オーディオ 試行記録

多くの個人プログやネット記事に助けられました。私の経験を還元したくです。

初代 TH1100RP その後

初代 TH1100RP の記事は TH1100RPmk2 の発売より前に公開したいと焦り後半を雑にしてしまいました。同記事に後日加筆をと当初は考えていましたが、別記事にすることを選びました。前記事を mk2 発売前の状態のまま残すことも「商品選びではこういうことも起こるんだ」という前例や参考材料として皆様のお役に立つかもと考えた次第です。
ということで、こちらでは「お前、あのあと結局どうしたの?」というオチっぽい話をして纏めたいと思います。まだ TH1100RP をお持ちの方には参考材料に、そうでない方には「ふーん」と読み流す内容になってます。

現在の TH1100RP の状態

初代 TH1100RP の分岐点

章題に「分岐点」という単語を選びました。熟慮し弱点とか課題とかいう単語を使いませんでした。ヘッドフォンを開発したメーカーの方々はプロですから、たいていのことは承知のうえで「これで良いと判断して」発売に至ってます。重要なので繰り返します。わかってて発売してます。開発中の段階で弱点だとか課題だとか認識しているものを放置して発売はしません。「これ、ダメだけど直せない。諦めて開発終了。もう売っちゃえ」なんてことはしないです。メーカーのフラッグシップであれば尚更、いちばん目や耳が肥えたマニアや同業者が見てます。自社の看板に泥を塗ったらおしまいです。

弱点、課題

前回の記事に記した「イヤーパッドがとにかくダメ、低音の量感が圧倒的に足りない」は、当然ですがわたしの個人的意見であり感想です。他の何方のものでもございません。また、なぜそう感じるかの理由も丁寧に記しました。正直に吐露しています。そうすることで「こいつ、わかってないな」とか「確かにそうかも知れないな」とわたしの意見の信頼性も込みで皆様は読んで下さります。

FOSTEX の方も「そんなことわかってて承知の上で発売したんだ。お前に言われたくはない」「お前とは好みが違うだけ」「これが俺たちの考えるフラッグシップだ。嫌なら他のものを買え」とおっしゃりたいとのではないかと思って書いていました。他の記事も同様のスタンスです。
俺たちの考えるいい音を形にする、潔いしカッコいいじゃないですか。
高価なヘッドフォンが乱立するなか、メーカーが自身のサウンドシグネーチャーを示し世に問うことは、製品のブランド化やファンを得るためにも大切なことだと思います。今まで沢山の製品を買った FOSTEX、どちらかというとサウンドシグネーチャーを持っていないと感じていたのですが今回は頑張ったなと思っていました。

TH1100RPmk2

記事の構成をほぼ決めて写真を大量に撮り、初代 TH1100RP の記事を少しずつコツコツと書いていました。
FOSTEX が「これが俺たちの考える最高の音だ」と同社最高額のプライスタグを付けて世に問うたヘッドフォンに対し「お前らの考える最高の音、聴かせてもらった ! でも俺の好みとは合わんかった」という構成で、褒めるとこ褒めて合わんとこ合わんと記して終わる予定でした。メーカーの魂や誇りをガツンと受け取って全力で打ち返す的な。前半の記事読むとそんな雰囲気を感じると思います。。。

そんななか、ある日 TH1100RPmk2 発売というネット記事の見出しを目にしました。まさか低音とイヤーパッドを弄ったんじゃないだろうなと真っ先に「疑い」ました。

私の好みに合わんと書いたその 2 つは開発者が 100% わかっていて意図的に、意思をもって仕上げた箇所です。ちょっと材質やサイズ変えただけで音も付け心地も変わりますから。いろいろ試して音聴いて、最後に「よし、この音が俺たちのフラッグシップ。皆に聴いてもらおう」と FOSTEX の看板を背負わせた発売してます。真っ当なら。

しかし、僅か一年で mk2 ですので疑いました。どこを疑ったのか。メーカーとしての誇りや魂、誠実さです。まさか「これ、ダメだけど直せない。諦めて開発終了。もう売っちゃえ。」をやったんじゃないだろうなと。

イヤーパッドと低音は弄らないだろうなと。

イヤーパッドと低音

結果は弄りました。FOSTEX の姿勢や誠実さの有無が垣間見える点を 3 点挙げます。

1.併売せず初代の音を捨てた

メーカーが自社で考える音を自信をもって提案をしつつも、多くの人が支持する音をテストマーケ的に探ったり別系統で提供したりすることはあります。前者は限定商品、後者は別ブランドや別ラインナップで製品化したりします。本流を保持しつつ市場のニーズも掴み、自身のフィロソフィーを少しずつ進化・発展させます。

ところが、別バージョン化や限定版とせず mk2 と名付けあっさり初代を終売しました。この事実は「初代の音が自分たちの求めたメインであり mk2 の音はテストマーケや別バージョン」というわけではないことを、「自分たちの理想の音で発売したヘッドフォンの派生版」という考え方でもないことを、「初代の音はお客様に提供し続ける意義のない FOSTEX として不本意な音なので速やかに mk2 の音で置き換えた」ということを意味します。

2.僅か1年という速度

どんな製品開発もいちどやりきると、次の開発は大変です。たいてい休むこと許されず、開発終了直後から次の製品開発の構想は始まりますが、何せやれることはやり切っているので前作超えは至難の業です。

まず最初に、どこ弄るかという課題探しが大変です。すでに完成度が高いものをよりよくしたいという状態ですから発売直後は弄る必要さを感じてない。技術的にもやれることはやり切っている。もっとやれるはずだとか、他社の製品を聴いてココが負けてたとか、そんな「いじる場所」からの手探りです。で、挙げたアイデア候補から本当にやるべきものを選定し次の製品開発のテーマ、コンセプトワーク、理想を掲げ挑戦が始まります。

フラッグシップの商品サイクルが遅いのはこのためでもあります。そもそも弄るところない状態ですし技術的にも一度やり切ってしまっています。もちろん前項で示した本流を残しつつチューニング違いのバリエーションを作るというなら話は別になりますが。

コンセプトワーク、試作、開発、量産準備、流通に載せ宣伝して販売。 1 年という期間はフラッグシップの世代交代ができる期間ではありません。自身のサウンドシグネチャーを変えるなどという根源変化はもってのほかです。

仮に、あくまで仮にです。初代が「これ、ダメだけど売上欲しいからもう売っちゃえ」だったとしましょう。本来は mk2 の音が売りたかった。であれば現場的には「元々想定していた目標の音作りに対し一年間の開発期間延長が与えられた」状態なので実現可能なスケジュール感になります。不本意な初代をお客様に売り続ける裏でコソコソと、ラインナップから初代を消し去り mk2 で上書きする作業をしていたのでしょう。

3.初代を売り続けた

初代を買った人には mk2 はサプライズです。しかし、メーカー内では一年後の終売は既定路線、お客様に隠しているだけです。発売直後に買わず時間が開くのは私だけではありません。2025 年の初夏に「まだ発売して 7 - 8ヶ月しか経ってない新製品」と買った方もいるでしょう。これらのお客様が、実は 3 - 4 ヶ月後に新製品が出ると知っていたら買うでしょうか?

もしも発売後 4 - 5 年と経っている製品なら、自分が買った数カ月後に新製品が出る覚悟ができているかも知れません。ところが、覚悟しやすい数年経過のほうが逆に安全で、メーカーが出荷絞っていてくれたり試作品が試聴会で出てたりと「新作が出るよ」というシグナルを発してくれています。

初代購入者として感じた FOSTEX からのメッセージ

今回の件、私は FOSTEX が初代ユーザーにこのようなメッセージを送ったのだと認識しました。

「正直、最初からイヤーパッドと低音がダメな製品だとわかってたよ。フラッグシップとして売り続けるに値しない。でも、これを良いというセンスのズレた人もいたら幸運だから売るよ。裏では着々と修正続けてる。来年差し替える。俺たちはイケてないと思うショボい音でも買った人は納得して買ってるはずから別にいいよね。俺たちは売り続けるのが恥ずかしい音だから終売して闇に葬るけどさ。買った人にとっては気に入った最高にいい音。何も問題ないよね」と。

なので初代購入者に対しメーカーとしてサポートやフォローはしないでしょうね。有償バージョンアップサービスとか毛頭考えない。別に不良品を売ったわけじゃない、俺たちのメーカーとしてのスタンスが気に食わなければ二度と買わなきゃいいだろと。

否定をしてほしいですけどね。私は T60RPmk2 の記事でも書いたように FOSTEX の考える本気を聴きたくて買ったのであって音を気に入っていたわけでないです。TH1100RP に FOSTEX 考えるリスニングの至高が詰まってると考えた私がバカだったということです。

TH1100RP その後

そんなこんなで、弄る気力も売る気力も記事を書く気力も失せてしまった TH1100RP だったのですが、E3 を買ったことが機会になり、もう一度だけ頑張ろうという気になりました。私のように、メーカーが手放した初代を手放なさず手元に残している方への一つの提案としてお受け取り下さい。

低音の量の目標を E3 並みに

前回の記事にで紹介した手作りダンパー、低音は確かにグッと増すのですが副作用が多くて音質的には激悪、音に距離感や伸びがなく詰まった感じになります。開放型の良さが台無しです。
E3 の低音の量、TH1100RP を除くと私が所有するヘッドフォンの中では最小です。過去記事でご紹介したどれよりも少ない。イヤホンですと HA-FW10000 といい勝負ぐらい、TYP821 と比較したら全然少ないです。その程度の量でもギリギリで OK だと思えたので「TH1100RP もこの程度までの低音増で抑えてみよう」と考えたわけです。

ダンパーの確認

あらためてダンパーについて確認します。

ダンパー (左) TH909 (右) TH1100RP

画像に映っているスポンジ状の円形のものがダンパーです。これを自作のものに差し替えて低音を増やします。

TH1100RP のダンパーを自作のものに
音の状態

このダンパー変更による音の変化は

  1. ダンパーなし : スカスカで聴けたものではない
  2. 純正ダンパー : 低音が全然足りない
  3. 自作ダンパー : 低音は十分だが帯域バランス崩壊と音詰まり

となります。今回狙うのは 2 と 3 のあいだです。

ダンパー工作

再びダンパーを工作します。今回も材料はこれを使いました。

もしお読みの方でこの素材でダンパー製作にトライしようとお思いになった場合は、臭さを消す手順が前回記事にありますので、そちらもご参照ください。

フォームシートのカット

円形にカットするだけの簡単な工作です。とはいえ、コンビニでも売っているような文房具のカッター一本で円形にカットというところで美しくは仕上げにくいです。
純正より低音の量を増そうとしているためダンパーは純正より太くするのが正攻法なのですが、そもそも今回使用しているフォームの材質が純正より目が詰まったものなため、純正よりも細くしました。

