、かつ一度記事にしてみたのですが没にしてしまった Sennheiser のイヤホン IE 900 について記してみたいと思います。既に多くの方が素晴らしいレビューをしていて今更感が強いというのが没にした理由だったのですが、意外と使用時間が長くあらためて感想を書いておくのも悪くないと思った次第です。

購入動機

過去記事 HiBy R6 Pro II のその後と AK PA10 の最後で「イヤホンで好みの音に」と書いていましたが、記事執筆後ほどなくして諦めました。手持ちの様々なイヤホンと余剰リケーブルで色々と試したのですが、好みの音と異なる方向性の DAP なこともあり、無理して及第点を探してもしょうがないと感じました。

であれば、好みは無視し DAP の特徴を活かしてはどうか。追求するのは没個性。他の機材と比較する際の基準、リファレンスとして役に立ちそうと考えたわけです
音色や艶を求めた結果 SONYNW-WM1Z と VICTOR の 
HA-FW10000 の組み合わせに行き着いた自分の趣味とは真逆を突き詰めることにしたわけです。

(左) Sony NW-WM1Z (右) JVC HA-FW10000

候補選定

色艶を付加せず録音状態の悪いものが悪いまま再生されること。響きを付加せず位相が整った状態で空間描写ができること。低音はタイトでキレがあり高音は伸びること。
1DD の高性能機なら要件を満たすのではないかと脳内を検索したら、三機種ほど思いつきました。

(左) IE 900 (中) A8000 (右) Perpetua

珍しいことに、今回は購入時に試聴することとしました。IE 900 と A8000 は適いましたが、Perpetua は残念ながら適わずでした。

店舗試聴は難しい

鍵のかかったショーケースに「全て試聴できます」というポップが貼ってある某ショップ。定員さんに「試聴させていただけますか?」と伺うと笑顔で応じて下さりました。

さっそく DAP を取り出して聴き始めるのですが、ここからが難しい。傍では低音がウリの大型 Bluetooth スピーカーがズンズンとデモ音を発していたり、店内スピーカーからはお客様向けのアナウンスが流れていたりします。微細な音の確認は厳しいです。持参したイヤホンとの比較と連想に賭ける感じになってしまいました。
ポタフェスやヘッドフォン祭が盛り上がる理由がよくわかります。イベントとして試聴の場が設けられるのは有難いことですね。

困ったときは聞き慣れた定番曲

きっとこのブログを見てくださっている方はイヤホンやヘッドホンを試すのに必ず聴く楽曲をお決めになっていることでしょう。同じ曲で比較するからこそわかることが沢山あります。今回のように店先で数分聴いて判断するとなれば尚更のこと、聴き慣れない曲では多くの迷いを生じます。減らすに越したことはありません。
手持ちの楽曲から、この二曲で判断することとしました。各々 Amazon Music へのリンクを付けましたのでお聴きになりたい方は飛んでみてください。

Alive は冒頭の30秒で再生機器側の味付けがよくわかる音が沢山出てきます。控えめに連打されるドラムのキック。ピアノの左手。シンバルの乱打。全帯域で抜け良く、解像度高く、余計な残響音をつけずに再生させないと何処かのパートの音が潰れます。
Bloom は瑞々しいピアノの音の背景で奏でられているドラムのブラシが勝負で、これが良い機器だと細かく粒立ちよく奏でられるのですがダメな機器だとまるでホワイトノイズが鳴っているように再生されてしまいます。
本当は空間描写、位相周りの確認もしたかったのですが諦めました。1DDのフラッグシップ機を選んでいるので耳に貼り付いたような印象さえなければきっと大丈夫だと思うことにしました。

結果、IE 900 を選びました。どちらにも良さは感じましたが、高音の抜けの良さとブラシの良さで決めました。店頭の騒音下でも「これは ! 」と感じるものがありました。試聴をさせてくれた御礼も兼ねてその場で買って持ち帰りました。

製造時期と価格について

この機種の発売日は 2021/6 と記事執筆時点で 3年近く前となっています。発売当時の価格は 179,080 円でしたが、その後に襲った原材料費高騰とインフレの煽りを受け 2022/4 に 214,500 円に値上げされました。
また、この値上げの数か月前に製造拠点がドイツからアイルランドに移されました。
同じ製品でも「いつ買うか」で価格や製造拠点が変わるとなると迷うことも出てきてしまいますね。値上げ前の価格を知っている方は特に躊躇してしまうかと思います。ここ数年私が思うのは「思いついたときに買う。迷うなら買わない。」ということです。待っても安くなる、良くなるとは限らない。ということで、私が手にしたのは価格上昇後のアイルランド製です。
私が購入した頃は Amazon での取り扱いがありませんでした。記事執筆時点で確認したところ、私の購入価格より 安い価格で取り扱っていました。

