オーディオ 試行記録

多くの個人プログやネット記事に助けられました。私の経験を還元したくです。

Amazon Music HDをビットパーフェクトで聴く(後編)

こちらの記事は後編です。

前編はこちら

soundsmind.hatenablog.com

前編にてデータがビットパーフェクトでオーディオ機器に届かないと本来の性能が発揮できないこと、OS 側の事情によりビットパーフェクトでデータを出力するようアプリ開発するのは楽でないとお話しました。

では、実際に日本国内でサービス展開された高音質音楽ストリーミングのビットパーフェクト対応事情を記したいと思います。以下、2022 / 9 時点のものとなります。

mora qualitas

既にサービス終了していますので簡潔に。PC と iOS が対応、Android が非対応でした。当時、PC で対応していた価値が大きく、PC オ-ディオ向けに機材をセットしていた方にとっては文句ない状態でした。しかし、配信楽曲数が少なかったこと、ほんの数か月前に Amazon が先行してサービスを開始したこと、何よりも PC オ-ディオで多額の投資をしていたオーディオファンには、Tidal、Qobuz という海外の高音質ストリーミングサービスに加入されていた方が多かったことがあり、十分な顧客獲得に至りませんでした。

なお、当時 Android でもビットパーフェクト対応すると告知していたのですが、実現することなくサービスが終了してしまいました。Android は開発者泣かせの曲者です。

Apple Music

こちらも簡潔に。iOS (iPhone or iPad) + ミュージックアプリ の組み合わせでしたらビットパーフェクトです。WindowsAndroid は各々の OS の変換が入ってしまいます。macOS については未確認です。すでに iPhoneiPad をお持ちでオーディオ機材(DAC)の USB 端子にケーブルで iPhone をつなぐだけという環境でも快適に使用できる方にとっては、意外と悪くない選択です。

ところが、そのまま接続できるケースは少なく、基本的には以下のアダプターを介す必要があります。iPhoneiPad を主役にして脇役の機器を接続するときに使う OTG ケーブルと呼ばれる類のものです。

こちらのアダプタであれば、たいていのオーディオ機器で使用できます。多くの電力を消費してしまう機器が接続されても大丈夫なように、給電しながら使用するための Lightning コネクタ差込口があります。

こちらのアダプタは接続できる機器に制限があります。多くの電力を消費してしまう機器が接続されると、iPhoneiPad 側のバッテリーが耐えられなくなるため、iOS 側で接続を拒絶します。電流 0.2A が上限になっています。電力に換算すると 5V × 0.2A で 1W です。自分の所有している機器が 0.2A 未満かを簡単に知る方法はないので、ご自身で計測できる方でない限りは試した人に聞くことをお勧めします。

なお、Lightning コネクタでなく USB-C コネクタを採用した新しめの iPad でしたら上記アダプタはもちろん不要です。

また、オーディオ機器によっては上記のアダプタ不要という「iPhone 対応」を謳っているものもあります。機器側に OTG ケーブルの部分が最初から内蔵されていたり、アダプタが同梱されていたりします。新たに購入される方は、対応している機器を選ぶのも手です。

たまたまビットパーフェクト、一時的なビットパーフェクト

本題の Amazon Music に話題を移す前に。

OS の設定を変更して一時的にビットパーフェクトの状況を作るということも出来なくはありません。前編で、OS は仕様上様々なアプリが鳴らす音を特定の周波数に変換すると記しました。この変換後の周波数は OS の設定で変更できます。ビット深度も変更できます。この変更を聴きたい楽曲と一致させれば、余計な掛け算や割り算をされずに済むという算段です。同様の理由で、音量を最大にしておく必要や他のアプリは一切起動しない必要があります。

Windowsのプロパティ画面

ここで周波数とビットレートを選択します

上図は Windows での設定画面です。ここで、再生する楽曲を変えるたびに設定変更するという作業が「たまたまビットパーフェクト」状態の作成に必要な作業の一つとなります。