純正よりも細くした新ダンパー

カット後のものを嵌めテスト試聴をしたところ、いい感じの低音量になり且つ最初のダンパーに比べ音詰まりが改善されたため、この太さのダンパーで仕上げ作業に移ります。

ヤスリ掛けと調整穴作成

真円に近づけることと表面を荒くして共振を起こりにくくすることを狙って紙ヤスリをかけます。
このフォーム素材にヤスリがけをすると、ものすごく身体に悪そうな粉塵が出ます、大量に吸い込んだら呼吸器系の病気になること請け合いです。もしやられる方はマスクを着用し、屋外で、大きめの透明ビニール袋にモノと両手を入れて作業することをお勧めします。極力吸わない、放出しないをお心がけ下さい。

そうして仕上げたものを使用したところ「もう少しだけ低音減ってもいいかも、減らしてもいいから抜け感を回復したい」と感じまして、空気がわずかに抜ける穴を作成しました。

ヤスリ掛けと調整穴加工後の新ダンパー

調整用の穴、増やすことはカット個所を増やすだけなので容易ですが減らすことはできません、そのため一つ作った段階で作業を終えました。残りのわずかな調整であればイヤーパッドでも可能だというのも増やさなかった理由のひとつです。

TH1100RP に新ダンパー装着

調整用のわずかな穴は、穴を作る前の状態からの低音量ダウンを僅かに抑えたいため抜けに支障が出るネジ側を向けます。

調整穴の位置

イヤーパッドによる微調整

ダンパーで大枠の音が定まりましたのでイヤーパッドで最後の微調整を行います。
E3 と同等の量まで低音が減ることを許容して開放型らしい抜け感と帯域バランスを取り戻したいという意図に対し「もう少しだけ低音を諦められる」という状態でしたので、内側にシボがあるベロア生地のものにしました。YAXI アルカンターラ ( 前回紹介記事 ) と Brainwavz Hybrid Oval ( 前回紹介記事 ) の二つがちょうどよい仕上がりでしたが、より装着感が優しい Brainwavz Hybrid Oval を選びました、

初代 TH1100RP に新ダンパーと Brainwavz Hybrid Oval 

どんな音が鳴っているのか

基本的には前回の自作ダンパーの音に比べると初代 TH1100RP 本来の音の方に戻しています。純正ダンパー時よりも多少抜け感や広がりを失う一方で低音が増しているという状態です。

他機種の名を使いながら記しますと、イヤホンの HA-FW10000 のバランス感を思い出させる音です。ダンパーの工作を終えてしばらく聴いていたら HA-FW10000 の音を思い出し、同イヤホンの音と比較を始めてみました。結果 TH1100RP のほうが更に艷やかな高音でした。音源の音を晒すヘッドフォンではなく、音創りをして聴かせるヘッドフォンだと実感します。飾った音を聴かせます。

E3 と同程度の低音の量にして聴き比べると高音は多めに感じます。元々そういうヘッドフォンなので、ダンパー変更後にその傾向が残ることは当然かつ致し方なしです。しかし、その多めの高音が刺さらずツヤツヤなので、聴き心地は悪くないです。
標準ダンパーの初代 TH1100RP は低音をしっかり聴こうとするとボリウムを爆音にせねばならず、高音が刺さらないのでそれが可能だという状態。新ダンパーの TH1100RP は他のヘッドフォン使用時と同等の音圧で音楽鑑賞をして E3 程度には低音を感じられ、高音の量感が多めの状態、業界の方がハイあがりという状態になっています。
但しハイがツヤツヤで刺さらないので不快に感じにくいです。

おわりに

初代 TH1100RP を買ってしまい、売るに値下がりしてしまい手放しにくいという方はいらっしゃるかと思います。そんな方にこのブログを書きました。

このヘッドフォンの良さは美音系で多少音質の悪い音源でも楽しめるという、最近減ってきたタイプなところにあると思います。それに加えて上が伸びる。美音系でここまで上が伸び解像度もあるのは少ないのではないかと。この新ダンパー TH1100RP で聴いた後 E3 で聴くと、高音が耳障りで中音域も膨らみを感じることしばしばです。
仕事柄、楽曲制作のプロの方とお話する機会があり機材の感想も通じてプロの立場や観点を伺い知れます。その方々が T60RPmk2 を評価することがあっても TH1100RP を評価はしないと断言できます。そのぐらい中低音の出音が足りず、高音の音色に癖があります。
せっかく買ってしまい値崩れして売りにくいのなら弄って楽しむのは如何でしょうか。

もしまだお持ちでなくご興味を持たれた方がいらっしゃったら、中古のお安いものでお試しあれ。

Dan Clark Audio E3 と ハーマンターゲット

最近は執筆者が AI のサイトを見かけるようになりました。サイトに纏まった AI の執筆物を読むまでもなく、ChatGPT や Claude にヘッドフォンの機種名を指定して尋ねれば上から目線で語ってくれます。「お前、本当に出音を聴いたんか!」とツッコミ入れたくなるほど偉そうに返答してきます。こうして人が書くのであれば、AI がまず言わないであろうことを書こうと思いますが、私のサイトを訪れている方の多くが実は人でなく AI という可能性もあり、なんだかなと思います。

これからも人の方々に向け頑張って書いていきます。

Dan Clark Audio E3

購入動機

前回の TH1100RP の記事で、いつか E3 を私は買うのだろうと記していたとおりで、前々からの目的を果たしたという感じです。買った時期も前回記事をお読みの方はご察しかと思います。ヘッドフォンやイヤホンの衝動買いは少なくないのですが、この機種は買わずに相当の期間粘りました。買うのを遅らせた理由は、金銭的にしんどいと感じる価格帯にも係わらず先に TH1100RP を買ってしまったためでした。TH1100RP と E3 の価格を合わせると大半のメーカーのフラッグシップに手が届いてしまうので、2025 年のオーディオ機器購入は失敗だったと思います。

TH1100RP と E3

Dan Clark Audio (DCA)

ダンクラークオーディオ ( 以後 DCA と呼称 ) の製品を記事にするのは初ですので、メーカーについて軽く触れたいと思います。DCA はアメリカのサンディエゴにある会社です。歴史はさほど長くなく、執筆開始時点で15年程度の社歴です。

以下、設立された頃から今日までを見聞きした範囲と記憶を頼りに記してみます。もし、ご興味を持たれたり事実関係の精度を懸念なされたりした方は調べていただけると嬉しいです。

T50RP 改造

2010 年代初頭に、このブログでも取り上げたメーカー FOSTEX ( 参考 T60RPmk2 購入後インプレッション ) の二代目 T50RP の改造がオーディオマニアの間で流行しました。RP ドライバの素性やポテンシャルが高く改造しやすいというのが理由でしょうか、逆に言うとドライバは良いのにハウジングやイヤーパッドばイマイチで勿体ないとも言えます。情報サイト Head-Fi の Orthodynamic, T50RP mod thread で情報交換が活発にされ、Dan Clark 氏もそのなかに含まれていました。
Dan Clark 氏が只者でないのはここからで、自身の手がけた改造機種の製造販売に漕ぎ着けました。気になる方は Mad Dog, Alpha Dog, Alpha Prime 等の名称を調べてみてください。それが高評価を得ていたとしても、自分用と内輪の支持者に向けて制作した特注品に留めず一定品質で量産してしまうところに凄味があります。
個人ガレージ程度の規模による製造業をガレージメーカーと米国では呼び AppleGateway も創業時はそうでしたが、この Dan Clark 氏も同様でした。当時の社名は MrSpeakes でした。

自社ドライバ開発

改造による音質の研究が行くところまで行きつき、Alpha Prime では振動板の加工にまで及んでいました。改造品の限界を超えるべく、遂には自社ドライバを開発し、2010 年代半ばに ETHER, ETHER C を発売します。

ラインナップ拡充と研究開発

ドライバから自社開発するメーカーとして成功し評価を得た後も、そこに甘んじることなくラインナップ拡充と更なる研究開発に同社は勤しみます。
2010年代末にはドライバを更新して ETHER 2 に。このころ社名を Dan Clark Audio に変更します。2020 年代に入り発売されたフラッグシップ STEALTH はドライバを第 4 世代に、さらに新たなアイデアとして AMTS という整音用のパーツがドライバとイヤーパッドの空間に入っています。

そして今回の E3 

今回購入した E3 は 2023 年に発売された製品で、ドライバは第 5 世代です。同社の密閉型ヘッドフォンとしてはフラッグシップである STEALTH の 1 ランク下に位置づけられています。記事執筆時点より 2 年以上前の製品でで、その後にも様々な新製品が発表されていますが E3 は執筆時点で現行機種です。フラッグシップを 1 年でドライバごとモデルチェンジし型遅れにするメーカーと違い、製品サイクルに安心感があります。

お値段

記事執筆時点で E3 の直販価格は $2,299.99 、$4,499.99 する STEALTH の半額ぐらいです。最新の価格は Dan Clack Audio へのリンクを貼っておきますのでこちらをご確認ください ( E3, STEALTH )。
日本円で 20万円程度までは思い切って買えてしまう金銭感覚の私は、昔なら $2,000 も抵抗感なく買うことができました。しかし、2021年以降の急速な円安のため簡単に買える価格ではなくなってしまいました。$1,999 というプライスタグが付いていたりすると、ショップ側の「お買い得」感を出そうとする意思を凄く感じるのですが、昨今の為替レートですと 30 万円オーバーで手が出せません。私個人の金銭感覚とショップのお買い得感演出は前と変わっていません。変わったのは為替レートです。弱くなった日本を身をもって感じます。

DCA の国内代理店は有名オーディオショップのフジヤエービックです。小売をする業者が代理店になっているため、他の店舗では手に入りません。その影響で試聴が可能な店舗や機会が減りますので、気になる方は少ないチャンスを逃さぬようご注意ください。代理店価格は執筆時点で税込み 385,000 円。この価格は改定後のものでして、改定前は 330,000 円でした。執筆時点で 1 ドルは 150 円を超えていますし、国内販売には消費税も加わりますので、改定前の価格では採算が合わないでしょう。

外見など

価格の割にシンプルなと言いましょうか、荒削りと言いましょうか、褒めポイントとして簡素としか言えない外見です。冒頭でガレージメーカーというワードを用いましたが、その前提でないと認め難い要素が多いです。

外箱

この価格帯のヘッドフォンとしては異様に小さな箱です。材質は紙。黒い塗装も安っぽく、皮脂が残るうえに少しでも掠れると剥げて白地が出てきます。擦らないよう丁寧に扱っても、箱の開け閉めだけで折り目の皺に沿って地が出ます。多くのヘッドフォンを買いましたが、この品質は悪いほうで No.1。これは材質選びのミス、コストダウンを言い訳にはできません。同価格帯であっても別の材質を選ぶべきです。ガレージメーカーだからパッケージに気がまわらないと思えば許せますが頑張って欲しいところです。