この機種については多くの中古が廉価で流通しているので、敢えてそれらを試すのもアリかもしれません。

外見

この機種は非常に多くの方が記事にしていらっしゃり、それらを見たほうが詳細かつ有益なため、簡単な紹介に努めたいと思います。

開封

2023年のアイルランド製新品を開封したところです。旧機種と違うところはありますでしょうか?

Sennheiser IE 900 の箱を開けたところ

箱の上段にはイヤホン本体があり、それを取り出すとマニュアルや小物類が格納された下段が現れます。ケーブルが三種類、3.5mm アンバランス、2.5mm バランス、 4.4mm バランスと同梱されている点は珍しいです。もう 2.5mm バランスは要らないのではないかとも思いますが、この IE 900 発売当時は A&Ultima SP2000 が現役のフラッグシップだったことを考えますと 2.5mm バランスの同梱は必要だったとも言えます。SP2000 を購入するような耳の肥えた方に是非使ってほしいというシグナルを送っているように感じます。

イヤホンケース

イヤホンケースが同梱されてる機種は多く、また廉価な機種でもよく見られますが、わたしは使ったことがございません。いつもイヤホン用のポーチを別に用意します。ポーチに傷はついても構いませんがイヤホン本体には傷がつかなようなものを選んで使用しております。カバンに入れたケースに傷がついたら残念な気持ちになりそうですが、別に買ったポーチなら気が楽です。

そんなこんなで、使うことのないケースにはバランスケーブルが格納されているので、取り出したついでに裏面を見てみました。シリアル番号が記載されていました。

IE 900 のイヤホンケース裏面。シリアル番号はボカしています。
ケーブル

私が使用するのは、4.4mm のバランスのみです。他は新品のまま試しもせずに仕舞われることとなります。

IE 900 の 4.4mm バランスケーブル

IE 900 のコネクタは mmcx タイプの形状をしているのですが少し長いらしく、mmcx として発売されているリケーブルは嵌らないそうです。そして、上記の写真を見ていただくとわかりますでしょうか、歯のついたワッシャが入っております。このワッシャの効果は接点不良が減るものとのこと。この手のワッシャは Shure 製のイヤホンケーブルにもあったと記憶しています。

イヤホン本体

本体を取り出し、ケーブルとイヤーピースを嵌めてみました。
非常にコンパクトで軽く、耳への収まりがいいです。様々なイヤホンを使ってきましたが、最高峰のひとつに挙げたいと思います。

IE 900 本体。小さくて耳にフィットしやすい。

比較用にお気に入りのイヤホンのひとつである HA-FW10000 と並べてみました。ひとまわり小さいのがわかるかと思います。この写真を撮ったのが開封直後ではなかったのでケーブルが純正品ではなくなっておりますが、その点については後述します。

IE 900 と HA-FW10000。リケーブルについては後述。

素晴らしい音。難しい使いこなし。

試聴環境から自宅に場所を変え色々と試しました。記事を書いている今、あらためてこの機種を表現しますと「とても素晴らしく難しい」という一言になります。

デフォルト状態での音の印象

店頭試聴時と同様の状態、純正ケーブルで Hiby R6 Pro II に接続し同じ楽曲を聴きました。印象は素晴らしいものでした。伸びやかな高音と締まった低音。全帯域で微細な音が潰れることなく表現されます。思わず「凄いな」と声が出ました。

プレイヤーを変えてみる

次に再生機を変えて試してみました。Chord Hugo2 で再生してみますと、Hugo2 のもつ粒立ちの良い磨かれたような一音一音が IE 900 から聴き取れます。続けて、SU-AX01 で試しました。バイオリン等の擦弦楽器で特に感じられる艶のある音が楽しめます。
ここで「参ったな」と声を漏らしました。アンプの素性でここまで変わると、何処を弄っても音が変わることが容易に察せられます。難しいものを手にしたことを知った瞬間でした。

