オーディオ 試行記録

多くの個人プログやネット記事に助けられました。私の経験を還元したくです。

FOCAL STELLIA に規格外のイヤーパッドを装着

フランスの老舗オーディオメーカー、FOCAL社のヘッドフォン“STELLIA"に専用品ではない規格外のイヤーパッドを装着しました。同社ヘッドフォン向けのサードパーティイヤーパッドは少なく、また UTOPIA や CLEAR などにも適応しますので STELLIA 以外の製品をお使いの方にも参考になさってみてください。

購入から決断まで

購入動機

基本的にヘッドフォンは無試聴で購入しています。複数のヘッドフォンを所有し気分で使い分けており、もし「あるヘッドフォンを2ヶ月間全く使用しなかったら」私でなく使って下さる別の方の手元にあった方が良いだろうと判断し手放しまして所有数を調整しています。
これを随分と繰り返し、散財の果てに辿り着いた結論のひとつが「完全開放型は自分には不向き」でした。家族のいる居間で使用したり、一人でもエアコンの作動している部屋で使用したりするため、音がダダ漏れなのと外音を全く軽減できないのは不便でした。そのため、音を比較的気に入っていたとしても滅多に使用しないし、また積極的に使用したいとも思えませんでした。住環境が変わらない限り完全開放型のヘッドフォンを買うことはないと思います。
そんな結論に辿り着いたあとに購入したのが“STELLIA“でした。密閉型であることはもちろんのこと、部屋に飾ってお洒落そうですし、既に所有しているものと違う音を奏でそうな期待感がありました。

www.focal.com

購入後

開封し手に取るところまではパーフェクトでした。素晴らしい質感と仕上がり、居間のヘッドフォン置き場であるライトブラウンの木製ラックに合うレザーの色調。ただの道具を越えた愛着を持てそうです。そんな幸福感のなか試聴を始めると地獄に突き落とされました。
「しまった。やっちまった。」

音の印象

高音の抜けと細かな描写が全くできていないと感じました。上原ひろみさんの"ALIVE"の冒頭1分で弱いバスドラの音の立ち上がり、乱打されるシンバル音の分解と音色、ピアノの音の粒立ちをチェックします。 music.amazon.co.jp 「FOCAL社の製品のなかではベリリウム振動板を使った UTOPIA と STELLIA が最も高音の描写に優れると言われていてコレか。べリリウムでない下位の製品の音なんてどうなってしまうんだ。」と思わず発してしまいました。とはいえ、しっかり聴くとクセは明らかに感じますが、音の輪郭が潰れているわけではない鳴り方です。
しばらく聴き流したところ「これはこれでアリかも知れない」という結論になりました。高音は上記の通り、低音は丸い感じがするけど決してボワついて締まりがなくなっている訳ではない、そして中音には圧倒的な厚みを感じます。「音が丸い割にはにゴチャゴチャせず分離できている。どういうことなのか。」と意識を集中したところ、これは空間だとわかりました。鋭い音でも広い空間で発生源から離れて聞けば耳障りな感じは多少軽減しますし、様々な帯域の音も混ざり合います。「解像度の高い音を離れて聴いたら、どんな感じに聴こえるか」を「耳の傍で鳴らしてみました」という音です。モニターヘッドフォンとは対極の世界ですね。モニターヘッドフォンで「音質良いけど音楽として楽しめない」とか「音がスカスカ」と感じたら STELLIA の出番でしょう。