E3の紙箱を開ける

封印代わりのシールに切り込みを入れ開封します。箱は手前側がマグネットで閉じられています。奥側に開くと裏側には「Enjoy!」の一言。思わず横にいた妻に「ダサい」と話しかけてしまいました。米国の方ですとこれを恰好良く感じるのでしょうか。

内容物

よく中古の商品紹介で「写真のものが全てです」と書かれていますが、購入者にストレスを与える無責任な言葉だと思います。購入者は欠品があるかを知りたいわけなので、写真が全てと言われても新品時の梱包内容を把握出来ない以上は無意味、「で?欠品はあるの?ないの?どっちよ」と突っ込まざるを得ません。

(左) 内容物 (右) ヘッドフォンケースを開けた状態

ということで内容物を広げました。写真撮影後にビニールに入った保証書の裏を見ましたところ、眼鏡を拭くような柔らかい布地が入っていました。これでヘッドフォンを拭くと良いということでしょう。中古をお買いになる方は布地の有無までご確認いただくと完璧です。
続けて上の写真右側です。このヘッドフォンは折り畳みが可能です。イヤーカップをヘッドバンド側にバチンとしまい込むことができます。しまい込んだ小さい状態でケースに格納します。わたしはこの価格帯のヘッドフォンを持ち歩きませんのでケース収納に対するこだわりがあまりございません。E3 でそれをやるかは別にして、演奏家サウンドエンジニアなどのプロが日常使用するなら実用的なサイズで結構有難いのかなと思います。実用ではなく趣味のオーディオと捉えますと、この価格帯では Focal Stellia のセンスと品質が抜きん出ており E3 が子供騙しに見えてしまいます。せっかくなので画像も貼ります。

Focal Stellia の内箱とケース

E3 は音質以外にコストをかけないことで価格を抑えている、まだガレージメーカーの域を脱していないと考えると、仕方ないのかなと思います。音以外でも価格相応の品質バランスを求めるなら避けたほうがよいです。事前に割り切っておいた方がガッカリしなくてよいでしょう。

ケーブル

付属のケーブルは VIVO Super-Premium Headphone Cable という DCA ではハイグレードのものが入っています。これもやはり何と言いましょうか質実剛健で、PVC のケーブルに編組スリーブを被せた手作り品のようです。とはいえショボい見た目とは裏腹に柔らかくて取り回しもよいです。別にこれでよいのではないかという良品質です。

ケーブルコネクタ

ヘッドフォンに繋ぐコネクタは特殊です。いや、汎用品なので決して特殊ではないのですが、他社で採用しているのを私は見たことがないためリケーブルの持ち合わせがないという意味で特殊です。

ケーブルプラグ

オーディオ機器に繋ぐケーブルプラグの種種は購入時に選択します。定番の 6.3 mm のほか XLR や 4.4mm なども選択できます。取り回しの良いケーブルですし前述の特殊なコネクタの事情があるので、後々リケーブルをすればいいやと適当に選ばないほうがよいです。

思想がよくわかる

思わずダサいと言っしまったパッケージ、手作り感あふれるケーブル。
説明書に目を移すと、装着時に髪の毛をイヤーパッドに巻き込むなとかメガネのフレームを当てるな等と口うるさい注意書きがあるんですよ。まるでこのブログの過去記事のようです。きっと、意識が全て音質にいってしまって他のことが眼中にないんでしょうね。
ここまでダメ出しが多めですが、メーカーとしての筋は通っていて一切ブレてないのが潔く、寧ろ好感を持てます。残念ながら酷い指摘はまだ続くのですが、まぁこれはこれでアリ、そういうメーカーだと割り切れます。
で、ケーブルの話に戻しますと、VIVO ケーブル込みで音質が完成する。まずはこのケーブルで聴いて欲しいというメッセージをひしひしと感じます。音質は下がるしコストも上がるプラグ交換機構などを採用する気は全くないでしょうね。同様にリケーブル資産を活用しやすくするためヘッドフォンとの接続に 3.5mmプラグを採用などもしないでしょう。

リケーブル

そんな DCA のメッセージを受け取っていても、やっぱりリケーブルを試したいということで、お試し程度に自作をしてみます。ヘッドフォン側のコネクタは日本のメーカーであるヒロセの HR10 シリーズ 4ピン オスのようです。DCA のサイトでもパーツ販売をしてはいますが、国内で買ったほうが太平洋を無駄に往復せず良いかと思いますので、製造元のヒロセのサイトも案内いたします ( コネクタ製品一覧 - ヒロセ電機 )。今回は Amazon で売っていた互換パーツを使ってみました。下にリンクも貼っておきます。

ZRMCC HR10A-7P-4Pサウンドデバイス用4ピンオスコネクタプラグズームF4F8ZAXCOMソニー産業用カメラ (Male, 4 Pin)

(左) 中を取り出す (右) 1,2 を使う 3,4 は使用しない

キャップを外し (写真左) 中を見ると、ピン横に非常に小さく番号が書かれています(写真右)。前述の DCA のサイトにピンアサインが書いてあり、1 がプラスで 2 がマイナスとのこと。3, 4 はオーブンなのでペンチでカットしました。

(左) 嵌めて (中) 捻じって (右) 外す

キャップを外すときにちょっと迷ったので補足しておきます。そのままでは外せないです。メス側に差して捻じって外します。専用パーツを持ってはいないので E3 を使いました。E3 に残ったピン部分は指で摘んで抜きます。

キャップを通しておきハンダ付け

あとは普通にキャップを通しておいてハンダ付けすれば終わりです。

ヘッドフォン本体

ゴリラガラスを使った特徴的な外装は他の方の記事にある美しい画像から十分に伝わるので、私は伝わり難い切り口のお話を中心にしたいと思います。

臭い

「これは駄目でしょう」という臭さです。箱を、そしてケースを開けた瞬間から部屋に臭さが広がります。頭に装着したら鼻から左右数センチの距離で異臭物に挟み込まれる形になり、鼻が歪むような臭さです。
買われた方全てがきっとわかる臭気だと思います。そのぐらい臭いです。この臭気に耐えられるか否かは個人差があるでしょう。私は耐えられませんでした。初装着は「着け心地を確認したい」と寝る前にケーブルも差さず数分装着しただけですが、髪の毛に匂い移りして夜眠れなくなりました。実に不愉快です。恐らく接着剤などの有機溶剤の臭さだと思います。そういった類の臭さだとは思いますが、何の物質かまではわかりません。

脱臭

継続使用に耐えられない臭さの機材というのは残念ながら初めてではないです。今までの経験では、ざっくり 2 割ぐらいの確率でヤバい臭さの製品にあたります。箱だけが異様に臭かったり本体も臭かったり。カビ臭さかったり有機溶剤臭さかったり。

ですので脱臭にも慣れていまして、返品せず無保証になるのを承知のうえで分解洗浄することしばしばです。昔はアルコールや重曹などで試行錯誤を繰り返しました。今では自己流の手法を確立しました。イヤーパッドやヘッドバンドの消臭に最も効果的かつ仕上がりも良好だったのは食器用中性洗剤による洗浄でした。この方法は安易に実行しますと水気を残してダメージを与えてしまうのでお勧めは致しません。それなりの注意と手間とを要しますが頑張ってやり切ると、美しく清潔かつ快適に使用できます。脱臭だけで一本の記事を書けてしまうため前振りはここまでにしまして、本題に戻ります。
このヘッドフォン、雑と言いますか安直と言いますか。両面テープでイヤーパッドを接着しているんですね。なのでイヤーパッドを長いあいだ外して単体で脱臭ということができません。洗浄なんてもってのほか。38.5万円という価格の製品が持つビルドクォリティーではありません。

E3 を脱臭炭と一緒に密封

で、購入翌日から始めたことが脱臭炭と一緒に密封です。左右のイヤーパッドがピタッとくっついていると内側の臭さがいつまで経っても抜けないので隙間を空けています。画像をよく見るとわかるかと思います。それと、チラ映りしている消臭に使った脱臭炭、コチラを買いました。

何でもよかったのですが冷蔵庫用や野菜室用などと成分を見比べて、食品特化の機能成分が含まれていないものを選んでこれにしました。普通に活性炭でもいいのかなとは思います。
有機溶剤臭ですと、洗浄ほどではないにせよ効果的な方法がまだあります。直射日光のあたる風通しよい場所で数日ほどの天日干しは効きます。しかし、さすがにそれは本体を傷めるのできませんでした。他にも上述より効果が弱いですが、部屋に臭さが広がるのを我慢すればヘアドライヤーの温風で飛ばすのも効きます。有機溶剤は気化させて空中に放出し原因物質を減らすのが有効です。

ふだん仕事をしているため時間を取りにくいこともあり、月曜から金曜は脱臭炭と一緒に密封し夜に袋の空気を入れ替え、土日は朝晩 2 回ヘアドライヤーと室内陰干しをセットで 2 週間やりました。それで「まあ、これなら装着できるな」という水準にまで臭さが取れました。ちなみに今でもケースには入れず、左右のイヤーパッドがくっつかない状態でヘッドフォンスタンドに掛けています。そこまでして数か月を経て、やっと就寝前に使ってもいいと感じる程度までになりました。

買ってすぐ音楽鑑賞に使うのを我慢し、半月ぐらいホワイトノイズ再生しエージングするというのならアリそうな話だと思いますが、買って半月も音楽鑑賞を我慢して脱臭ですよ。これが DCA の製品じゃなかったら速攻で三行半です。

粘着物質溶け出し

イヤーパッドの一部にシミがありました。触ると指に粘着します。
「ヘアドライヤー程度の弱い熱で溶ける糊をイヤーパッドに使っているのか」とガッカリしました。
両面テープを使用している段階で既に残念な製品ですが、それを音のためだというなら理解はします。しかし、材質は選べるはずです。両面テープを使うなら、せめてイヤーパッドが劣化して交換するその瞬間まで「外したい」と思わないし外す必要もないというクォリティーの製品に仕上げておくべきです。こうなってしまうと、経年劣化に耐えられる品質なのかも懸念します。このヘッドフォンをたまにしか使わない、丁寧に使うなどでイヤーパッドを 3-4 年交換せず長持ちさせたら中がグズグズになったりしないかと不安です。