(上) Chord Hugo2 (下) JVC SU-AX01
イヤホンを変えてみる

続けてプレイヤーを Hiby R6 Pro ii に固定し手持ちのイヤホンを変えてみることにしました。HA-FW10000 のほか、moondrop KATO など様々な所有機種と聴さ比べました。結論は最も無味・無着色でした。「音に味や色なんてあるか ! 」というツッコミは受けます。音に色なんて無いのですが IE 900 を純白に例えると他は少しベージュがかってたり茶色っぽかったりします。IE 900 で聴くことで他のイヤホンの癖を改めて知ることになりました。

狙いは成功か否か

リファレンスになる環境を狙っていたので今回は上手くいったのかと自問すると「いや、完璧とは言い難い。僅かに足りてない」というのが自答でした。高音の解像度と定位についてのみは Letshouer S12 のほうが若干上。音色は IE 900 のほうが圧倒的にクリアですが前述の点が僅かに後塵を拝すように感じました。Hiby R6 Pro ii の良さでもある部分での不足ですので、諦めてしまっては意味がない。
模索の始まりでした。

パーツ交換による音の調整

「家に着くまでが遠足」ではありませんが「鼓膜に届くまでが音のチューニング」です。ドライバが音を発してから鼓膜に届くまでの経路で音はいくらでも変わってしまいます。ドライバから発せられた音は軸の部分であるステムとイヤーピース、耳の穴を通り鼓膜を揺らします。ヘッドフォンの記事にてイヤーカップを強く押したり隙間を開けたりすると音が変わってしまうことを記したのと同様に、イヤホンもイヤーピースの合わないのもので聴いたりしますと音が変わってしまいます。
まずは最も簡単に音が変わるイヤーピースから確認することにしました。

イヤーピース

IE 900 にはシリコンタイプとフォームタイプの二種類のイヤーピースが付属しています。どちらとも使用しましたが印象は大きく変わりませんでした。
奥と手前の2段階の位置で装着できるのですが、手前で止めて使用する場合はイヤホンを耳に嵌めるときに慎重に扱わないと奥にずれてしまいます。奥までのみと考えた方が無難です。

フォームタイプを装着。(左) 手前まで (右) 奥まで
リケーブルについては後述。

純正品のイヤーピースが耳にフィットしないことはよくあることなので、10 種類程度のサードパーティ製イヤーピースを常備しています。それらを順番に試すことにしました。手持ちの一部、SednaEarfit を写真に収めました。サイズは全て SS です。

左から順に SednaEarfit XELASTEC , Crystal , 純正シリコン , MAX

サードパーティ製を試してみるにあたり、あらためて純正品を確認しました。結果、高音の解像度や定位に影響が出そうなもチューニングパーツがイヤーピースに含まれているのを見つけました。イヤーピース内にスポンジが入っていました。

(左) 取り出した状態 (右) 取り出す前の状態

このパーツには音の角を取る効果が確実にあります。「鼓膜に届くまでが音のチューニング」と言わんばかりの仕込みです。このスポンジ込みで IE 900 の音を仕上げているのでしょう。
筒抜けの SednaEarfit に変えてみたところ、音の立ち上がりが鋭くなり高音の解像度が増しました。これで OK、求めていた音になったと言えなくもないのですが、再び「ウーン」と唸ってしまいました。

難しいです。

鋭くなった状態を良いといえば良いと捉えることができます。しかし、スポンジが入りリスニング向けに整えられた音こそ良い音だともいえます。極めて鳴らしやすいイヤホンだけに、使用しているプレイヤーによってはスポンジの入った状態でないと音が暴れてしまうことは十二分にあり得ます。

組み合わせるプレイヤーが Hiby R6 Pro ii、かつ聴く曲が高音質楽曲であるという点から、使用するイヤーピースは筒抜け状態のひとつである SendnaEarfit XELASTEC にしました。

使用するプレイヤーと聴く楽曲で正解は変わると思います。「これがお勧めです」と言えない難しさがあります。ちょっとしたことで確実に音色が変わる IE 900 は素晴らしいと思います。故に難しいです。

リケーブル

このブログをご覧になっていらっしゃる方なら「音が変わる」と認識なさっている方が多そうなケーブル交換、リケーブルについても記します。

リケーブルはしないつもりだった

当初、イヤーピースの交換までに留めてリケーブルをしない方針でした。

既にプレイヤーを変えると確実に音が追従することとイヤーピースにチューニング用パーツが仕込んであったことを知っていますので、ケーブルについても同梱の純正ケーブル込みで音が創られており、リケーブルでの音変化が大きいと察することができました。
一部の高級ヘッドフォンではまるでリケーブルを前提としているようなものが同梱されていたりしますが、IE 900 には良質なものが 3 種も同梱されており「このケーブルで聴いてくれ」と言わんばかりの気合いを感じ取ることができます。であれば、これを使い続ければいいだろうという判断です。