装着感

1時間で耳が痛くなりました。それ以上の時間は無理。音色は他社にはない唯一無二の仕上がりで存在価値を見せつけてくれましたが、装着感はOK、NGの2択なのでフォローのしようもなく「私にはダメ、無理です」という一言しかありません。
STELLIA は 435g と決して軽くはない重量を、ヘッドバンドと両耳のイヤーカップ全体を使い包むように分散させます。ですので、重くて辛いとか頭頂部が痛くなるようなことはありません。この点はとても良くできています。
では何がダメかというと、イヤーパッドの内径が小さい、イヤーパッドが薄い、ヘッドバンドの側圧が強い、の3点がセットになってしまったせいで、他者より少し大きい私の耳が容赦なく痛めつけられているという点です。
正直言いまして、20万円以上するヘッドフォンは50mmを超えるような大きなドライバを使いつつイヤーパッドも凝った作りをしているものが多く、耳が痛めつけられるものがあること自体が想定外でした。この価格帯の製品では初めてです。
製品企画者や設計者の狙いとしては理解できますし共感もします。外で使用して落下しないような側圧、ズレや歪みを最小限に抑えたいイヤーパッドの圧さ、40mmドライバーに合わせ設定した内径。きっと、このサイズで落ち着くんでしょう。外使いを想定したワイヤレスノイズキャンセリングのヘッドフォンは揃いも揃って高側圧でこのサイズ感です。
しかし、この薄さのイヤーパッドに対し高い側圧でパッドを少し潰すような力で抑え込んだら、耳はイヤーカップ内でドライバを覆うプラに当たります。この内径だと大きな耳は収まる際に曲がります。無理なものは無理なんです。

そして装着感改善へ

音はオンリーワンの存在として評価できます。デザインは飾って最高です。しかし、耳は痛くて使えたものではありません。綺麗なまま再梱包し、次のオーナーの手にお渡しすべきか否か悩みました。手放すには惜しいため「装着感を何とかしてみよう。結論はそれからでも遅くない。」と、一度藻掻いてみることにしました。

側圧調整

前回記事にした ATH-WP900 同様、ヘッドバンドを破壊しないよう注意しながらガバっと広げ...たいのですが恐くて出きません(涙)。ヘッドバンドが硬いため力の加減がわからないのとお値段が頭をよぎるのとで、思い切って力を加えられないのです。
結局「気持ち緩くなったかな。いや、まだ全然変わっていないかも。」という程度で止めてしまいました。耳の痛む原因は側圧だけでなくイヤーパッドにもあります。側圧をユルユルにしただけでは良くならないことはわかってますし、耳が痛まないほどユルくしてしまったら音質への悪影響が計り知れないことも想像つきます。

イヤーパッド交換

DEKONI 唯一のサードパーティ

市販のイヤーパッドを買って解決できれば楽で有り難いです。私が調べたなかでは唯一であるDEKONI社のものを買ってみました。

STELLIA のイヤーパッドは5ヶ所あるプラスチックの突起をイヤーカップ側の穴に差しこみ、バチバチッと嵌め込むようにして取り付けます。外すときは力任せにバチバチッと引き抜きます。ソコソコ固いので勇気が必要です。
イヤーバッドを外したところ。小さな穴はネジ穴。大きな穴はイヤーパッドの差し込み穴。
外した純正イヤーパッドと DEKONI のイヤーパッドを並べてみます。写真にありますように、左側の純正のイヤーパッドは耳に近い側とイヤーカップに近い側で素材を変えてあります。イヤーカップに近い側がメッシュになっており、この部分で音の反射を減らすことにより音の響きが少なくなる効果を作り出しています。
左が純正、右がDEKONI製
DEKONI社本体の通販では、この STELLIA仕様のイヤーパッドを販売しています。日本では代理店が取り扱っておらず国内のAmazonやオーディオショップなどでは残念ながら買えません。 dekoniaudio.com 写真にありますように、DEKONI製は純正よりほんの少し厚いです。そのため、装着感は若干ですが改善しました。しかし、1時間程度で耳が痛むという状況には変わりありませんでした。

そして改造へ

1~2mm厚さが変わっただけは十分な改善は期待できません。装着感の良い他のヘッドフォン並みに大きなイヤーパッドを装着しなければ改善しないでしょう。しかし、この特殊な装着構造では他のサードパーティーメーカーが FOCAL 向けイヤーパッドを発売するとは思えません。