(上} イヤーパッド内の粘着物質染み出し。触るとねっとり。 (下) 除去

外さずに綺麗に除去はハードル高そうですが、これは「プラスチック消しゴム」が有効です。プラスチック消しゴムならなんでも大丈夫だと思いますが、利かない製品もあると怖いので製品名を付記しますと、わたしが使ったのはトンボ鉛筆の MONO 消しゴムです。鉛筆書きの文字を消すときよりもゴムの消耗が激しいので初めて試す方はびっくりすると思います。粘着物質を綺麗に絡め取ってくれて、仕上がりは間違いないです。他にもハサミやカッターでガムテープを切ってしまい、刃の部分をベトベトしてしまったときなどに試していたただければと思います。
上の除去中の画像で作業時間 10 分ぐらいです。左右合わせて一時間もあれば綺麗にできます。

ヘッドバンド

側圧を稼ぐ部分と頭に乗る部分が分かれているタイプです。外側の二本のワイヤーで側圧を確保し、頭に乗るだけの革のバンドは広めで頭に対する負担も少なくよい感じです。側圧も「耳が痛くなるほど強い」ではなくて一安心です。

と、ここまで来て久しぶりに良い点を書くことができましたが、ここにも残念ポイントがあります。

ヘッドバンドをニュートラルにした状態、頭に装着せず自然にした状態についてです。他社の製品ですと左右のイヤーパッドの隙間が数センチ空いた状態で止まったりしますがこの製品は左右ピタッとくっついて、さらにバネの力が残っておりイヤーパッドをお互いに軽く潰し合います。
そんなバネの強さですので、ヘッドフォン使用後にイヤーパッドを拭こうと軸をズラすと、バネがニュートラルに戻る力のせいで左右のイヤーカップがお互いを傷付け合うようにぶつかります。

ニュートラル状態は互いに交わり傷つけ合う

手が 3 本生えていれば 2 本の手でイヤーカップを一つずつ持ち最後の 1 本で拭き取り作業をしますが、そうはいきません。毎使用後のイヤーパッド拭き取りはヒヤヒヤします。かといって使用後に皮脂を拭かず、バネの力でピタッと閉じっぱなしは不潔で嫌な感じです。

装着位置調整

イヤーカップが自分の耳の位置に来るよう、カチカチと位置を変える機構がヘッドフォンにはありますが、この製品にはありません。カチカチとした段階がなく無段階、例えば T60RPmk2 ( 過去記事 ) のようになっているのかと言いますとそれとも違い、本当に無いんです。
「じゃあ、どうなってるんだ。耳の高さに合わせられないじゃないか」と思うかもしれませんが、そのとおりです。基本的には頭部の位置合わせをしないでフリーサイズの大きなヘッドフォンを側圧で押さえつけ止めるという仕組みです。
で、そこに頭部のバンド部分が頭に軽く添えられるように乗った状態になります。バンド内にバネで伸びる機構が入ってまして、頭が大きい人の場合は長く伸び、小さい人の場合は短いままになるようになってます。

(左) この状態から (右) 金属部分が伸び出てくる

バネが入っているので、基本的には短くなろうとする、装着時にはイヤーカップを持ち上げようという力が少し加わっています。ですので、側圧だけで支えず頭側のほうにも重量が分散します。側圧も強すぎず頭部への分散もいい感じで、付け心地は非常に快適です。長時間の使用に耐えられてとても良いです。

ですがダメです。

ズレる

これで OK の人は頭のサイズがほどほど大きな方に限られます。
バンド内のバネは長く引き出すほど短い状態に戻る力が強く働きます。つまり、頭が大きい人ほどイヤーカップを持ち上げる力が得られます。逆に頭の小さい人はバネの力が充分得られず、イヤーカップが自重に負けて下がってしまいます。
物理的な話だけしますと、側圧が非常に強く、かつイヤーパッドと肌の摩擦が高ければ、究極はヘッドバンドが頭に接せず浮いた状態であってもイヤーカップはズレずに耳の位置に留まり続けてくれます。
しかし、E3 の側圧は実に良い感じで緩いです。ヘッドバンドの支えや摩擦を十分に得られない装着状態ですと、首を下に傾け本を読んでもズレてしまいます。この記事の執筆時にも E3 で音楽を聴いていましたがイヤーカップが下に少しズレてしまい、たまに上に戻していました。私より頭の小さな方は一様に、小顔の女子なんかはまず無理、確実にズレるでしょう。

結局、継続使用が困難なため対策を施しました。ヘッドフォンにノーダメージで施せる方法はないかと考え、紐でバネが伸びないようにしてみました

紐でヘッドバンドを抑える

何度か結び目の位置を変え、自分の頭にジャストフィットでするとこで留めました。これでイヤーカップが下にズレることもなく装着感はバッチリです。ですが、これが 38.5万円のヘッドフォンなのかという話です。

とりあえず家にあったものを使ったので白い紐ですが、仕上がりを見ていたら濃紺や黒のほうがカッコいいとか、思い切って赤も深紅もいいなどと思ってきました。頭頂部の蝶結びを大きく飾ってカチューシャ風に、イヤーカップのゴリラガラスにクリスタルのラメを貼ってデコろうかとも。シルバーラメで高音がキラッとするなどとオカルトっぽいチューニングワードを添えてとかダメですか? (笑)

白い紐だとどうやって結んだかを画像でお伝えするのには良いのですが、自宅の棚で映えないといいますか所有物として認め難いのでいつかやってみます。やったらデコった E3 の写真をブログに貼ります。

途中総括

ここまで、まるで欠陥商品かのように厳しく書きましたが、イヤーパッドの形状と厚さ、ヘッドバンドの面積はよい感じです。長時間の使用に耐えられます。脳天痛くなる、耳痛くなる他社のものよりはずっと良いです。

つまり、基本的な機能は押さえていますが詰めが甘いしメーカーの意識が薄いということです。多くの使用者を想定しサンプリングして改善するのということにプライオリティを置いていないのでしょう。この点でも「残念だけど、所詮ガレージメーカーだから」という感じです。

最初の感想は

これは巨大なイヤホンだ

でした。これ、7 割ぐらいは褒め言葉です。3 割ぐらいは思うところや含みを持たせてます。AI は間違いなくこんなこと言わないでしょうね。「E3 はイヤホンではありません。ヘッドフォンです」と言うでしょう (苦笑) 。

帯域バランス

まず言及すべきがこれ、そして逆に言うことが無いのもこれです。
このヘッドフォンはハーマンターゲットカーブにほぼ準拠しています。メーカー紹介で記しましたように、DCAはオーディオファンのコミュニティと距離が非常に近い会社で、計測結果を記す有名なサイト Audio Science Review に自らデモ機を提供しています。そして、E3 の計測結果のスレッドでは Dan Clark 氏ご本人もディスカッションに参加しています。

このヘッドフォンの帯域バランスで高音が少ないとか低音が多いとか言うのは、ハーマンターゲットカーブの音が好きか嫌いかという話に近いです。そういう意味では、自分の好きなバランスがハーマンターゲットとどの程度違うか知るという意味で有効です。そのためだけであればお試しで買えるような値段じゃないのでお勧めしないですが、試聴ということでしたらこのヘッドフォンで多くの曲を聴いてみることをお勧めしたいです。

私が知らないだけという話は大前提にあるのですが、ヘッドフォンでハーマンターゲットカーブに寄せ切ってるものはあまり多くなくて、イヤホンであれば BA 多ドラ系を中心に割と存在する認識です。そういう意味で、出音を聴いた瞬間に「これはイヤホンだ」と感じたところに繋がります。

周波数特性のカーブについて

ハーマンターゲットを代表する周波数特性のカーブについて少し触れておきます。
ハーマンターゲットはそれ自体が正解とか原点という代物ではなく、スピーカーオーディオで多くの人が好ましいと感じるであろう目安として作られたものです。ですので、時を追うことで改定されていたり IEM 用のバージョンがあったりとバリエーションが存在もしてます。
あるオーディオ機材に対し低域が多いとか少ないとかいうときに、個人的印象を超え事実関係として正確に伝えるには「何を基準にしてどの程度多い」と言わないと相手には伝わらないです。個人的印象であっても情報の価値は十分ありますが、それを事実関係として表現するには「起点」が必要です。別に周波数特性に限らず何事であっても起点は必要で、日本の道なら日本橋を起点にしようとか、世界の時刻ならグリニッジを起点にしようというような決めの話に過ぎないです。
心地よいと多くの人が感じるであろうと定めたハーマンターゲットカーブは「周波数特性に関する事実関係を正確に伝えるための起点」に過ぎませんので、メーカーが心地よい音のバランスを追求した結果「ハーマンターゲットカーブより低音が多いほうがよいのではないか」とか「高音が出てたほうが良いのではないか」という志向や提案をするに至ることも十分あり得ますし、そうしています。私も KATO というイヤホンを非常に気に入っていた中国のメーカー MoonDrop は自身で設定した VDSF ターゲットという基準で機器を開発していますし、シンガポールの有名なブロガー Crinacle 氏は個人的好みとしてターゲットカーブを設定し中華系 IEM で多くのコラボ商品を出しています。最近注目されているノウルズカーブは 10kHz以降の超高域に着目した現代的なターゲットです。

計測サイトは大変ありがたいとか記事を読むコツがあるということを過去記事で記しましたが、上述のようなことの意識が根底にあります。自分の起点と相手の起点の差を知っていれば、相手の個人的印象がすべて自分の場合どう感じるかという参考情報に変換されます。
余談ですが、AI の解答にはこの文脈がなく様々なサイトの信頼係数の重みづけをした最大公約数を吐き出してくるので情報としてチープ、貧しいです。堅苦しい言い方をしますと、どなたのオーディオブログもハイコンテクストで AI の文章にはそれが無く薄っぺらだということです。正解のあることや最大公約数が欲しいときには AI が良いのですけどね。音質の話になると微妙です。AI の解答にも独特の読むコツが要ります。

音場

いわゆるモニターヘッドフォンのように耳に貼り付くことなく一定の距離を空けて音が届きます。モニターヘッドフォンの耳に貼り付く音が嫌いとよく言葉にする私が所有している密閉型ヘッドフォン同士で比較してしまうと、E3 が特別広いとは言えないのですが、このお値段出すならこのぐらいは広くないとという感じの納得感です。

で、その特徴なのですが左右方向に広いです。この説明に必要なため解像度にも触れますと、とても高くかつ粒立ちが整っているため、左右方向の分離感が非常にあります。元々耳に貼り付かず距離を置いていて、さらに細かな音まで粒を潰さず鳴らせていますので結果として左右の広がりはしっかりと描写されます。この左右への広さも「イヤホンだ」に繋がります。しっかり作ってあるイヤホン、特に多ドラではなくダイナミックや平面一発で作ってあるイヤホンは左右方向の仕上がりに強いものが多いです。前後がダメで左右だけ強いものを股を裂かれたようで嫌いだとも過去に言ったことがありますが元々一定の左右方向の距離感をもってのことなのでさほど酷くは感じないです。