リケーブルは物量勝負

これもこのブログを読んでくださる方なら同意してくださる方が多そうな気がします。リケーブルは物量勝負です。非常に高価なケーブルを無理して一点買いするよりも、質実剛健なものを 10 本所有して全て試す方が満足いく結果が出ます。数を揃える前提での経済力勝負みたいなところがあって、20 万円のものを 1 本持つより 10 万円のものを 2 本、2 万円のものを 10 本持った方がお気に入りの音に早く到達できます。

だからと言って、いきなり自分の購買力より桁を 1 つ下げたケーブルを 10 本買って、9 本を無駄にするということもし難いものです。
すると、自分の購買力に近く試してみたいケーブルを偶に 1 ~ 2 本買ってみるということを繰り返し、年月の経過と共に「ケーブルのコレクション」が出来上がります。

困ったコネクタ

出来上がった私のケーブルコレクションはメインが mmcx タイプ、サブが 2pin タイプです。Sennheiser にも入る mmcx という基準で集めたことはありません。リケーブルは物量勝負。IE 900 のためだけに一からやるのか? と問われると躊躇します。

おまけに特殊なコネクタであるということは選択肢が少ないことと同義です。ますます気力が失せます。気合いを感じる純正でいいじゃないかと。

たったの半日で気が変わり購入へ

ところが、たったの半日で気が変わりました。ケーブルが服に触れたりしたときに耳に伝わる不快な音、タッチノイズが気になってしまったためです。大丈夫な方も多い範疇だとは思いますが、私は許容範囲を超えてしまいました。「音探しの旅に出るためではない、タッチノイズのしない快適な状態にするために買おう。」と自分に言い聞かせ一本買うことにしました。とはいえ、失敗したら 2 本目、3 本目と行ってしまいそうな嫌な予感もします。

IE 900 で装着できると公表されているものを探し、見つけた少ない選択股のなかから、試し買いと思えるお値段だけど 2本目に進まず最後になってほしいと願って買ったものがこちらでした。

丁寧に聴き比べしてしまうと音探しの旅が始まってしまうので本来の目的に絞ってインプレッションをしました。

問題だったタッチノイズは完全に無くなりました。大変良かったです。そして、音色も純正使用時と比べ色が付いたり著しく解像度が落ちたりという印象は起こりませんでした。何よりもタッチノイズが無くなり鑑賞に集中できるようになったので「これで良し」としました。

本当は、この onso 製ケーブルの mmcx コネクタと IE 900 との嵌りが良かったので一通り買って試したい欲求が出てきたのですが何とか我慢しました。

Shure 掛け用パーツ

IE 900 は耳に装着する際、メガネのように耳の後ろから耳上にケーブルを這わせる通称「Shure掛け」をします。先ほど紹介した onso 05 はShure掛け用の形状をしておりません。そこでケーブルをShure掛け用の形状でホールドするパーツを付加することにしました。

左から Final Type A 開封前 , 開封後 , NOBUNAGA Labs , サイズ比較

試しに 2 種買って比較してみました。柔らかさとサイズ感とで Final Type A のほうが合いました。装着した状態の画像はこちらです。

ONSO 05 に FINAL Type A

モニター環境の出来上がり

モニター環境の出来上がりとタイトルをつけてはみましたが、弄れば弄るほど音が変わるイヤホンのため、出来上がりとは言い難いです。

しかし、Hiby R6 Pro II と組み合わせて没個性・リファレンスとして役に立つものを、という目的は果たせました。余計な響きが付帯しない、音の消え際が楽しめる環境として満足のいくものになりました。

この状態にしてから半年近く使っていますがイヤーピースを変えたいとかケーブルを標準に戻したいと思ったことは今のところありません。また、イヤホンだけでなくヘッドフォンも含む他の機器の使用時間と比して、IE 900 の時間が最も長くなりました。音もさることながら耳への負担が最も軽いという点も大きいです。

どのプレイヤーで使用しても魅力を引き出すことが出来る優秀なイヤホンなので単一機器用に固定するのは正直申しまして勿体ないのですが、そのプレイヤーに合わせたイヤーピース選定やリケーブルが上手く行く可能性が高く、投資に歯止めが効かなくなるのが難点です。

