オーディオ 試行記録

多くの個人プログやネット記事に助けられました。私の経験を還元したくです。

iBasso Audio 3T-154 購入後インプレッション

ブログを執筆し始めた理由の一つが散財しないようするためでしたが、2023年はダメでした。記事にしただけでも、HiBy R6 Pro II , AK PA10 , Sennheiser IE900 , T60RP 50TH ANNIVERSARY と購入してしまいました。他にもイヤホンを 2本ほどとケーブルを数本購入しています。このうち、真に使用する目的をもって買ったのは R6 Pro II だけでした。

今年は昨年のようなことの無いようにと誓っていたのですが、その誓いも空しく四半期と待たずに新しいイヤホンを購入してしまいました。

iBasso Audio 3T-154

購入動機

仕事でストレスがかかったときに気になる新製品のニュースを読んでしまいました。iBasso から大型のダイナミックドライバを採用したイヤホンが発売されるとのこと。1DD好きの私には気になるニュースです。
どうせまたお高いんでしょと思いながら価格を見ると、2万円台で発売される様子。価格的には無理すれば買えなくもない。

「一週間我慢しよう。一週間後にまだ欲しかったら買おう。」

と我慢をしてみました。2万円台のイヤホンは多くの失敗のなか稀に成功が出るという経験をしてきた価格帯。これより安いとだいたい失敗で、良いものだったとしても「値段の割には良い音に仕上がっている」という感想と共に二度と使用しないという結果になってしまっていました。少なくともフラッグシップのイヤホンを複数持っているような者が所有して満足するような音には出会えません。ところが 2万円台には「これはこれでアリかも」と思える機種が出てきたりします。Letshuoer S12 や MOONDROP KATO はそんな機種の一つでした。「iBasso でこの価格か。1DD の大型ドライバか。聴いてみたい。」と買いたい衝動が勝ってしまいました。

iBasso Audio

アイパッソオーディオは中国オーディオメーカーのひとつで、新興企業の多い同国のメーカーの中にあっては老舗ともいえるメーカーです。といっても今世紀に入ってからのメーカーなので日本や西欧のメーカーと比べてしまったら新興企業と言えるでしょう。

同社の最近の主力製品とえば DAP やスティック型DAC。新製品の発表も頻繁です。手にしたことのある方も少なくないのではないでしょうか。

iBasso の製品 (左上) DC04PRO (右上) DX320MAX Ti (左下) DC-Elite (右下) DX260

3T-154という商品名

様々なネット記事に素晴らしい解説があるので詳細は省きますが、この商品名はイヤホンに使用されているドライバーのスペックをそのまま商品名にしています。そして、それが本当にこのイヤホンの音の特徴になっていることを知ることになります。

3T : ドライバーの磁束密度

振動版を震わせて音を鳴らすドライバの磁束密度が 3T (単位テスラ)とのこと。この 3T というのは異常に高い値です。ドイツのメーカー beyerdynamic は自社のドライバーの磁束密度の高さを誇りテスラテクノロジーと称してブランド展開していますが、リンク先のドライバーで 1.2T です。また、私の所有している FOSTEX のヘッドフォン TH909 でも 1.5Tです。どちらも大型ヘッドフォンのドライバですから、イヤホンで 3T というのがどれだけ凄まじいかわかると思います。磁束密度が高ければ良い音が出るという訳ではありませんが、硬い振動版を歪ませず正確に震わせるには高い磁束密度というのは理に適ってはいます。

154 : ドライバーの直径

直径が 15.4mm のドライバを搭載しているとのこと。これは異常というほどではないですが極めて大きな値です。耳に入れるイヤホンで 15.4mm は攻めたサイズです。ちなみに、Letshuoer S12 は 14.8mm 、MOONDROP KATO は 10mm 、Sennheiser IE900 は 7mm です。低音をしっかり出すにはドライバの直径が大きいことが有効ではありますが、IE900 の例にもありますように大きければ良い音という話ではありません。

お値段など

さきほど、2万円台のイヤホンには「値段の割には」という感じではなく満足できるものがあるとお話ししましたので、あらためて Amazon へのリンクを貼ってみました。
時間の経過が理由でしょうか。執筆時点で確認したところ、何れも私が購入した時よりもお安くなっていました。中国のイヤホンはモデルチェンジが激しいため、待つと安くなる傾向がありますね。新製品に飛びつかず、評判が良いものがセールになるのを待つというのも手です。