前後の描写に一芸ある MDR-Z1R と Typ821 で比較してみました。
MDR-Z1R は音源に残された前後を正確に描写するというより、イヤーカップおよびイヤーパッドの設計ですべての音がスピーカーのように前方向から届く感覚を帯びるように気遣われています。
そのため、前方から届く感覚は E3 よりも持っていますが音像を細かく点で捉える力は E3 のほうが持っています。コンサートホール中段のおいしいところを目指して作られた MDR-Z1R とは思想や用途が異なるこという受け止めが妥当かと思います。
Typ821 はイヤホンなので E3 との比較は適切ではないかもしれません。しかし、E3 はぶっちゃけイヤホンサウンドだし同じ平面一発だからと比較しますと、そもそも不利そうなイヤホンである Typ821 のほうが前後は取れます。音場全体のサイズは一回りコンパクトなのですが、解像度の高い音を濁らせず鼓膜に届けられるからでしょう、ホール録音の音源内に残る前後関係を感じ取ることができます。逆に言いますと解像度でイヤホンと勝負している E3 がよく健闘しているとも言えます。

AMTS

以下、事実と考察が混ざる表現になることをご容赦ください。ということで事実から。

ヘッドフォンの装着位置

このヘッドフォン、装着位置を変えると音のバランスが変わります。こんなに変わるかと思うほど変わります。所有者の方は皆さんご存じと思いますが、確認未済のでしたらすぐに試すことをお勧めします。また、試聴される方も必ず試されたほうがいいです。でないと、このヘッドフォンの音を確認したことにはならないです。最も良いバランスの状態や自分の好みのバランスの音を「試し損なった」状態かもしれません。

試し方を記します。まず最初にイヤーカップの装着位置を出来る限り頬に近い状態に、極力前寄りにします。イヤーパッドの中で耳が立ち上がるぐらいまでが良いです。その状態で音楽を再生し始めたら、音楽を聴きながら少しずつイヤーカップを後頭部側にずらしていきます。「おやっ」と思ったら何度か前寄せ、後ろ寄せを繰り返してみてください。
記事を書く前は「何方でもどんな曲でも試せばすぐわかるだろう」と舐めていたのですが、実際に記事を書きながら試したところ意外と曲を選ぶことがわかりました。音数が埋まっていないものと使用している帯域幅に偏りがあるものはわかりませんでした。Go Go Penguin の Raven を聴きながらちょこっと試したら全然わからない、自分は何か勘違いをしていたのかと焦りましたが、勘違いではありませんでした。新旧数曲ほどのサンプルを Amazon Music のリンクで紹介します。

globe : SWEET PAIN / Amazon Music
Robert Glasper : Paint The World / Amazon Music
milet : Waterproof / Amazon Music

どれも下と上がしっかりと入っています。どれが一番わかるかといえば SWEET PAIN です。イントロ段階でものすごく太い低音の上に細かなハイハットが乗ってきてシンセが中域を満たすのですぐに試せます。KEIKO のボーカルが入った後なら瞭然です。Paint The World は執筆中に聴いていて「これもわかりやすいぞ」と載せたのですが、別問題として音源の状態、すなわち録音がよくなかったのでお好みのジャンルでしたらどうぞというサンプルです。Waterproof は初めからサビに入る前までは低音と milet の声が主体なので試しにくいです。0:50 ぐらいまで過ぎてからお試しください。

実際の聴こえ方ですが、イヤーカップを上述の試し方に記した頬側から後頭部側に移す流れですと、中低音が徐々に減り中高音が伸びてきます。キャラクターが徐々に明るくなる感じに変化します。
ここまでバランスが変わると、思うところ多くです。「装着位置の調整で好みの音のバランスで聴けるのはよいね。そんなことできるヘッドフォン少ないよ」と褒めることができますし「帯域バランスに関する各レビューサイトや試聴感想はどの装着位置の音で書いてるんだ。位置で変わるからどの感想もアテにならないぞ」とも思います。

ズレに関するアンサー

前の項目でヘッドフォンの装着位置とズレに関することをかなり丁寧に書きました。シンプルに装着感が悪くなるので狙った位置に留まらずズレるのはダメなんですよね。大前提としてダメ。
ところが、このヘッドフォンに限って言いますと音が大きく変わるので特別にダメなんです。他のヘッドフォン以上にズレちゃいけない。しかし他のヘッドフォンよりズレる。音質を売りにした、 日本のサラリーマンの平均月収が吹き飛ぶ価格のヘッドフォンがこれではより強くダメと言わざるを得ないです。

AMTS の形状と空間描写

音の広がりや空間を感じさせるヘッドフォンやイヤホンは、ドライバーを耳から離してドライバーと耳のあいだの設計に力を注ぎます。ヘッドフォンですとイヤーカップを大きめにしてドライバーを耳の遠くに配し、耳の傾斜に合わせ傾け、スピーカーのように前から音が届く感覚を得られるよう工夫したり。前項で例示した MDR-Z1R の画像を下に示します。

MDR-Z1R のイヤーパッド内 画像右が後頭部側

画像右が後頭部側です。ドライバを傾け、それにより出来た空間内での反射を軽減するため不織布のような素材を施しています。こうした工夫で耳に貼り付かず音の広がりや距離感を得ることに成功する一方で失うものもあり、音のフォーカスが甘くなったり低めの周波数帯の響きが強くなったりします。このブログ、イヤーパッド交換のブログみたいなものなので読みに来て下さる皆様のほうが私より詳しいかもしれません。イヤーパッドで創る空間は最後の細かなチューニングに大きく影響を及ぼします。空間描写と解像度の両立は難しく、これが高価で高級なヘッドフォンの存在する理由の一つにもなっています。

で、DCA 流の解決策が AMTS 。ドライバーを耳に貼りつかせず距離を確保しているのですが、細かいメッシュ状のパーツを用いて空間を作らず音を耳に叩きつけてます。これによりフォーカスを甘くしてしまったり空間で余計な反響を作らずに済みます。

AMTS 画面右手前が耳の穴・頬側 

ドライバーを真横に配しているので耳の傾斜に沿わせるために頬側を厚く、つまり耳の穴側は厚くし後頭部側は薄くしてあります。この暑さの変化が「イヤーカップの位置で音が変わる」原因にも繋がります。位置をズラすと聴いている音が AMTS の厚いところか薄いところか変わります

勝手な推測ですが、管が細いので長い(厚い)ほうが低音の減衰は大きいのではないかと。なので、イヤーカップを後頭部に持っていき AMTS の厚いカップ前方のほうで聴こうとすると中高音が逆を聴くときより伸びるのではないかと見立てました。

また、音場が横には広いけど前後が狭いのもこれで説明がつきます。この巨大な細管の束で空間を潰し、耳に対し極力平行に音をぶつければ、そりゃ前後空間は感じられなくなります。薄いイヤーパッドで耳に張り付けるモニターヘッドフォンや耳穴に突っ込んで鼓膜に直接ぶつけるイヤホンに音は似ます。「これはイヤホンだ」という感想にも繋がります。
とはいえ、それらの同系統の音なのに左右に広い点では感心します。

おわりに

複数のヘッドフォンを所持して何も考えずしばらく使い続け、一番手にする時間が長いものがあなたにとってよい音のヘッドフォンだ。そんなことを過去のブログで書いたことがあります。そうなったら終わりだ、それがオーディオ沼だとの言葉も添えて(苦笑)。

いま使用時間の 5 - 6 割が E3 です。ほんと価格に合わないビルドクォリティーでダメなヘッドフォンでした。「でした」という過去形の言葉が示すように、弄り倒してなんとかしました。臭いのをなんとかして、イヤーパッドのベトベトを除去して、ヘッドバンドを自分専用の位置に固定して。ここまですれば、装着感も良いし音も面白い。
まとめに入ってしまって触れませんでしたが、解像度が高く音色の艶感感じないタイプのヘッドフォンなのでアンプで音は変わります。A級の柔らかな音を出すアンプで試したら、解像度が高いという長所が薄れてイマイチでした。アンプを試すのにも向いてます。

T50RP の改造から始まったガレージメーカーだけあり、買い手にも自社の製品を弄らせます。そっちの世界の製品なのでしょうね。
価格相応のラグジュアリーさを求めるなら Focal や MEZE などにいったほうが幸せです。価格相応かつ質実剛健ならオーディオテクニカや FINAL などにいったほうが幸せです。「とにかくお前らの考える良い音とらやを聴かせろや」という顧客が買うのが DCA なのだと知りました。

そういうのも理解できますし好感が持てます。持てますが Focal や MEZE も好きなんですよ。そんなに金持ちじゃないので、なけなしのお金はたいて買ったら、持ってウットリ、飾ってウットリ、聴いてウットリもしたいです。もう少し開封時のプレゼンテーションもビルドクォリティーも頑張ってください。期待してます。

TH1100RP のイヤーパッドと低音の量感

今回は「オーディオ試行記録」らしい記事です。 タイトルにありますとおり FOSTEX のヘッドフォン TH1100RP での試行錯誤を記してみました。前回の T60RPmk2 の記事とは真逆のマニアックな内容かつ数多くの販売を見込む価格帯のヘッドフォンではないため、記事のニーズは極めて少ないと思います。とはいえ、少しでも還元しようと始めたこのブログ、世界で数名にしか役立たない記事であっても記録に留めておきたい所存です。
そうでない方には「相変わらずアホやってるなー」と笑っていただければ執筆者冥利に尽きます。

FOSTEX TH1100RP

いつもメーカーの話を最初に軽くしますが前回と同一ですので省略いたしました。ご興味ある方は前回の T60RPmk2 に関する記事をご一読ください。

購入動機

T60RPmk2 の記事を書いてしまったのが原因です。自業自得なのか自爆なのか。記事を書かなければ買わなかったと断言できます。同記事で私は

モニター用途のヘッドフォンというカテゴリ内でオーディオ的な楽しみ方をするというスタイルの、一つの完成形

と総括してしまいました。
この瞬間から「じゃあ、FOSTEX が最初から最後までオーディオ志向で創った平面型はどんな音を奏でるのか?」と考え始めてしまいました。メーカーがそんなことを言っている訳ではありませんが、私の脳内では T60RPmk2 が「モニター機のオーディオ仕上げ製品」、TH1000RP・TH1100RP が「正真正銘のオーディオ製品」と整理されてしまっています。この違いを車に例えますとファミリーカーのスポーツカスタムとスポーツカーぐらい違います。Superior EX の記事で私はモニターと HiFi は根本が異なると断言しているぐらいなので、きっと音の仕上げ方が全く異なると想像をしてしまっています ( これは実際に手にして、その通りだったと実感することになります ) 。衝動は止まりませんでした。
T60RPmk2 を購入して半月後、記事をアップして数日後には TH1100RP が手元にありました。たった半月のあいだに同一メーカーのヘッドフォンを2 本も買ったのは初めてです。翌月のクレジットカード引き落とし日はさすがに凹みました。