 

T60RP 50TH ANNIVERSARY 購入後インプレッション

まず最初に、フォステクスの皆様、創立 50 周年おめでとうございます。

本日記事にしますのは、冒頭にありますとおり同社の創立 50 周年を記念して発売された限定モデルのヘッドフォン T60RP 50TH ANNIVERSARY です。

T60RP 50TH ANNIVERSARY

数量限定とのことで他の方の役に立たない記事の典型ですが、気にしている方の参考にはなるかもと思い書いてみます。

FOSTEX について

わたしが生まれる前のことを書くのは容易ならざるのですが、お読みいただいた方が調べたくなる機会になると嬉しいので簡単に。

太平洋戦争に敗れた日本が米国の占領下となったのが 1945 年、主権を回復したのが 1952 年。この占領統治下に後の日本を代表する会社がいくつも生まれたことは皆様のほうがお詳しいかもしれません。現在の SONY である東京通信研究所は 1945 年に、現在の HONDA である本田技研工業は 1948 年に生まれました。

FOSTEX のルーツとなる信濃音響研究所が生まれたのは 1949年。スピーカーやマイクロフォンなどの音響部品、ないし音響部品を用いた製品の OEM で発展しました。OEM とは他社ブランドで販売される製品の設計や製造を請け負うことを指します。

フォスターの歩み|フォスター電機株式会社

他社の企画に沿って設計や製造している OEM 製品とは異なり、フォスター電機独自に商品を企画し設計や製造、販売をしているブランドが FOSTEX です。

Fostex | FOSTEX(フォステクス)

業界こそ違いますが私も長く社会人を勤めてよくわかることに「設計・製造」と「企画・販売」との仕事の質の違いの大きさがあります。両者の努力・才能は方向性が異なり、両方に才を持つ人は少ないです。片方ができても片方ができないという方は多くいらっしゃります。ものを作るのも上手いし売るのも上手い会社というのは素晴らしいと思います。
「設計・製造」を主としていたフォスター電機が、FOSTEX というブランドによる「企画・販売」を開始したのが 1973 年。その 50 年後が今年 2023 年です。

ヘッドフォンが好きな方は、ダイナミック型や平面駆動型などのドライバの仕組みについてお馴染みかと思います。PlayStation の開発元である SONY グループの企業 S.I.E. が今夏 Audez'e というヘッドフォン会社を買収したことには驚きました。当時オーディオ好きっぽく考察したのは

  • SONYは大崎に優れたオーディオ開発者の方々がいらっしゃる。にもかかわらず、わざわざ Audez'e を買った。
  • 私の音の好みは定位と音場、そして自然な音の繋がり。今まで多くの機器を購入したが、やはり平面駆動に優があるという結果に。一部の高級ダイナミック型も善戦。マルチBA型イヤホンは残念ながら論から外れる。
  • 最近のゲームは FPS の影響で索敵を音でするらしい *1
  • S.I.E. の方も Audez'e の平面駆動を採用したゲーミングヘッドフォンを使ってみるに、その優位性を自社では埋め難いと判断したのだろう。

ということでした。

話が大きく逸れました。上で紹介したリンク フォスターの歩み で平面駆動である RP振動板を使った製品がちょこっと紹介されています。半世紀近く前から、要素技術として持っていらっしゃったという事実にいろいろと考えさせられるものがあります。本日紹介する T60RP は、FOSTEX 社の平面駆動型ヘッドフォンの製品で 5 年以上前のものである一方、同社の平面駆動型としては新しい部類、つまり現行モデルです。さきほどの「設計・製造」と「企画・販売」との違いや S.I.E. が平面駆動を求めて Audez'e を買収したこと、中国の平面駆動のメーカーの製品サイクルの速さなど諸々、諸々。

購入動機

記念モデルのベースである T60RP の、私の所有期間は長いです。記事のために調べたら 2018 年に買っていました。もう 5 年以上も前でした。所有するヘッドフォンのなかでは古参のひとつであり、また最廉価です。あまり好きな言葉ではありませんが、コスパという言葉を用いれば一番の機種です。