最近は為替の影響で高くなっている面があるため、ドルでの売価を軽く調べたところ、S12 と 3T-154 が $149 、KATO が $189 でした。この 3機種の単純比較ですと、KATO は格上になってしまいます。

外見

今回は発売直後に購入したため何処も品薄気味でした。在庫を多く持てたであろう大手オーディオショップから購入しました。

開封

外箱はカラー印刷でした。この価格帯のもののほうが外箱がガジェットっぽく綺麗だったりします。ゼロ一つ増えるとシンプルか高級化するかの二択です。

iBasso 3T-154 を開封したところ

上下にスライドできる筒状のスリーブをずらすと、下から上に蓋を開くことができる箱が現れます。

箱から全ての付属物を取り出してみました。

iBasso 3T-154 の付属物

持ち運び用のイヤホンケースに様々なサイズのイヤーピース、ケーブルは 3.5mm アンバランスと 4.4mm バランス両対応と追加投資不要の完璧な構成です。初めての有線イヤホンという方にも安心ですね。
ケーブルのプラグ部分は六角レンチで固定します。私は 4.4mm バランスで環境を揃えていますので、さっそく交換してみました。

3T-154 付属ケーブルのプラグ交換

六角レンチも付属していますので、特に困ることはありません。外す際に捻ったりフックを外したりする仕組みではないので、そのまま引き抜きます。

第一印象

まずは純正の状態でと、付属のケーブルと最初から付属していたイヤーピースで使用してみます。HiBy R6 Pro II と Chord  Hugo2 で聴いてみました。「うーん」
1時間ほど模索したのち、エージングと称して据え置きアンプに接続し楽曲をループ再生させた状態にして放置しました。

数日後に取り出し、本格的に試行錯誤を始めました。

装着感や音など

第一印象はよくなかったのですが、半月ほど試行錯誤した結果こうして記事にしてもいいと思える結果になりました。

装着感

まず、何よりも「大きい」です。この大きさが装着感にも音にも影響します。MOONDROP KATO と比較した写真がこちらです。

(左) KATO (右) 3T-154

ご覧の通り一回りサイズが大きいです。マグネシウムを使って軽量化しているそうで、その効果か重さは KATO より若干軽いぐらいなのですが大きい。最近の TWS イヤホンを彷彿させるサイズです。小さくて抜群の装着感を誇る IE900 と比べると際立ちます。

(左) IE900 (右) 3T-154

同じ耳に装着するものとは思えないほどの違いです。

使用しているドライバの大きさに関する話を前項でしましたが、これを思い出せば当たり前のことで、面積で比較すると 3T-154 は IE900 の 4倍もの面積のドライバを使用しています。大きくないわけがありません。

試しに通勤で使用してみたのですが歩いていると耳からポロっと外れてしまいました。TWS イヤホンと異なり有線かつ Shure 掛けなので耳から落ちる心配はないのですが、歩かなくても首を軽く振るだけで緩くなるので相応の対策は必須です。この時点で、何故大量のイヤーピースが同梱されているかわかりました。これだけの種類があれば耳に合う外れにくいものを選ぶことができるだろうということです。

写真を見てわかる方もいらっしゃると思いますが、私は肌に吸い付く感覚のある Sednaearfit XELASTEC にしました。このイヤーピースを使い TWS の装着よろしく捻るようにして奥まで嵌めることで適切な装着感を得ました。フォームタイプのイヤーピースを潰して嵌め、外耳で広がることにより装着感を得る方法も有効かと思います。シリコンの滑るタイプを浅く装着するのが好きな方は苦戦するかもしれません。

前回 IE900 の記事で新たなリファレンス環境を得たと記しました。

soundsmind.hatenablog.com

その後の1発目イヤホンということで「ちょうどいいサンプルを得た」とばかりに比較を丁寧にしてみました。比較に使ったイヤホンはこちらです。全て 1DD ( S12 のみ平面駆動 ) なので良い比較になると思いますが如何でしょうか。