高価格帯のヘッドフォンに求めるもの

高価格帯のヘッドフォンに求めるものを少し考えてみます。

良質なモニターヘッドフォン

モニターと呼ばれるタイプのサウンドを奏でる良質なヘッドフォンは、さほど高価格帯に目を向けずとも手に入ります。例えば、ベイヤーダイナミックの DT1770PRO MK2 や DT1990 PRO MK2、ゼンハイザーの HD660S2、Austrian Audio の Hi-X60 など。これらを愛用され満足なさっている方も多いと思います。
物価高と為替の影響で高くなったとはいえ、まだ何れも 10 万円ちょっとで、ないし 10 万円でお釣りが来るものが多いです。Amazon のリンクを貼っておきます。たまにセールもございますので最新価格を確認したい方は辿ってみてください。

であれば、これらの商品以上の価格帯の製品など要らないじゃないか、何を求めるのかという話になります。現に、要らないし素人を騙してぼったくるのがオーディオの世界だという議論も存在します。散財している私でさえ説得力を感じますし同意もします。

モニターヘッドフォンでは得られないもの

音楽制作者が DAW で細かな音を加えていき左右のパンニングを調整しエフェクトを掛けるといった行為を繰り返しトラックを制作するにあたり、微細な調整をヘッドフォンが音として反映できていなければ道具として役に立ちません。
逆に表現しますと、繊細な調整を正確に音として反映してくれるものは優れたヘッドフォンであるという評価に繋がります。
上述のような評価基準。モニターヘッドフォンで得られる音がどのようなものかを理解しつつも、敢えてそこでは得られない音を求めだしたところに趣味としてのオーディオの世界が広がり始めます。
このブログをご覧になるような方は、いざというとき用にモニターヘッドフォンを一本ぐらい手元に残していたりするのではないでしょうか。モニターはモニターとしてわかっているけど、これでは楽しくないんだよ。別に音源の粗探しをしたいわけではないので、細かいノイズに引っ込んでもらえないかなーなどという考え方をお持ちの方も多いと思います。
多くの優れたブログで語られていますので私が語るまでもないのですが、趣味で音楽を楽しむなら、高音の刺さり、音場や奥行き、音の艶感演出、ボーカルなど特定の周波数帯の前後演出、装着感の向上、はたまたモノとしての美しさや高級感などといった、何れも音楽制作者が打ち込みやミックスに使う道具には求めないものを求めます。そこで得られる感動がモニターヘッドフォンより高価なリスニング向けヘッドフォンへの対価です。

ぶっちゃけシンバルをひっぱたけば音は刺さります。そのままが録音されているならヘッドフォンで聴いたときも刺さってもらわないと道具として役には立ちません。でもオーディオとして楽しむときには、ちょっと刺さりが減っていた方が嬉しいわけです。

メーカーの方はきっと「素人の分際で適当なことを言いやがって」とお思いでしょう。書いていて申し訳なく感じてもおります。過去、装着感は音質に勝るだの、モニターヘッドフォンの股裂きが気に食わないだの、高音は伸びやかに低音は深く沈めだのと好き勝手なことを言ってきました。しかし、裏を返すと、これらの発言はモニターヘッドフォンといわれる製品群とは異なる「趣味の世界」の製品群の存在を認め、愛好し、ときに対価としてプロ向けの製品の数倍を支払う覚悟がある故の言葉だとメーカーの方にはご理解いただきたく思います。

機種選定

TH1000RP・TH1100RP の存在は 2024 年の発売当初から知っていました。しかし、簡単に手を伸ばせる価格でなかったため眼中にはありませんでした。密閉型ヘッドフォン好きの私は「いつか購入対象として検討したい」と Dan Clark Audio の E3 に意識がずっと向いていました。E3 を買えるだけの経済状況になった際に同価格帯の候補を複数選定し、試聴して一番気に入ったものを買うのではないかと。恐らく、その選択肢の中に TH1000RP・TH1100RP が入ることもなかったと思います。
ところが、前述のとおり FOSTEX がオーディオ志向で創った平面型の音を聴きたいという新たな衝動が生まれてしまったため想定外のピンポイント機種指定となってしまいました。

事前調査

冷静さを失ってはいましたが「まあ落ち着け。この価格帯には良いヘッドフォンがいっぱいある。本当に他機種比較せず狙い撃ちするのか時間をかけて真剣に考えろ、調べろ」と自分に言い聞かせる努力はしました。
いつものように様々な方のレビュー記事も有り難く拝見しました。高価なものだけあって記事の数は少なかったです。事前に確認できたのは試聴の感想と合わせても 10 に満たなかったかと思います。
また、ピンポイント指定ではあるのですが選択肢が 2 つあるのにも悩まされました。いや 、選択肢は 3 つですね。TH1000RP or TH1100RP or どちらも買わないの 3 つ。売却時の価格差を考えると「買ってイマイチなら専門店に買い取っていただけば」と軽く考えられないため、買わないという選択肢を残す努力は続けました。

試聴

TH1000RP と TH1100RP と 2 機種あるお陰で「試聴をせず購入」という暴挙は避けられました。どちらかしか製品として存在していなかったら無試聴で買ってしまったかも知れません。
両方が試聴できるショップに足を運んで聴かせて頂きました。

レビューは的確

なんと申しましょうか、レビュー記事は的を射ていました。試聴した際に「その通り」だと思いました。各々方に表現の強弱や言葉選びのネガ・ポジはございましたが、同じ方を向いて表現をなさっていると感じました。このヘッドフォンの音が特徴的なのか、それとも高級機故にレビューを記す方々が強者揃いなのか、恐らく両方でしょう。
レビューで何方かが音場について TH1000RP は円の中心に頭を置いた感じ、TH1100RP はその円を前方に移した感じと表現なされていたのですが、試聴時に「上手な表現だ」と感じました。
ある方は編成の少ないジャズとかとろけるほど美しい、ロックは厳しいとおっしゃっていましたが、これも試聴時には「そのとおりだ」と思いました。
総合的な仕上がりとして TH1000RP のほうが整っていると書かれている方がいらっしゃりましたが、これにも試聴時の感想としては同意するところでした。

購入

で、TH1000RP or TH1100RP or どちらも買わないの 3 択で選んだのは TH1100RP でした。
確か海外のロック好きの方の書き込みだったでしょうか。試聴して低音が少なすぎてダメだとお店の方に返答したらイヤーパッドを変えてくれた。そうしたら、ロックにとても合う状態になったので買ったという記事を事前に目にしていました。

イヤーパッドはこのブログのメインコンテンツです(笑)

もし、上述の記事を目にしていなかったら買わずに帰りました。量は少ないのですが締まりのよい低音が出ていることは試聴で確認できましたので、弄れるならと賭けに出ました。
TH1000RP でなく TH1100RP を選んだのも同様の理由でした。音を変えるために密閉型の TH1000RP に穴を開けることは現実的でないですが、開放型の TH1100RP の穴を塞ぐことでしたら可能です。本体に傷をつけることなく弄れる範囲の広さで選びました。

最後に、両機種に対する私の試聴時の感想を正直に申しますと、決して良いものではありませんでした。敢えてネガティブな言葉で表現しますと、音数が少ないインストは良いですが 100 トラック以上使ってるような J-POP は聴けたものではありませんでした。この機種、後述しますが陳腐な表現しますと「鳴らしにくい」ヘッドフォンで、試聴時の機材構成によっては本来持つであろうヘッドフォンの音と程遠い音で誤った判断をしし兼ねないです。

ということで、さっそく試行し始めます。

デフォルトの状態

まず、何も余計なことをしていないデフォルトの状態について触れた後に弄ったものを記します。

密閉型・開放型

TH1000RP・TH1100RP の話をするにあたり、この語句の使用を避けての表現が難しい「密閉型」と「開放型」について、雑かつ最低限にではありますが触れさせてください。

ヘッドフォンのイヤーカップが塞がれたものを密閉型、塞がれていないものを開放型と呼称します。このイヤーカップの造りの違いが音響として両極端な特性もたらすため、どちらが優位とは一概には決め難く一長一短ございます。
故に、同じドライバーで密閉型型と開放型の 2 タイプを製品を展開して好みを選んでもらうということも多いです。いちどこのブログで記事にした HIFiIMAN の SUNDARA もその一つです。

(左) SUNDARA (右) SUNDARA CB

密閉型と開放型の差を端的に述べます。

音漏れを防いでいるのが密閉型で防がないのが開放型というのは前述のとおりです。
これを装着した瞬間の感覚に言い換えます。外音がパッと閉ざされ静かになり音楽を聴く環境に移ったと感じるのが密閉型、周囲の音が聴こえ続け環境変化を感じず自然に音楽鑑賞に移れるのが開放型です。
続けて音楽を聴いている状態で表現します。耳に届く音全てがドライバーが発したものと感じられるのが密閉型、聴取している環境音とドライバーが発する音がブレンドされ溶け込むように耳に届くのが開放型です。
最後に聴こえる音のうち指向性が弱く力が必要な低音だけに着目します。ハウジングの反響も合わせ耳に迫るのが密閉型、外部に拡散し一部しか耳に届かないのが開放型です。

以上、非常に雑ではありますがこの程度でも密閉型と開放型の兄弟機種を比較した際に「そりゃ当然だ」と「意外、これは凄いかも」というインプレッションの差が出てきます。パンチのある低音が出る開放型や、音場広く前後の奥行感が感じる密閉型は凄いと感じます。遠くでモノを落とした音が鳴る音源を聴いたとき、思わず鳴った方を向いてしまうのが開放型なら当たり前、密閉型で思わず向いてしまったら凄いということです。

半開放型・半密閉型

リスニング用の高級機を開発しているメーカーは、密閉型と開放型の持つ特徴を踏まえつつ他方の良さをどう実現するか研究をし続けています。
過去、私は「家族と過ごすリビングで使用したい、冷暖房の空調音が鳴る部屋でも楽しみたいので開放型が向かない」と記事に記しました。いまでもそれは変わらないです。そうして手元に残したヘッドフォン、当然音が漏れにくい密閉型?なのですが「これ密閉型と一言で片付けていいのか?」という工夫を施した製品ばかりです。三機種ほどピックアップしハウジングを眺めてみます。