些細なきっかけ

壊れたわけでもないのに所有機種をあらためて買う必要はありません。発売の数日前に、たまたま X ( 旧 Twitter ) の書き込みを見ました。記念モデルが発売される。11 月 3 日の午前 0 時、 Amazon 限定だとありました。
11 月 2 日は残業で疲れてました。地元の駅に着いたのが 23 時 58 分。暗く人通りの少ない道を歩いていたときに発売のことを思い出しました。「赤いのいいじゃん、カッコいい。」とスマホの画面をタップしてしまいました。典型的な衝動買いです。定時に帰れてお風呂にでも入っていたら、間違いなく買っていません。運命のいたずらです。

以下、Amazon での購入ページのリンクです。このページでカートに入れる際に通常版と記念版のどちらかを選ぶ仕組みになっていました。記事執筆時点では売り切れて通常版しか選べなくなっています。製造ラインの都合等で一定数在庫ができたら追加販売とかあるかもしれませんね。

コロナ前や発売当初の価格を知っていらっしゃる方は現在の価格に抵抗があるかもしれません。私から言えるのは「過去の価格は返ってこない」ということです。過去の価格は頭から消して、いまの価値といまの価格で判断して、買うか見送るか決めたほうが良いです。

沼ではなく衝動買い

今回の買い方は、このブログを書くきっかけとなった「沼」と称されるものとはちょっと違います。前に記事にした HiBy R6 Pro II は、それを起点として相応しいアンプをと AK PA10 を購入し、更に相応しいイヤホンは何なのかと  SENNHEISER IE 900 を購入するに至りました*2。この、12 万円の買い物をきっかけに 30 万円の追加投資をするという意味不明な連鎖が「沼」と称される危険なものです。

外見

Amazon 配送ということで、3 日の零時に注文したものが 3 日の夕方には届きました。スマホの画面で感じた印象と実物との差を確認してみます。

開封

元のモデルである T60RP の箱と恐らく同じです。5年前に買った元のモデルには製品写真を使った洒落た帯がついていましたが今回はありませんでした。限定品のために帯を作り直すのも勿体無いので仕方ない感じでしょうか。

(左)箱 (中)開封後 (右)スポンジシート取出後

箱を開けるとペラ紙を折ったマニュアルが入っています。マニュアルとスポンジ状のシートを取ると本体が現れます。

ヘッドフォンについているイヤーパッドは通常版の T60RP と同じ合皮タイプのもの、中央にはこのモデルで新たに付属したベロア生地のものが入っています。通常版では規格外のイヤーパッドを使っている私にとって、このベロア生地のイヤーパッドは楽しみです。

T60RP 50TH ANIV. を取り出したところ

箱から取り出してみました。通常版との差は僅差かと思っていましたが、いろいろと違いました。意外と違う。違うものだと思うと同じですし、同じものだと思うと結構違う。そんな感じです。後の項目で細かく記します。

ケーブルなど他の付属品も全て確認し画像に収めようかと思いましたが、どうせ使わないので未開封状態のまま指紋もつけず箱を閉じました。

通常版との比較

せっかくなので、50TH ANNIVERSARY 版と通常版を並べて比較してみたいと思います。

ハウジング・イヤーカップ

T60RP のイヤーカップ比較 (左) 50TH ANIV. (右) 通常版

最も大きく違うのが、このイヤーカップです。50TH ANIV.はアフリカンパドック、通常版はアフリカンマホガニーを使用しています。わたしの通常版は 5 年の歳月を経て色が濃くなっており、買ったばかりですともう少し白いです。木は経年で色が濃くなるものということで、そういう使い方をして風合いが年月に相応しくなっています。できるだけ触れず、光にも当てず箱で保管するようにしていた方なら、もっと購入直後の白みを残せていると思います。
各々の木材ですが、アフリカンパドックは木琴やカスタネットなど、アフリカンマホガニーはギターなどに使用されています。先にそれを意識すると、聴き比べが楽しくなるかもしれません。

ケーブル

上述の写真でイヤーカップとヘッドバンドとの間にニョロッとケーブルが出ているのがわかるでしょうか。この材質が違いました。50TH ANIV.はビニール被膜、5年前に買った通常版は布被膜です。正直、どちらが良いのか全く分かりません。T60RP に限らず FOSTEX のケーブルは布が多いので「あれっ」とは思いました。

ヘッドバンド

T60RP 50TH ANIV. を箱から取り出した第一印象は「重い」でした。他の重いヘッドフォンをいくつも持っているので、絶対的に重いとは全く思っていないです。通常版の重さをよく知っているので「これは T60RP の重さではない」と瞬間的にわかったということです。そして、この原因がヘッドバンドだということもすぐにわかりました。