装着機構の取り出し

「この装着機構を取り出し、他の快適なイヤーパッドに移植できないだろうか?」 少々もったいない気はしますが、分解してみることにしました。

バリバリと剥がしてみました
ラバーでできたカバーを剥がすと、突起のあるメインのプラスチックパーツが現れました。さらにメインパーツとイヤーパッドの表皮との接合のための、薄い透明のプラスチック板がありました。
スポンジ・透明の板・内側からはみ出させた薄い表皮・メインのパーツ・外側からはみ出させた厚い表皮・ラバーカバーというサンドイッチのような5層になっており、この各層を接着力が高いが薄塗りの何かでしっかりと接合してありました。
手間のかかる仕事。イヤーカップイヤーパッドの間に全く隙間のできない構造。分解により「素晴らしい仕上がりだ。価格も良心的。」だと知ることができました。これは良い製品です。 純正も同じ構造をしているのか気になりますね。
復元不可能なやり方で壊してしまいましたので、当初の目的である他機種向けイヤーパッド転用に必要そうなカバーと突起のあるメインのパーツだけを再利用できるよう取り出しました。
取り出したパーツ

イヤーパッドの選定

少々サイズが合わなくても取り出したパーツを移植さえできれば取り付けられるだろう、そう考えて取り付けるイヤーパッドを入手します。
既に他のヘッドフォンで使用して気に入っているイヤーパッドを使いました。Brainwavz社のイヤーパッドで耳の後ろ側が厚くなっているものです。

国内では取り扱いがないため、上記のサイトから直接購入しました。日本への送付もしてくれますが、さすがに日本語対応ではございませんので、その点はご注意ください。Amazon並行輸入品を販売している業者さんもあるようですが、お値段が直販の倍以上していましたのでご紹介は控えます。
こちらのイヤーパッドは非常に厚いです。

Brainwavezのイヤーパッド。厚く大きい。

装着機構の移植

上記のイヤーパッドに取り出した装着機構を移植します。
突起のあるメインパーツを差し込みイヤーパッドに穴を開け、カバーを上から貼ります。接着は分解したときに付いていた接着剤のようなものがベトベ卜と残っており追加不要でしょう。

装着機構を移植
移植結果がこちらです。自分専用のSTELLIAイヤーパッドの出来上がりです。
出来上がったイヤーパッド
純正、DEKONI製、Brainwavezで自作を並べて比較するとこんな感じです。
(左から)純正、DEKONI製、Brainwavezで自作
DEKONI製を分解してしまったのに比較写真を撮れるところでご察しかと思いますが、DEKONI製はタイプ違いを2つ買い純正と音色の差が大きい方を分解しました。

結果

勿論ですが、耳の痛みは無くなりました。バッチリです。他のヘッドフォンで快適なことを確認済のイヤーパッドですから失敗する訳がありません。
でも、ダメでした。
何がダメかと言いますとイヤーカップにしっかりパチンと装着できないんです。ぐっと力を込めて嵌めるのですが、嵌める手の力を緩めた瞬間にボコッと反発して外れます。それが5箇所の突起のうち、1〜2箇所で起こります。残りの突起は嵌っているのでとりあえず使用に耐えられそうなのですが、ちょっと手に持ち揺らすだけでイヤーパッドがポロっと外れて落ちます。
突起が弱くなってしまったのか、それとも長さが足りないのか。どちらも可能性がありそうですが特に後者がありそうです。上の比較写真をご覧になると突起が短くなっているように感じられると思います。また、突起が短くなる心当たりもあります。
DEKONI 製のイヤーパッドのサンドイッチ構造は無駄なく完璧です。3種のプラスチック板に挟み込んだパッドの革は薄くジャストサイズに切り取られた円形でした。比してこちらのBrainwavzのイヤーパッド。皮を力込めて引っ張り、イヤーカップの縁に差し込むタイプのヘッドフォン用に作られてます。革も厚く、引っ張って切れ目のできないよう縁取りに加工もしてあります。そして何よりも、STELLIA のサイズと異なります。サイズを無理に合わせれば一部に弛みが出ます。これは当然の結果でしょう。
「外れやすいけど、まあいいや。耳も痛くないし。」と、これで使い続けました。一応完成です。