(左) MDR-Z1R (中) STELLIA (右) TH909

まず、SONY MDR-Z1R。ハウジングがメッシュグリルで完全に開放型のそれで全く塞がっていません。しかし、その中は和紙で覆われています。

次に、FOCAL STELLIA。こちらもまるで開放型のような穴だらけのハウジングです。その穴をレザーで塞いでいます。

最後に FOSTEX TH909。こちらは前の 2 機種と異なり開放型と呼称していますが周囲に木製のハウジングが存在します。カップ中央を切り抜き大きく穴を空けていますが 2 枚のメッシュプレートでかなりの部分を塞がれ、共振を防ぐべく不規則なサイズで並んだ残りの穴も黒い吸音シートで閉じられています。
開放型と呼称しているとはいえ、この塞がれ具合から察しますように音漏れは少ないですし、装着時に密閉型のような音を聴く環境に移った感も若干あります。

これら三機種、密閉型と呼ぶにも開放型と呼ぶにも微妙な存在です。音漏れ具合を基準に分類はしていますが、相互のネガを消してポジを活かす工夫に満ちた、どちらかに分類するのがもったいない製品ではないでしょうか。開放型と密閉型の両者の長所を取り入れようと工夫されたハイブリッド製品ではないかと思います。

TH1100RP の音の印象

試聴段階では感じなかった印象も含めて記します。

音色

音源に忠実なタイプか特徴付けがあるタイプのどちらに属するかと問いますと後者。音を美しく聴かせるタイプです。お化粧に例えますと薄化粧で目元だけとか口元だけといった限定的なもののような感覚です。

最初に特徴として挙げたいのが高音です。徹底的に刺さらず解像度細かく伸びます。ツンツン、キンキンが抑えられシャリンと奏でられるので聴き心地は非常によいです。これを評価して価値を見出す層は確実にいると思います。化粧に例えた最も感じる部分がここです。

少し音の周波数を下げて 2-4 kHz あたりでしょうか、中高音のあたり。音が退かず僅かに響きとして残る感じがします。これがピースの少ないジャズのようなアコースティックサウンドにピタッと嵌ります。もともとアコースティックな楽器はボディーに残響があるので残響演出は音の美しさに一役買います。
これが流行りサンプリング音を詰め込んで DAW で編集した 100 トラック超えの J-POP となりますと途端に厳しくなります。微小音のトラックを積み重ねを残響的に敷き詰めているので、変にこの周波数帯が淀んだ印象になります。ロックが合わないと評価される方の理由も一部はこれでないかと思います。

余談 J-POP
J-POP を良い音で聴くのは変に難しいと感じます。敷き詰められた音も含めて堪能するには、高解像で分離し音の立ち上がりも消えぎわもスッと鋭い機器で聴く必要があります。それこそモニター的なもので聴く必要があるのですが、そういったもので聴くと今度は音質がトラック毎に不揃いで雑なことが露呈します。「ギター綺麗なのに、このピアノの音はなんなんだよ。」「このドラム汚い。何のソフトについてきた音源だよ。」みたいなことが起こります。出自が楽器音ではなく、或るアーティストの CD 音源を切り取って詰め逆再生したサンプリング音を入れている等のケースでは尚更です。このサンプリング音源使用には「通には、業界人にはわかる」というハイコンテクストなアピール目的や制作した楽曲への箔付け目的の側面が非常に強いと感じます。この手のサンプリング音は SN 比が低くざらついた音になって当然です。まともな音の状態を維持できているのは上位十数ビットがいいところでしょう。いくら楽曲自体を 48KHz 24ビットで編集をしていても音源は下位半分が雑音だらけの劣後した音。私のような非業界人、素人が聴いたら「お、このサンプリング、今流行りのあれやな。取り込んでるね。」とはならず「耳障りで汚いテクスチャーだな、他のトラックとえらい違いや、勘弁してくれ」としかなりません。

もちろん、そういった音を一度スタジオでスピーカー再生させマイクで録ったりアナログ機器を通してエフェクトをかけ再デジタル化していたりすると「そういう音」に生まれ変わりますので話は別です。ですので全ての J-POP が上述のようだとは申しません。なかには凄いと感じる楽曲ものもあります。

最後に低音です。これは賛否両論が激しく出ると思います。私は二桁周波数の音、特に50Hzを切るような低音が圧倒的に足りないと思います。鳴っているか否かで言いますと鳴っています。音量を上げれば、質の高い低音が出ているのがわかります。しかし音圧が足りません。冒頭で賛否両論と前置きしたのは「全く問題ない、十分な量だ。」とおっしゃる方がいらっしゃると思うからです。例えば、TAGO STUDIO T3-01 は非常に多くの支持を得ていますが、私は低音が少ないと思いました。T3-01 の低音の量を OK とする方なら TH1100RP は全く問題ないです。

また、音源の録音された時代によって低音への要求水準が変わります。数十年前の音源には上述のよう低音はさほど入っていないです。80年代から 90年代はじめの CD 音源など顕著です。しかし、現代のサウンドですとそうはいきません。音の立ち上がりまで意識した低音がふんだんに盛り込まれてます。

むかし私に T3-01 を紹介して下さった本職のサウンドディレクターの方に最近も使っているか尋ねました。専ら古いジャズ観賞用で使っているとのこと。そのときは「やはり。それ系が良いですよね」とヘッドフォン愛好家としての反応をしてしまいましたが、裏を返しますと最新サウンドのモニター用途からは退いているということです。

頻繁にモデルチェンジしないフラッグシップ機故に、じっくりと原稿を書いていました。この付近まで書いた 2025/9 中旬のタイミングで TH1100RP に mk2 が発表されたことを知ってしまいした。
そのため、この記事を丁寧に記し提供する意義が無くなりました。

この先から「TH1100RPmk2 発売を知り」という段落までは、撮りだめた写真と走り書きに終始させていただきます。それでも mk2 での変更点の参考にはなるかと。
後日少しずつ加筆し、本来の筆量に仕上げていきます。

音場

開放型のヘッドフォンに相応しい広がりを持っています。

TH909 との比較

イヤーパッド変えて低音を増す前提で買った TH1100RP 、TH909 と比べてどうなのかじっくり比較します。

(左) TH1100RP (右) TH909

当初は、ドライバーが異なるということでイヤーカップの径が異なることも想定していたのですが、なんと同じでした。

イヤーパッド

イヤーパッド形状

イヤーパッド形状を比較します。

(左) TH1100RP用 (右) TH909用

サイズ感や形状だけで言いますと、上の写真のようにほぼ一緒です。
パッと見で異なるわかりやすいのが、ドライバーを隠すシートと申しますかカバーの部分でして、TH909 用と異なり TH1100RP 用は空気抵抗が無きに等しいメッシュ素材で透けるほど薄いものです。

(左) TH909用 (右) TH1100RP用

上の写真で透け具合がわかると思います。ドライバーの音をそのまま耳に届けたい意思が伝わります。

TH900 や TH909 のイヤーパッドの装着にはアダプターを使用するのですが、TH1100RP も同様の仕組みで、アダプターそのものを比較したら同一でした。

イヤーパッドアダプター TH909  TH1100RP

同一のイヤーパッドアダプターということで、イヤーパッドの変更対象には TH900 用 や TH909 用が使えるということで選択肢は多く持てます。

イヤーパッドを外したついでに、TH1100RP 側の写真も収めておきます。

(左) 通常 (中) イヤーパッド外した ()右) ダンパー外した

続けてイヤーパッド自身とダンパーの写真です。

(左) イヤーパッド表(中) ダンパー (右) イヤーパッド
装着感

TH1100RP のイヤーパッドは、耳がドライバにあたってしまいます。耳の大きさやたち具合で個人差が出る部分ではありますが、これは当たってしまう方が多いと思います。わたしは、はっきりと「ダメ」でした。

私が気に入っている TH909 のイヤーパッドとほぼ同形状なのにダメとはどういうことなのかと申しますと「柔らかすぎる」のが原因です。

この「柔らかすぎてダメ」をどう伝えようか考えまして、下の写真にある猫に手伝ってもらうことにしました。

(左) 猫 (右) 体重

上の写真にある猫に、TH909 用と TH1100RP 用のイヤーパッドに乗って比較してもらいます。

(上) TH909用 (下) TH1100RP用

上記の写真でわかりますように、TH1100RP用のものは 350g の重量でペチャンコです。これでは厚さがいくらあってもダメです。

(上) TH909用 (下) TH1100RP用

上記の写真、TH909 用が固いわけではないです。たかだか、350g のものを載せてこんなに差が出るほど柔らかい。別物だといういうことです。

そして、その別物は装着すると柔らかすぎてすぐに厚みを失い、耳にドライバが当たって痛いということです。

モニターヘッドフォンの説明で「薄いイヤーパッドでドライバーの発する音を直接鼓膜に」という文言をよく用いますが、まそにそれですね。素材が高級か否かのさはあるでしょうが、思想はモニターのそれです。

私は、もともと低音域の量感を増すためにイヤーパッドを変える想定で買いましたが、これだと装着感を理由にしても変えないといけません。

ということで、TH909 用を一旦基準に置きつつ、様々なイヤーパッドを試します。

TH909用 のイヤーパッドを装着

サードパーティーイヤーパッド

TH909 用のイヤーパッドが使用可能ということで「直径 105mm の円形」のイヤーパッドなら装着できます。多少真円でなくても、円周 330mm ぐらいなら強引に変形させ嵌めることが可能です。
納得いく量感の低音にすべく数多くの種類を買って試しました。
試したイヤーパッドの写真撮影時、右に TH909 用純正イヤーパッドを並べましたので厚みの比較参考になると思います。
また、全ての製品が購入時点でドライバを覆うシートがあるものでした。しかし、写真撮影前にドライバを覆うシートを切ってしまったものもあります旨ご容赦ください。

ドライバーを覆うシートを切ってしまう

シートを切る前と切った後

YAXI

YAXI Comfort アルカンターラ

このイヤーパッドの特徴は耳の後部と前部で厚みを変えているのでなく上部と下部で厚みを変えていることです。

YAXI Comfort アルカンターラ

YAXI Comfort アルカンターラ

Brainwavz

Oval

Oval Replacement Earpads - Suitable for many Headphoneswww.brainwavzaudio.com

Brainwavz Oval

Brainwavz Oval
Oval - Perforated

一つ上との違いは、小さな穴が開いていてメッシュ状になっていることです。

Headphone Memory Foam Earpads - Oval - Perforatedwww.brainwavzaudio.com

Brainwavz Perforated

Brainwavz Perforated
Angled

耳の前部に比べ後部が厚くなっているイヤーパッドです。

Angled Oval Headphone Memory Foam Earpadswww.brainwavzaudio.com

Brainwavz Angled

Brainwavz Angled

このイヤーパッドだけ、数日後に撮り忘れたことに気がついて撮り直しました。そのため、右上の写真だけイヤーパッドアダプターに白い生地を貼る改造が施されています。

Hybrid Oval

Hybrid Oval Replacement Memory Foam Earpads - Suitable for many Headphoneswww.brainwavzaudio.com