(左) 50TH ANIV. (右)通常版

見た目ですぐにわかりますが、ヘッドバンドが異なります。このブログのテーマの半分が装着感と音質との関係性だと言っても過言ではありません。そして、ヘッドバンドとイヤーパッドが装着感にとって重要な要素であることは何方も否定なさらないでしょう。使う前から「これは音が違うな」と確信しました。ここでいう「音が違う」は鳴っている音でなく、自分の耳に届く音です。ヘッドバンドを変えて、別添でベロアのイヤーパッドを付属してきたというところ、FOSTEX さんのポリシーといいますか意図を感じますし、きちんと受け止めた記事を書かないとと襟を正す気にもなります。
マーケティング的な視点で見ると、記念モデルで新しいものを試して市場評価が良ければ量産型に入れるのでしょうか。いろいろと想像してしまいます。

このヘッドバンドが気になってしまい調べたところ、新規ではなく前のモデルの T50RP で採用したラバータイプのヘッドバンドを使っているようです。

重量を公式サイトで調べたところ、50TH ANIV. が約 450 g、通常版が約 380 gだそうです。ちなみに FOCAL STELLIA は 435g。400g 台のものは意外と多くあります。

イヤーパッド

通常モデルの合皮のイヤーパッド別の記事で書いたことがありますので、新しく追加されたベロア生地のイヤーパッドのみを画像に収めました。

ベロア生地のイヤーパッド

合皮のイヤーパッドと同じ縦 60 mm 横 40 mm の内径です。違うのは厚み。前後の傾斜もありません。厚みがあると耳との間に空間が生まれ、それが音との距離感に繋がります。また空間内で反響が生じるため、軽減する工夫が必要になります。その反響軽減策のひとつであるドットといいますかシボのようなものが付けられています。そして何よりも、頬や耳の裏の肌にピタっとつく皮と違い、ベロア生地は音を吸収して逃がします。

モニターヘッドフォンと呼ばれるものは、総じて薄いイヤーパッドで耳に貼り付くように音を聴かせるものが多いです。リスニングと称するものは、それらより距離を置いて音楽全体を聴かせるものが多いです。
もちろんモニターヘッドフォンにも「意外と距離感じて長時間聴いて楽しい」というようなものもあるため、全てがそうとは申しません。用途的にそういう傾向が生まれるという程度の話です。

装着感と音

最後に装着感の違いについて記したいと思います。装着感と音との関係は切っても切り離せないので、音についても少し記します。

前提

他の記事で一度読んだ方はごめんなさい。もう一度ヘッドフォンの装着と音に関する前提に触れておきます。
ヘッドフォンで音楽を聴いているとき、イヤーカップの縁を持って耳の前側や後ろ側にずらしたりしてみてください。また耳に少し押し付けたり、逆にほんの少し浮かせて耳への圧を緩めたり隙間を作ってみたりしてください。聴こえかたが変わるのがわかると思います。特に押し付けたり浮かしたりすることが激的で、浮かせてイヤーパッドと肌の間に僅かでも隙間ができますと重低音が抜けたり高音の細かな音が聴き取れなくなったり、中音域の響きが弱くなったりするかと思います。

使用時の快適さを無視して手っ取り早くヘッドフォンを開発するなら、イヤーパッドは極力薄くしヘッドバンドの側圧でカップを力一杯耳に押しつければドライバが鳴らしている音を正確に耳に届けられることになります。イヤーパッドを厚くしたり、耳に押し付ける力を弱くしたりすると、狙った通りで正確に耳に届けることが難しくなります。
頭の大きい人、小さい人、スキンヘッドやポニーテールでイヤーパッドと肌を密接に当てられる状態の人、ロン毛やパーマで髪の毛をたくさん巻き込んで装着してしまう人。様々な人がヘッドフォンを使用するでしょう。
イヤーパッドを厚くして耳に押し付ける力を弱くしたヘッドフォンは、快適な装着感となる一方で、使用者の千差万別を吸収できなくなってしまいます。結果として開発者が狙った音と違う音で耳に届いてしまう恐れが大きくなり、いわれもしない否定的な評価を受けてしまうやもしれません。