リベンジ

半年後ぐらいでしょうか。外れては嵌め直すを繰り返したため、イヤーパッドの突起が折れてしまいました。揺らすと外れやすい程度のものが、重力にさえ耐えられない載せるだけのものになってしまいました。まあ、只の手作りイヤーパッドですから、綺麗に保存してある純正品やDEKONI製に変えればいいだけの話なのですが、私の耳の場合はそういう訳にもいきません。もう一度手作りにトライするか、手放すかという大問題になってしまいます。
とはいえ、再度パーツ取りをしても出来上がるものは同じ出来損ないですから分解するのは無駄。学びがあった初挑戦の削回とは異なります。

調査

とりあえず調査からやり直すことにしました。STELLIA 使用者だけでない、UTOPIA やCLEAR MG などを含めた全世界の FOCAL 社ヘッドフォン使用者がこの構造のイヤーパッドを使っています。何かしら悩みを抱えて解決策を講じた人が他にいても良さそうです。
ネット検索をいろいろしてみましたが、新たに販売し始めたサードパーティ製品は無さそうでした。次に、私のような自作ので何か出てこないか調べました。たまに検索するという行為を何日か繰り返したら気になるものを見つけました。

パーツ購入

それは、一度も利用したことないアリババにありました。ソフトバンクの孫さんやジャックマーさんの名と共に経済ニュースを通じて馴染んだ存在でありコンシューマーとして意識する存在ではありませんでした。
DIY-プラスチック製の取り付けリングベース : AliExpress
失敗してもいい価格だ、DEKONI製イヤーパッドをバラしたことを考えればたいしたことない、等と割り切り注文しました。初めてのアリババはFOCAL社ヘッドフォン用イヤーパッドに合わせたパーツとなりました。商品は3週間ほどで無事に到着しました。

AliExpressに出品されていたパーツ
前回使用したDEKONI製イヤーパッドのパーツと比べてみました。完全に同一のようです。
左はDEKONI製の分解パーツ、右はアリババで購入したパーツ
同一だと知ってしまうと、仕組みを知っているだけに逆に気になることは増えます。このパーツはそもそも単体販売していいのか否か。薄いプラスチック板とラバーカバーと合わせて三点で機能する設計なのに、なぜ突起のあるメインパーツだけで販売しているのか。そして究極論、FOCALの純正イヤーパッドはこのパーツを使っているのか等等。
こんなこと気にしても仕方ありません。購入したパーツを使って組み立てます。前回は突起の長さを十分に確保できませんでしたから、今回は分解して得たラバーシート使用しないで取り付けてみます。
ラバーシートを使わず、購入したパーツだけを使用。
イヤーカップに嵌めてみました。今回は5箇所全部バチンと嵌りました。やはり前回は突起の長さを十分得られていなかったようでした。
比較用にDEKONI製イヤーパッドとBrainwavzを使った自作イヤーパッドを交互に付けた写真を添付します。サイズの違いがよくわかるかと思います。
左はBrainwavez製の自作、右はDEKONI製

最後に

前回の ATH-WP900 で詳しく記しましたが、イヤーパッド交換は音質に大きく影響します。今回の交換は音がタイトになり低音の響きが増した一方で少し距離感が生まれました。
この STELLIA のイヤーパッド交換は、作業を始めたのが執筆の一年ほど前でして、遂に UTOPIA の新作SGが発売された今となっては情報が古いかも知れません。ご容赦頂ければ幸いです。古いついでに、NW-WM1Z との写真を貼ります。こちらも春に新機種の NW-WM1ZM2 が発売され、古くなってしまいました。

FOCAL STELLIA と SONY NW-WM1Z