Brainwavz Hybrid Oval

Brainwavz Hybrid Oval

Aliexpress 内製品

中国の通販サイト Aliexpress は玉石混合、必ず良いものが買えると限らないため、私が買った製品へのリンクの掲載を控えたいと思います。同じ品質の同じ製品が届かず、皆様に損害を与えかねません。
粗悪品がとどいても構わない、と私のように割り切れる方はトライしてみたい方は、下に示す写真を参考にしつつ「イヤーパッド 105mm」で検索してみてください。

角度つきシープスキン

表題のように書いてありましたが、シープスキンではなくプロテインレザーです。そういう価格でしたので承知で買いましたが、これは失敗で捨てました。有機溶剤臭がしているのと、ティッシュイヤーパッド表面を拭くとティッシュが黒く移りしたためです。

角度つきシープスキン

角度つきシープスキン

明らかな失敗、そもそも使い始められない品質なのはこの製品だけでした。
後述のものは全て使用開始には耐えられる品質で、仮に半年程度で痛んで使えなくなったとしても「まぁ安かったし買い直せばいいや」と言える品質になっていました。

ラウンド冷却ゲル注入

ゲーミングヘッドフォンで流行っている、暑くなりにくいイヤーパットです。

ラウンド冷却ゲル注入

ラウンド冷却ゲル注入
ソフトフォーム

とても厚くて程良い柔らかさのイヤーパッドです。

ソフトフォーム

ソフトフォーム
ソフトシープスキン ( 108mm )

この製品だけ 105mm をみつけられず 108mm を買いました。シープスキンと書いてありましたがプロティンレザーです。装着に問題はありませんでした。

ソフトシープスキン ( 108mm )

ソフトシープスキン ( 108mm )

これだけの種類を試して

上記写真に収めた以外にも、3 - 4 種類のイヤーパッドを試しました。10 種類以上は試したでしょうか。それだけの数を試した結果は

どれを試しても低音は足りない

つまり、失敗ということでした。全てのイヤーパッドを一気に試したわけでなく、注文して届いた順に、週末を使って少しずつ試しました。5 種類ほど試した段階で「これは不味いかも、たいして変わらん」と感じ始め、注文済みの全てが届き試し終えた瞬間に「詰んだ」と実感しました。この金額のヘッドフォンを買ってこの結果、シャレにならんと。シャレにならないので、まだやれることをやらないと思考を巡らせたときに、低音チューニングを変えた T60RP 50TH ANNIVERSARY (過去記事) を思い出しました。あれをやろうと。そう、ダンパーの変更です。

ダンパー変更

ダンパーの有無と音の違い

幾度か上述の写真にも収めてきましたが、イヤーパッドを外すと出てくる円形のスポンジがダンパーと呼ばれるパーツです。このダンパー、イヤーバッドによって作られるドライバと耳のあいだの空間の空気を外に逃がす隙間を「軽く塞ぐ」役割を持ってます。下にダンパーと外に逃がす隙間の写真を貼ります。

(上)ダンパー (下)ダンパー装着部分の隙間

写真にあるように、ダンパーを取り外すと隙間があるのがわかります。ドライバーから発せられた音がこの隙間からハウジングのほうへ逃げます。また、隙間があること自体で耳への圧迫感が軽減されます。

TH1100RP をお持ちの方、いや TH909 や 900 616 などをお持ちの方は試しに外して音楽を楽しんでみてください、音が全然違うことがわかると思います。ちなみに、TH1100RP で外すと、中低域が抜けてスカスカな音となりとても聴けたものでないサウンドになります。

このダンパー、TH1100RP 用に装着する 50TH ANIV 風の形状ものを手作りで工作してみることにします。

ダンパー工作

素材入手

それっぽいスポンジ的なものを買って切ればいいだろうといことで、Amazon で検索し以下のものを買いました。

この素材、有機溶剤臭が酷くて苦慮しました。臭いを消すために様々なことをしました。結果的に消すことができましたが、消すためにやって効果のあったものを記しておきます。

  • 洗面器にお湯をはり、中性洗剤を入れてよく泡立てる。そこに素材を入れてしっかり洗剤を吸わせて絞るを繰り返す。その後、お湯に切り替え、お湯を沁み込ませ絞るを繰り返す。最後にドライヤーで水分を飛ばす。
  • 炎天下の直射日光下で朝から晩まで天日干し。これを3日分。
  • 無水エタノールのプールに素材を漬け、たっぷりエタノールを沁み込ませ絞るを繰り返す。15分ほど。その後ドライヤーでエタノールを飛ばす、

すごく手間を要しますが、大切なヘッドフォンに臭いものなどつけられないので気合い入れてやるしかないです。

尚、天日干し以外の臭い消し作業は、下記の加工後にやったほうが楽です。

加工の練習

工作に必要な道具が、鉛筆、定規、コンパス、ハサミ、カッターぐらいしかないため、紙で練習しました。コンパスを駆使して垂線を書きまくります。

紙で練習
加工本番

本番と言っても、紙で練習したように素材に書いてハサミで切るだけの作業です。周囲はハサミ、中の切り抜きはカッターで行いました。

書いて切り抜く作業

2 個作ればヘッドフォンの左右に装着できるので十分なのですが、一発で成功させるのは無理で慣れが必要なのと、ジャストサイズが欲しくて 1mm違いのバリエーションとかで、都合 7 - 8 個作りました。

純正ダンパーとの違い

純正ダンパーと自作ダンパーの違いを写真に収めました。純正が円なのに対し、自作はドライバーに合わせて四角形です。また、純正は四隅がドライバーに被ってしまっているのですが、自作は四隅をギリギリまで狭くして被らないようにしています。

純正ダンパーと自作ダンパー

音はどうなった

低音はバッチリ増えました。イヤーパッドによる変化量とは雲泥の差です。TH909 の低音よりは気持ち少ないかなという程度まで増えます。

ここまで雑な記事で恐縮です。
ここから上は、後日少しずつ加筆して本来の筆量にしたく存じます。

TH1100RPmk2 発売を知り

TH1100RPmk2 が発売されることを目にし、発売前に言語化しなくては後出しになってしまうと思い記事の公開を急ぎました。高価なリスニング用ヘッドフォンを買う者として何を気にしているか、どう感じているかを残したいと思います。

フラッグシップとモデルチェンジ

iPhone は毎年モデルチェンジをしています。日進月歩の半導体。ソフトウェア機能、ガジェットというカテゴリ性。そういった背景を踏まえて。
40 万円もするヘッドフォンはどうでしょうか。オーディオの進化とドライバの研究開発、高級な素材と丁寧な加工による所有欲を満たす品質。ソフトウェアである音楽は 10年前と同じスペックです。例えば 96kHz 24bit の Flac や 11.2Mhz DSD など。もし 44.1kHz 16bit でしたら、昭和の終わりから一緒です。iPhone どころか mac 初代の時代から変わっていないです。そんな 44.1kHz 16bit 2ch の時代からソフトウェア側のフォーマットは変わらずに、少しずつハードウエア側が改良され現代までに至ったヘッドフォン。技術の粋を集めたフラッグシップが僅か一年で iPhone のようにジャンプアップするものですかね。

私が所有している 2016年発売の SONY MDR-Z1R や 2019年発売の FOCAL STELLIA は未だに現行機種です。

ガジェットに出す金額との違い

毎年モデルチェンジを繰り返し、翌年には陳腐化すると知っていているものを買うのだという自覚があれば「今年は見送ろう」「今年は買おう」とタイミングを計ることができます。ガジェットとの付き合いとはそういうものです。

イヤホンやヘッドフォンにも同様のケースがあります。SONYノイズキャンセリング機種は、高性能化とデザイン変化を毎年繰り返しています。ガジェット的に付き合う感じのプロモーションもされています。しかし、同じ SONY でも MDR-Z1R はそうではありません。

iPhone なら、毎年 15 万円出すか三年に一回 15万円出すかなどを自分の財力で決めて消耗します。フラッグシップのヘッドフォンはそういう消耗をするものなのでしょうか。わざわざフルグレインレザーを使ったり漆で加工したりするのは、1年で消耗し買い変えさせるためにするものへの加工なのでしょうか。愛着をもたせ永く愛用させるためではないでしょうか?

付き合いにくいメーカー

HIFIMAN の高価な機種を、わたしは他の方に勧められません。理由はモデルチェンジが多く、またセールによる値下がりも多いメーカーだからです。過去の記事で、為替の問題もあり悩んだら欲しいタイミングで買うしかないという、ある意味で値下がりやモデルチェンジを承知して買うしかないという諦めの境地のような買い方をするメーカーだと記しました。それだけが理由ではないのですが、オーディオ店の下取り価格も安いのが HIFIMAN の特徴です。ですので iPhone 的に買わないと後悔することになります。極端な言い方をしますが、もし HIFIMAN の機種でフルグレンレザーとか漆ハウジングとかで通常機種の倍の価格のモデルが出たとしたら、とても買えません。FOCAL や SONY でしたら買えますが HIFIMAN では危なくて買えたものではありません。「同性能だし、こちらの金属とプラスチックの機種の方が半額で済むからいいな」となります。

FOSTEX というメーカーは?

この記事の頭にあるように、私が TH1100RP を買ったのは 2025/5 です。発売されて 9 ヶ月しか経っていない製品です。それより 5 年ほど前にダイナミックドライバー機種としてはフラッグシップにあたる TH909 を購入し所有している身としては、FOSTEX の最高価格機種である TH1100RP を「ガジェット」として買った覚えはありません。この美しいハウジングの機種は、先ほどの  SONY MDR-Z1R や FOCAL STELLIA と同様のものとして買いました。

それが、購入後4ヶ月、発売 1 年でモデルチェンジです。

このメーカーは、いつから美しいハウジングを施した 40 万円近いリスニング向けオーディオ機種をガジェットとして売るメーカーになったのでしょうか。

記事にするメーカーとしないメーカー

Madoo TYP821 を記事にしたとき、メーカーとして信を置けないと記事にするのに抵抗を感じると記しました。また、私は他のブログを書く方と違い筆力と速度に自信が無いこともあり、記事にした数より買ったイヤホンやヘッドフォンの数のほうが多いです。つまり、記事にするに値しないイヤホンやヘッドフォンのことは書きません。

そのようななか、FOSTEX は最も多く登場していました。
この TH1100RP が FOSTEX の最後の記事にならないことを望んではいますが、今の段階ではメーカーとして信を置き難く、大切なお金を投じる気になれません。