側圧が弱くなった

T60RP 50TH ANIV. で採用された新しいヘッドバンドは、通常版に比べ側圧が弱くなっていました。これには驚きました。
通常版の T60RP は側圧が強くイヤーパッドも薄いため、アルバム1枚の時間でさえ装着できませんでした。結果、規格外の厚いイヤーパッドを使い今に至っております。
50TH ANIV. 版は耳当たりがとてもソフトです。「このまま標準の合皮のイヤーパッドで大丈夫かも」と思わせる優しさです。通常版の T60RP の側圧と薄いイヤーパッドでも「快適」だとおっしゃる方には、どちらでも良い話だったりするかもしれません。私のように通常版の側圧では長時間装着に耐えられないと感じていた方には朗報だと思います。

通常版の T60RP の側圧を高いと感じる方がどの程度いらっしゃるか私にはわかりません。もし、さほど多くないとしますと、弱くして使用者の千差万別を吸収できなくなってしまうというリスクは意外と高いのかもしれません。ヘッドバンドはキツくイヤーパッドは薄くが無難です。そんなもの私は嫌いですけど・・・。

このことが音質について誤解を生む可能性になることは前項で記したとおりです。そのリスクを取ってなお弱くしたとことには賛辞を送りたいと思います。

音がスッキリと遠く

規格外のイヤーパッドを装着した通常版の T60RP を長年使用してきた記憶があるせいでしょうか、聴いた第一印象が「あれ、スッキリして遠いな」でした。ヘッドバンドがソフトになったせいで隙間から音が漏れているのかとも思いました。イヤーカップの縁を掴み、耳に押し当てたり離したりしてみます。どうも漏れているわけではなさそうでした。

標準の合皮のイヤーパッドのままでも良さそうだったのですが、せっかくベロア生地のイヤーパッドが付いているので試すことにしました。側圧を弱くして厚いイヤーパッドを付けたということは、そういうことだという開発者のメッセージですので有り難く受け取ります。

イヤーパッドを外したところ

薄い標準と厚いベロアのイヤーパッドを比較

ベロアのイヤーパッドにしても標準の合皮時との差は大きく感じず楽しめました。スッキリ感と距離感が少し増したかなという感想です。

規格外のイヤーパッドを装着した私の通常版 T60RP は、ぶ厚いイヤーパッドのせいで少し響きが増してしまっています。それを前項とした感想です。もしかしたら、いま聴いている 50TH ANIV. の音は標準の合皮イヤーパッドを装着した通常版と変わらないのかもしれません。標準の合皮イヤーパッドとの比較でも上述の感想になると思ってはいますが、通常版のイヤーパッドを標準に戻して確認をしていないので断言できずです。

規格外のイヤーパッドを装着

ストックのイヤーパッドが手元にあるので 50TH ANIV. にも規格外のぶ厚いイヤーパッドを装着し、同条件で比較をしてみました。

50TH ANIV. にも規格外の分厚いイヤーパッドを装着し比較

見るからにぶ厚いですね。通常版ではこのイヤーパッドをつけないと耳が痛くなってしまうのですが、50TH ANIV. 版はヘッドバンドがきつくないのでこのイヤーパッドでなくても大丈夫そうです。相応しいイヤーパッド探しは後日ゆっくりするとして、とりあえずこれで同条件比較をしてみます。

結果、やっぱり通常版より少し遠くスッキリと鳴っているように感じました。どちらにも同じ響きが生まれてしまうイヤーパッドを付けているのですが、明らかに同じ音ではありません。

さいごに

音の印象をスッキリという言葉で表現しましたが、これを細かく言いますと低音域と高音域の聴こえを良くして耳に貼り付いた感が減り、長時間装着に耐えられる柔らかいバージョンになったという感じでしょうか。そんなメッセージを製品から受け取りました。数多く発売されるヘッドフォンを比較して、どれが良い音かと比較するような競争には向いていない仕上げ方かもしれません。

だからこそ限定品で、流通量の少ない状態でテストマーケティングするのもいいと思いました。私はこの試みを好意的に捉えます。せっかく装着感の良いソフトなヘッドバンドになったので、音質と装着感を両立できるイヤーパッド探しをしてみようかと思います。

*1:※360度囲むようにモニターを置いて目視というわけにもいかないので、音で敵の位置を拾いたいのではないでしょうか

*2:記事を書いてみましたが 50% ぐらいで中断してしまいました。結論としては IE 900 なら HiBy R6 Pro II 直刺しでも良さを活かせるが、私の所有する他のヘッドフォンやイヤホンは全てイマイチという総括でした