Amazon Music

いよい本題の Amazon Music です。ビットパーフェクト出力可能なお勧め機種については、2022/11/28 に機種追加編 [ Amazon Music HDをビットパーフェクトで聴く(機種追加編) ]として別記事にしました。iOSAndroid については、残念ながらビットパーフェクト出力に対応できていません。手元機材の写真と共に説明します。

iOS

iOSでのデジタル出力は、すべて 192kHzへ変換されます。Amazon music アプリによるオーディオ品質表示と、実際に機材に届いているデータの周波数表示の写真をご覧ください。

44.1kHzの楽曲 ⇒ 192kHz のデジタル出力

48kHzの楽曲 ⇒ 192kHz のデジタル出力

96kHzの楽曲 ⇒ 192kHz のデジタル出力

192kHzの楽曲 ⇒ 192kHz のデジタル出力

ご覧の通り、Amazon Music アプリの表示はアテになりません。楽曲データの周波数で出力しているかのように表示されていますが、アプリ側で独自にデジタル出力処理を実装されているわけではなく、実態は iOS 任せ。iOS のデジタル出力は 192kHz で、すべてこの周期数に変換されてしまいます。詳細は前編をご覧ください。

192kHz の楽曲に限り、前項で記しました「たまたまビットパーフェクト」の可能性があります。

Android

Androidでのデジタル出力は、使用している機種と設定によって変換される周波数が異なります。私の手元にある2機種は、それぞれ 96kHz と 192kHz に設定しています。以下に 96kHz に設定している端末の写真を貼ります。

44.1kHzの楽曲 ⇒ 96kHz のデジタル出力

48kHzの楽曲 ⇒ 96kHz のデジタル出力

96kHzの楽曲 ⇒ 96kHz のデジタル出力

192kHzの楽曲 ⇒ 96kHz のデジタル出力

こちらの Amazon Music アプリの表示もアテになりません。オーディオデバイスへのデジタル出力を独自実装しているわけではなく、Android OS 任せになっています。

192kHz 出力に設定しているAndroid端末の写真も添付します。

192kHz出力に設定したAndoid端末
Android OS を搭載した DAP では?

結論から申します。ビットパーフェクトではありません

前編からこの章まで丁寧に記しましたように、音楽を再生するアプリから直接デバイスに楽曲データを送らない限り OS が邪魔をします。

Android OS を搭載した DAP には必ず専用の音楽再生アプリがインストールされております。購入した音楽データを本体内のメモリーや SD カードに保存し再生させる限りにおいては、間違いなくビットパーフェクト再生できるようになっています。専用の再生アプリですから、ビットパーフェクト再生どころか高音質化やイコライザー機能などの価値も付加し、最高の音質を目指して搭載したデバイスを直接叩きます。これは、専用の音楽再生アプリだけの話です。

専用の音楽再生アプリを使わず別のアプリを使った段階で、音質は使ったアプリ次第となります。使ったアプリがビットパーフェクトでデータを送る機能を有すればビットパーフェクトになりますし、有しなければ Android OS 任せです。USB Audio Player PRO を使えばビットパーフェクトにできますし、Amazon Music アプリであれば Android OS 任せです。

前章で私が使用している 2台の Android スマホを、それぞれ 96 kHz と 192kHz に設定していると話しました。Android OS を搭載した DAP もそれと一緒で、192kHz に設定して出荷しています。故に、Amazon Music アプリの挙動も前章で書いたスマホと同じです。低周波数の楽曲を高音質化して 192kHz にしているわけでもありません。個人ブログで 「高音質化して 192kHz にしている」と書いているのを見たことがありますが、もちろん誤りです。DAP メーカーのサイトにはそのようなことを全く書いていませんし、むしろ Amazon Music アプリのことは「とりあえず動けばいい」「積極的に話題にしたくない」「動作保証さえしたくない」と意識していらっしゃるのが垣間見えます。

時折、Twitter などで Amazon Music アプリの写真を貼って「ビットパーフェクトで聴いてます」等と書いていらっしゃる方がいらっしゃりますが、これも「たまたまビットパーフェクト」でない限りにおいて間違いです。

高価な DAP と高価なイヤホンをせっかく用意しても、Amazon Music アプリで CD 音質の曲を再生しているときには 44.1kHz を 192kHz にするという無惨な変換をしたものを聴いていることになります。こういった事情を知らずに「Amazon Music は音質が悪い。特にHD楽曲」とおっしゃっているのを目にすると「そうではないのだけど、良い耳を持っているな」と感心します。