左から順に (上) KATO , 3T-154 (下) S12 , FW-10000 , IE900

FW-10000 と IE900 は反則だろうと思われる方もいらっしゃると思いますが、それらが手元にあっても使いたくなるようなイヤホンでなければ買い増しする意味がありません。「私は使わないけど値段の割には良い音」 という解説記事を書きたいわけではないので敢えて並べてみました。

それでは、比較で得られた特徴を色々と書いてみたいと思います。

3T-154 は高感度

非常に感度の高いイヤホンです。もちろん上記 5 機種では 1 番。過去マルチ BA 型を使用したときの印象に近いものがありました。アンプに AK PA10 や AK HC2、SU-AX01 を使用したときにサーっとホワイトノイズが聴こえるのは他機種でもわかるので当然として Chord Hugo2 や HiBy R6 Pro II を使用したときに聴こえるのには驚きました。1DD では良くも悪くもトップクラスだと思います。正直申しまして、普段からヘビーにイヤホンを使用していて耳にダメージが蓄積されている方は Hugo2 や Pro II のときのホワイトノイズは聴こえないと思います。私と同様に普段から耳に気を使っていらっしゃる方でしたら間違いなく聴こえるかと。演奏が始まってしまえば気になりませんので問題があるわけではありませんが、このイヤホンの特徴の一つと言えるでしょう。この感度の高さに、3 テスラの片鱗を感じました。

また、この高感度の影響でしょうか、リケーブルの変化も大きいです。手持ちのケーブルをいろいろと試して純正よりも高音がスッキリしているものに変えました。もし納得いかない音色だったときにはリケーブルを試すことをお勧めします。

音場の広さ 箱鳴り

広い音場があるかというと、それを特筆するほど凄いものはないです。写真に挙げた 1DD 比較ですと、マルチ BA に比べどれも広い方になってしまうので至って普通です。今回の 5 機種の比較ですと FW−10000 の次ぐらい、いや KATO といい勝負といった感想です。広い音場というのは裏返すとイヤホンの筐体内の響き。すなわち箱鳴りがあるということで、この機種にはそれがあります。もし、癖少なめでそこそこの音場も求めるなら KATO のほうが良いです。

FW−10000 のシンバル音には独特のクァーンという艶っぽい響きや距離感がありまして、筐体で作り出される効果の一つとして実感ができます。3T-154 にも同じような傾向、音色や効果の詳細は違うのですが、筐体からもたらす効果という意味で同じようなものが見られます。全ての音にドライバから直接届く音とは別に筐体内で一度反射して届くものが含まれているように感じます。この効果が音の鋭さを緩和し独特の余韻を与えています。

逆に言いますと定位はダメです。ホールの反響音も含めて音源に落としたクラッシックなどは距離感が全て失われてしまいます。一方、距離も位相も関係なく打ち込んだ楽曲はピタッと嵌ります。よくボーカルを限界まで音圧上げてミックスした女性声優の楽曲でサ行が刺さるとおっしゃられる方がいらっしゃいますが、そういった曲を聴かれる方は一度お試しになると良いかと思います。アタックの処理がとか、音の消え際がリバーブかエコーかの区別がといったモニター的なものには不向きですが、前述の系統の楽曲を楽しむには向いていると思います。

程よい癖と響き

鋭さが削がれ、そこそこの響きがあるため「聴き疲れ」が少ないイヤホンです。明らかに S12 や KATO よりリラックスして聴けます。感度が高いイヤホンなので、音が潰れて解像度が出ていないわけではありません。しっかりと分解できています。出来ていますが箱の響きで特にアタックや消え際がこのイヤホン独特の音に変わっています。

定位なら S12、再生機や音源の良さを素で感じるなら KATO、聴き疲れせず音楽をながら聴きするなら 3T-154 といったところでしょうか。有線イヤホンの最初の一本目とかハイレゾの高音質生演奏録音を楽しむとかですとお勧めし難いのですが、バリエーションの一つとしてであればありだと思います。スマホTWS イヤホンは卒業して廉価な DAP を所有したという方が、KATO と 3T-154 の2本を持っているとかでしたら当面は満足できるのではないかと思います。

もちろん、一桁高いイヤホンと比べたら明確な差があります。しかし、値段の割にはというような評価をして使わなくなるイヤホンでなく、たまに使いたいと思えるイヤホンでした。