WindowsAmazon Music アプリの排他モード

「たまたまビットパーフェクト」の項目で Windows のプロパティ画面を貼ったついでに、WindowsAmazon Music アプリの排他モードについて触れておきます。

Windows のプロパティのある排他モード設定

※以下、2022/11/29 加筆し表現を変えました。
Windows の場合、自前でドライバを用意しなくても OS 側にある API の WASAPI*1 を用い、かつ楽曲変更のたびに楽曲データ内の周波数・ビットレートを参照して排他モードにて初期化するプログラムを組めば*2ビットパーフェクトで再生できます。

Amazon Music HD でのビットパーフェクト再生について書かれた記事にて、排他モードでビットパーフェクトな送り出しが可能になるかのように書かれたものを見かけたことがあります。これも結論から申しますと誤りです。

Windows には様々な音楽再生アプリがあり、そのなかにハイレゾ音源をビットパーフェクトで送り出しているものも複数存在します。Windows 版の Amazon Music のアプリに関してもアプリ内に「排他モード」のスイッチがあり、他の音楽再生アプリのようなビットパーフェクト出力に対応していそうに見受けられます。しかし「排他モード」のスイッチを有効にしても残念ながら楽曲ごとの周波数には切り替わりません。

WindowsAmazon Music アプリで排他モードの設定ができるようになったというのは、前編 の記事にて説明しました OS の行う邪魔「周波数を変える」「他のアプリの音を混ぜる」のうちの後者だけの状態に見受けられます。

最後に

以上、Amazon Music をビットパーフェクトで聴くと称し、他のストリーミングサービス含めたビットパーフェクト出力の難しさについて話をしました。

結論、Apple Music は iOSバイス一択。Amazon Music なら BlueSound NODE 、ないし Heos デバイス。それ以外は全滅。なんとも残念な状態です。

※2022/11/28 更新
情報が古くてすみません。Amazon Music でビットパーフェクト出力できる機種が増えており、一機種購入し、お勧めできるものでしたので記事にしました。

soundsmind.hatenablog.com

後日談

以下の記事を書いているときに Appleディベロッパーサイ卜にあるオーディオAPIに関するリファレンスを見ました。

soundsmind.hatenablog.com

iOS であればビットパーフェクトの実装は難しくなさそうでした。「全て 192kHzになるのは、あそこに 192kHzと書いてあるせいで、そこを楽曲データの周波数にするだけで・・・」というような箇所も見つけました。Android に比べると OS 側でサポートされる部分が多そうです。AppStore からダウンロードした様々なアプリを組み合わせて挙動も確認したのですが面白かったです。条件によってはビットパーフェクト再生しているアプリを裏で動かした状態でケームのSEがミキシングできていました。

Apple Music と mora qualitas は iOS 版がビットパーフェクトだったことをはじめ、iOS の様々なハイレゾ再生アプリにある共通点など「そういうことか」と解けることが次々と出てきます。

であれば、次は何故 iOS 版の Amazon Music アプリをビットパーフュクトで実装していないのだろうかという疑問が生まれます。この疑問は、考えれば考えるほど残念な気持ちになります。

*1:WASAPI Windows Audio Sessiion API の略

*2:「たら、れば」の話ですが、もしビットパーフェクト出力を前提として楽曲変更に合わせ再生周波数を変えるとなると、利用者が接続しているデバイスが 96kHz 上限のときに192kHzの楽曲を再生しようとしたら音が鳴らない状態になります。そののときに限りビットパーフェクトを解除してダウンサンプリングをするのか、それとも再生できないとエラー表示するのか等の仕様決めが必要です。Amazon Music のようにコアファンだけでなく幅広い方が利用するアプリで上記のような実装をすると「 192kHz のものが鳴らない」「勝手に周波数が下がった」等の問い合わせが一定数届き、利用者の環境に依存するので返答を画一的にできず手間を要することが想像できます。だったら鳴らない曲と鳴る曲を自ら作りだすビットパーフェクトのような実装は避け、「とりあえず音が鳴る状態の PC なら確実に Amazon Music アプリでも音が鳴る」という方針を選んだとしても理解はできます。